ブースター接種はいま必要性か ワクチンと経口薬で世界は元通りに?

“ブースタショット”の準備をするイスラエルの医療従事者 写真:AP/アフロ

社会

ブースター接種はいま必要か ワクチンと経口薬で世界は元通りに?

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デルタ株が世界に猛威を振るい新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。そんななか、ワクチン接種で世界から先行していたイスラエルは60歳以上を対象に3回目のワクチン接種(ブースター接種、ブースターショット)を開始、段階的に対象年齢を拡大している。日本の厚生労働省も2022年の実施に向けた検討を始めた。一方、世界保健機関(WHO)はワクチンの公平な配分からブースター接種を延期するよう呼びかけた。“ワクチン格差”を生みかねないこの状況に、世界はどう動いているか。

ブレークスルー感染は避けられない

ある知人が「ワクチン接種率の高い国で、なぜ新規感染者が増加するのかがわからない」と疑問を呈した。質問はわからなくもないが、人口1億2000万人の日本で接種完了者が50%とするならば、接種率0%の人口6000万人の国がまだ残っているようなものだ。もちろんその中には接種1回目を受けた人がいるので、そんな単純なわけではないが、イタリアの人口に相当する人たちがワクチン接種を完了していないなかで従来株に比べて1.87倍の感染力(厚労省の専門家会合)をもつデルタ株がまん延した……と考えてもらったところ、知人には納得してもらえたようだった。

ワクチンの大きな目的の一つは重症者を減らすことで、病床の逼迫を軽減し医療崩壊を起こしにくくさせ、かつ死亡率を下げることが基本だ。ワクチンによって感染を防ぐ効果は一定程度あるが、感染しないわけではない。安心したがりの人間はついつい「もう感染しない」と誤解しがちだが、完璧なワクチンはなく、2回の接種完了者が再び感染する「ブレークスルー感染」はあると予想されていた。

東京都港区のみなと保健所は、6月16日~7月21日の間の新型コロナウイルス感染者1478人のうち、9%にあたる131人がワクチン接種後の感染(多くは1回接種のみ)だったと発表。イスラエルの研究では、接種完了した約1500人の医療従事者を2週間調査した結果、0.4%の人が感染したとの報告(国立感染研究所)も。また、アメリカのプロバスケット、NBAのクリス・ポール選手も接種完了後に感染しファンに衝撃(当時プレーオフ中だった)を与えるなど、ブレークスルー感染の事実は、世界各地で数多くの事例が発表されていることでもわかる。

イスラエルに続き先進各国がブースター接種を推進

Our World in Dataによると、接種率が世界で最も高いといわれるイスラエルは8月16日現在で接種完了率59.9%だが、高い接種率を背景に4月18日に屋外でのマスク着用義務を廃止。6月15日からは屋内でのマスク着用義務も原則解除したが、デルタ株が広がってわずか10日後の6月25日に屋内でのマスク着用が再び義務づけられた。

アメリカでも、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)がワクチン接種完了した人でも屋内ではマスク着用をするよう7月27日に勧告したほか、翌28日にはアメリカ国土安全保障省が同省で働く約24万人の全職員に対し、ワクチン接種の有無にかかわらず、屋内ではマスク着用を命じるなど、結局、逆戻り。ワクチン接種率が増加するなかでもマスク着用率の高さは重要視されそうだ。

そして、イスラエルは8月1日から、2回目の接種から5カ月以上経過している60歳以上の人を対象にブースター接種を始めた。2週間後には対象を50歳以上に拡大している。イスラエル政府によると3回目を追加接種した24万人のうち4500人を調査したところ、88%が2回目と同じかそれより軽い副作用があったという。最も多かったのは注射部位の痛みだった。ブースター接種の詳細なデータはまだ先にはなるが、イスラエルの先行事例は他国にとっても参考となることは間違いない。

イスラエル以外の動きについては、米食品医薬品局(FDA)が8月12日、免疫力の低い人を対象にファイザーとモデルナのワクチンについて3回目の追加接種を承認したほか、ドイツやイギリスでも9月からブースター接種を始める方向だ。日本も加藤勝信官房長官が8月2日に「諸外国や企業の動向、臨床試験結果を情報収集しながら検討を進めたい」と事実上、ブースター接種について前向きに進めていることを記者会見で述べた。

日本政府はファイザーと1億2000万回分の追加契約を行う見通しを示したほか、すでにモデルナと武田薬品工業と5000万回分の追加供給を受ける契約を結んでいる。2022年中にブースター接種がほぼ確実に行われるだろう。

3回目接種か、不足する発展途上国に回すか

ただ、一つ疑問がある。日本の場合は十分なワクチン量を確保できたからいいが、確保できなかった国はどうなるのか。

ブースター接種の動きに懸念を示したのがWHOだ。すべての国において9月までに国民の10%がワクチン接種を完了するべきという考えから、接種率の高い先進国のブースター接種について9月いっぱいまでは控えるよう要請した。そうでなければ、発展途上国へのワクチン不足が加速しかねないからだ。

8月15日現在のアフリカのワクチン接種率は4.2%。これでは一体いつになったら感染拡大の元が断ち切れるのかわからない。3回目どころか4回目もあり得る。またはワクチンの効かない変異種が誕生して……といつまでも感染リスクにさらされることになる。先進国の追加接種よりも先に発展途上国の接種に力を入れたほうが、実は回り道のようで、通常に戻るための早道ということもあり得るのではないか。

ワクチンの効果はいつまで続くのか?

そもそもワクチンの効果はいつまで続くのだろうか? アメリカのファイザーとドイツのビオンテックは7月28日、共同で開発したワクチン「コミナティ筋注」について6カ月間の効果についてのデータを明らかにした。それによると6カ月全体での重症予防効果は97%で、発症予防は91%だった。発症予防を細かく見ると最初の2カ月は96%、4カ月後には90%、6カ月後には84%と2カ月ごとに下がっていることがわかっている。

一方、モデルナは8月5日、4~6月期の決算発表の中で2回目の接種から6カ月経過した時点の有効性は93%と発表した。ただし、時間の経過ともに中和抗体の量が6カ月目あたりから減少するため3回目が必要になるだろうと述べている。

つまり、6カ月過ぎた時点でのワクチンの有効性は、ファイザーは84%、モデルナは93%だ。WHOはインフルエンザワクチンの効果について、65歳未満の成人についての発症予防は79~90%としており、ブースター接種を打つ緊迫性は感じられない。

ワクチン製造会社が、莫大な開発費の回収と営利目的のために3回目を推奨している可能性もゼロではないだろう。もし救命よりも利益獲得に、より主眼を置いたいうことが真実であれば信用を失い、その後の製薬会社が厳しい経営環境に置かれることは間違いないが、いずれ結果は判明するだろう。

厚生労働省の専門家組織、新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの脇田隆字座長にブースター接種を推奨するのか聞いたところ「データが少ないので、現時点ではまだ明確な回答は難しい」と回答したが、いずれ国としては「有効性が〇%を下回ったら3回目を打つ」といった目安を提示するほうが国民に安心感を与えるだろう。

ワクチン接種の度合いで享受できるモノが変わる?

日本の1回目接種率は8月16日で50%に到達。2回目接種完了率は約4割だ。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は7月29日の参院内閣委員会で、集団免疫を得られるワクチンの接種率について「70%程度では難しい」との見解を示し、一部の専門家の間では8割に上昇したと発言するなど、デルタ株によって、接種を義務化しないとクリアできそうにないほどハードルが上がったことを示した。

フランスでは8月9日より飲食店を利用する場合はワクチン接種完了の証明書の提示を義務化させた。香港では入境者の隔離期間をグループ分けしているが、ワクチン接種者は3週間から2週間に短縮される。欧米の大手企業もワクチン接種を義務化するところが増えてきた。日本は現在、渡航手続きに活用されているが、別な分野に広がる可能性は低くはない。

もしワクチン接種率100%で集団免疫を獲得したとすれば、受けられるサービスや隔離免除等についての差をつけられることは無論なくなり、マスクは取れ、少なくとも国内の移動は自由になる。しかし、それはおそらく不可能だ。

日本を含め世界でワクチン接種を拒否する人は一定数いるだけに、そういう人への差別や分断を助長するという懸念はあるものの、世界はワクチン接種を完了したかどうかで、飲食店、入国、公共交通機関、各種施設、仕事まで享受できるものに差がつく流れになっている。それは差別ということになるのだろうか? 国民一人ひとりが考えるべきだろう。

治療薬が新型コロナを“かぜ”に

世界中にまん延した新型コロナウイルスの根絶は不可能に近く、いつでも日本に侵入してくる可能性があり、病院も一定程度のコロナ病床を確保するかすぐに切り替えられるように政府から求められるかもしれない。

これらの緩和への光は、ワクチンのみならず感染後に服用できる治療薬が大きなポイントとなる。米リジェネロンが開発した「抗体カクテル療法」といわれる2種類の中和抗体を軽症者へ点滴する治療薬が、7月、中外製薬に世界で初めて特例承認されたことは明るい話題だ。また、塩野義製薬が開発を進めている一日1回服用する経口薬にも期待したい。感染初期に飲むことで重症化の抑制やせきなどの症状を改善させる効果を狙う。

経口薬できれば、楽観視してはいけないが、かぜ薬を飲む感覚に近くなる。そうなれば、新型コロナウイルスは、インフルエンザのような存在になっていくはずだ。