“経済の街”香港の経済を犠牲にした油断なき新型コロナ対策

従業員のワクチン接種等の条件を満たせば営業時間も緩和 写真:AP/アフロ

社会

“経済の街”香港の経済を犠牲にした油断なき新型コロナ対策

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日本は、世界的に見れば新型コロナウイルスの感染拡大を抑えた国の一つと言える。しかし、イギリス由来の変異株「N501Y」は東京・関西などに緊急事態宣言を発令、実施区域はその後も広がっている。一方香港は、日本ではとても実現できないような厳しい防疫対策を行うことで感染拡大をうまく抑えている。重要なのは、感染対策は人々の考え方ではなく、仕組みによって実現しているということだ。

終息宣言が出るまではずっと緊急事態

5月19日現在、香港の累計感染者数は1万1828人、入院者は47人、死亡者210人、新規感染者は1人だ。一方、ワクチン接種者は、1回目を受けた人が120万2405人(18.3%)、2回目も終えた人は82万4151人(12.6%)。

対して、日本の累計感染者数は約70万人、入院・療養中は約6万7000人、死亡者約1万2000人、新規感染者は約5800人だ。ワクチン接種は、1回目523万人、2回目234万人となっている。

数としてはいずれも日本の方が多いが、感染対策は香港の方がかなり厳しい。日本は第〇波を越えると自粛制限を解除し、結果何度も自粛制限を発令し直しているが、香港は終息宣言が出るまではずっと緊急事態という考えがあり、何らかの対策を打ち続けるのが基本的方向性だ。

16分類・17項目の感染対策

その基本となるのが、公共の集まりにおける人数制限で、最も厳しいときは最大2人までだった。つまり4人家族が歩くときは2人ずつで歩くほかない。公共の場および公共交通機関利用時のマスク着用義務や、香港版COCOAともいえる接触者追跡アプリの「安心出行(LeaveHomeSafe)」のQRコードを店舗の入口などに掲示しなければならないというのもある。

その上で、街中の施設をレストラン、バー・パブ、アミューズメント施設、フィットネスセンター、パーティールーム、ナイトクラブ、スポーツ施設、ホテルなど16のカテゴリーに分類し、それぞれで感染対策を実施。

例えば、レストランなら店内飲食は18時までで、座席数の50%まで。フィットネスセンターなら1クラスあたり4人まで、生徒間の距離も1.5メートル離す。カラオケなら客が使用した後にマイクなどの消毒義務、収容人数の50%までなど、17項目にわたって細かく規定。これらを1週間から2週間単位で状況に合わせて細かく変更していく。

その上で、飲食であれば、従業員全員が1回ワクチンを打てば営業時間の延長が認められ、従業員全員が2回のワクチン接種終了であればさらに緩和するという方策を取る。

日本では飲食ばかりが対象にされるため不満が出るが、香港の場合は16ものカテゴリーに網がかけられているので「経営は厳しい」という不満は出るが「不平等だ」という声はほぼ出ない。

香港では日本のように感染状況をステージ1~4という分け方はしないことから、規制の緩和と厳格化の目安となるような基準もない。政府はその状況を利用して、世論が緩和に踏み切ってもいいだろうと思うところで、もう1週間だけ延長するということがある。もちろん、その際はその根拠を記者会見で説明している。

局所的ロックダウンでクラスター潰し

日本でも昨年から保健所の職員がクラスター潰しを行ってきたが、現在の香港では、「1つのビルで14日間に2件以上の新規感染者の発生、または1人でも感染経路がわからない事例が出た場合、さらに下水からウイルスが発見された場合」は一定地域またはマンション1棟だけを封鎖する小さなロックダウンを行う。そして、指定された地域またはマンションの住民全員にPCR検査を実施することで未発見の陽性者をあぶりだす。

政府から公告が出されると警察は封鎖線を敷き、衛生関係者が道路にPCR検査用の仮設テントを設営。そして、政府担当者がマンションの1軒1軒を回ってPCR検査を行わせる。封鎖の間、基本的に住民は封鎖線から出られないため、政府は食料や消毒液、ベビー用品などの必要な物資の提供を行う。この“ミニロックダウン”ともいえる局所的な対策は政府関係者100人単位で行われ、一晩で完遂する。

これよりも感染状況が深刻ではないと考えられる場合は「〇〇マンションの住民は××日までにPCR検査を受けなければならない」という官報が出され、対象者はそれに従わなければならない。

世界最長、21日間の強制隔離

水際対策は、日本と同じように在留資格を持たない外国人の入境を禁止している。さらに状況によってはフライトの停止なども行う。

国・地域ごとの感染状況によってグループA1、A2、B、C、Dの5段階で区分けして防疫対策を実施。A1が最も厳しく、72時間以内の陰性証明書の提出、空港到着直後にPCR検査、香港政府指定ホテルでの世界最長といわれる21日間の強制隔離(隔離中に4回のPCR検査、破ると刑事罰)。隔離終了後は7日間の自主健康管理期間となり26日目にもPCR検査を受けなければならない。

日本はグループBに属し、ワクチンの接種を終えていない人はグループA1とほぼ同じ条件だが、隔離終了後の7日間の自主健康隔離期間が無い。2回のワクチン接種を終えた人は隔離期間が14日間に短縮され、PCR検査は3回に減る。隔離終了後の7日間は自主健康管理期間で2回のPCR検査を行う。

“経済の街”の経済を犠牲にした新型コロナ対策

これだけのことを徹底していることで、日本で猛威を振るっているイギリス由来の変異株N501Yは、香港に入ってきてはいるが市中感染が起こっておらず感染拡大が起こっていない。

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)を経験したことから、“経済の街”である香港が、経済を犠牲にしてでも条件の緩和に慎重になっている点は興味深い。日本のコロナ対策の問題は、見通しが甘く対応が後手になったり、基準がはっきりしない恣意的な運用をしたりする点だ。香港の例はそれらが起こらない厳しい運用になっており、そのレベルでやってもコロナは終息しないということを示している。

日本は夏に世界的なスポーツイベントの開催を控えているが、香港のコロナ対策と比較した際に見えてくるのは、日本政府はコロナ終息以外に優先していることがあるのだろう、ということだ。