自動運転に欠かせない技術と企業 メーカー単独では困難

2021.6.19

技術・科学

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自動運転に欠かせない技術と企業 メーカー単独では困難

自動運転の実用化に向けて着々と技術開発が進んでいる。ニュースではトヨタなどの自動車メーカーや、業界への参入が予見されるGoogleといったIT企業が注目されがちだが、実は技術を提供しているのは他社だったりする。縁の下となる企業の動向をみると自動車業界の今後が見えてくるかもしれない。

【カメラ×画像認識AI】競合同士で同一企業に出資するケースも

自動車業界ではConnected(通信)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の頭文字をとった「CASE」が開発の主流となっている。なかでも自動化は人の「目」や「頭」の代わりとなる技術など、「C、S、E」よりも幅広い技術を網羅する必要がある。

自動運転では、道路上の車線や人間を認識するため、人の「目」の代わりとなるカメラと、「脳」の代わりとなる画像認識AIが搭載されることになる。カメラは複数あると、それぞれのカメラからの見え方の違い(=視差)によって距離を測れるようになるため、ステレオカメラが主流となるはずだ。

国内販売のシェア5割を誇るトヨタの新車における自動ブレーキ搭載率は9割を超えており、現在の車載カメラメーカーが自動運転用のカメラを供給するようになるだろう。カメラは日本のお家芸ともいわれていたが、残念なことに車載カメラは各国のメーカーが生産している。日本ではトヨタ系列のデンソーが生産するほか、スウェーデンのVeoneer(ヴィオニア)社も生産しており、こちらはスバルの「新世代アイサイト」に搭載されるとして話題を呼んだ。アイサイトにはこれまで日立Astemo(旧日立オートモティブシステムズ)の製品が搭載されていたが新システムでは採用が見送られてしまった。次世代技術に対応できなければ国内のサプライチェーンは切り捨てられてしまうことだろう。

自動運転に搭載されるAIの役割は車線の認識や対向車の動き予測、自己位置の予測など多岐にわたる。AI開発を一言で表すことはできないが、ざっくりと言えばディープラーニングによってさまざまな状況のデータを蓄積し、誤差を下げて精度を高める形式だ。現状では自動車メーカーが独自で開発するというよりもベンチャーに出資して技術を育てるイメージのほうが近い。そして競合であるはずの自動車メーカーが同じ企業に出資する例も見られる。

例えばトヨタは2019年にデンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドと共同でUberの自動運転開発部門に約10億ドルを出資した。しかし、収益化の問題からUberは自動運転開発を米Aurora(オーロラ)社に売却したため、トヨタは現在Aurora社と提携をしている形となる。だが、Aurora社は以前から韓国の現代自動車(ヒュンダイ)が出資しているほか、今では中国の自動車メーカー「吉利汽車(ジーリー)」系列のVOLVO(ボルボ)とも提携しているため、日中韓の自動車メーカーが同じAI企業とかかわっている構図である。将来的にはサプライチェーンが自動車メーカーの命運を握っているかもしれない。

【ミリ波レーダー/LiDAR】国内の産業基板も強め

自動運転に欠かせない技術と企業 メーカー単独では困難
LiDARイメージ

物体との正確な距離を測るには画像だけでは不十分である。人間もそうだが、よほど訓練されていない限り目で見た物体までの距離を正確に測ることはできず、暗い夜間は特に不可能だ。

自動運転ではミリ波レーダーやLiDAR(ライダー)がカメラと併用されることだろう。ミリ波レーダーはミリサイズの電波を発して得た反射波をもとに物体までの距離を計測するシステムだ。信号機や電信柱などの障害物が多い垂直方向を認識するのは苦手だが、水平方向の物体やクルマを認識できる。ミリ波レーダーもカメラのようにデンソーのほか三菱電機など各社が開発している。しかし海外勢も多く、寡占化は進まないと見られる。

LiDARはミリ波よりも短い紫外線、可視光線、赤外線などの光を使ったセンシングシステムだ。単なる光ではなくパルス状のレーザーを発し、反射波を計測して物体までの距離を測定する。反射波を計測するという点ではミリ波レーダーと同じ仕組みだがLiDARはより精度に優れており、これまで地質調査や軍事用に使われてきた。また、単に距離を測るだけでなく反射波を基に周囲の状況を認識し、自己の位置をマッピングするのに役立つ。GPSと組み合わせることで自己位置を認識する精度をより高められるだろう。

国内では三菱電機や東芝などが開発を進めるほか、京セラがLiDAR用の部品を供給しており、海外勢に頼りがちなAIと違って国内の産業基板は整っている。だが欠点として価格が高いことが挙げられ、ネットで購入できる簡易的なものでも数万円、車載用は数十万円もする。いかにコストを下げられるかがカギだ。

【高精度3D地図データ】レベル5(完全自動運転)には欠かせない

高精度3D地図データイメージ

自動運転ではGPSとカメラ、LiDARで得られたデータを基にAIが状況を判断するが、塗装が薄くなってている車線や複雑な道路標識を全すべてAIで認識するのは難しい。エラーが生じれば事故につながってしまう。そこで、より精度を高める技術として高精度3D地図データが求められている。高精度3Dデータは車線や標識、信号の位置をcm単位で正確に記録したデータであり、このデータを参照することでより正確に状況を認識できるようになる。

「ダイナミックマップ基盤」は高精度3D地図データを取得、提供する日本の企業だ。同社は測定車両を用いて道路データの収集を行っており、2021年3月末時点で全国の高速道路および通常の道路のうち31,777kmを収録している(日本の道路の総延長は2019年3月末時点で1,281,072.8km/国土交通省)。実際に3Dデータは世界初の自動運転レベル3(条件付運転自動化)を実現したホンダの「Honda SENSING Elite」ほか、高速道路上でハンズオフ運転を実現した日産の技術「ProPILOT」に搭載されたことから、完全自動運転の実現において高精度3D地図データの存在は欠かせないといえる。

地図データを提供するデータ会社は各国で表れるようになり、やがて国や自治体が道路工事を行う際はデータ企業に率先して情報を提供するようになるかもしれない。ちなみにダイナミックマップ基盤には地図大手のゼンリンが出資している。

今後、メーカーの力は弱まる

CASEは自動車業界の研究開発費を圧迫しており、特に自動運転の実現はメーカー単独で取り組めるものではない。トヨタとスバルの資本提携強化や、ソフトバンクを交えた自動運転AIへの投資はそうした背景を如実に表したものといえるだろう。

そしてカメラやLiDARといった個々の部品は従来のサプライチェーン同様に各社の競争が行われるが、AIや3Dデータといった無形のサービスに関しては国や業界ごとで寡占化が進むとみられる。今後、自動車メーカー単体の発言力は弱まり、自動車の開発においては異業種やサプライチェーンの要望を取り込むようになるかもしれない。