地元選挙惨敗でも菅首相再選の理由

2021.8.25

政治

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地元選挙惨敗でも菅首相再選の理由

写真:ロイター/アフロ

8月22日に実施された横浜市長選で地元選出の菅義偉首相が全面支援した小此木八郎候補が大敗したことを受け、自民党内で「菅首相では次期衆院選を戦えない」との声が強まっている。自民党は衆院選に先駆けて9月に総裁選を実施する予定で、岸田文雄前政調会長ら複数の議員が総裁選への挑戦に意欲を示している。しかし、二階俊博幹事長ら主流派は“菅続投”の構えを崩しておらず、菅首相が順当に再選する流れは変わっていない。

当初の目算狂う

「当然のことじゃありませんか。愚問だ」。8月24日に自民党本部で行われた記者会見で、二階幹事長は菅首相の再選を支持するかどうか聞かれ、語気を強めた。二階氏の盟友である森山裕国会対策委員長も「今までの実績を鑑みて支持させていただきたい」と同調した。

自民党総裁の任期は9月30日までで、衆院議員の任期満了は10月21日。首相は当初、東京オリンピック・パラリンピックや新型コロナワクチン接種の成果を強調して衆院選を勝ち抜き、直後の総裁選で無投票再選するという流れを想定していた。しかし、その目算はものの見事に狂った。

新型コロナウイルスの感染拡大は勢いを増すばかりで、8月27日からは北海道や愛知県など8道県が緊急事態宣言の対象に追加。全国の21都道府県に緊急事態宣言、12県にまん延防止等重点措置が出され、国政選挙をやっている余裕など到底ない。しかも、首相がコロナ対策の切り札としていた新型コロナワクチンも十分に配分できず、7月以降、各地で接種が滞っている。

ANNが8月21・22日に行った世論調査で内閣支持率は25.8%となり、危険水域とされる3割を大きく割り込んだ。支持率の低下に引きずられるかのように、首相の足元、横浜市で8月22日に行われた市長選では、首相が支援した小此木八郎前国家公安委員長が野党系候補に18万票の大差をつけられて大敗。総裁選前に衆院選を勝ち抜くという当初のシナリオは完全に崩れ去った。

総裁選立候補の意向表明が相次ぐ

菅首相は8月25日に自民党の二階幹事長と会談し、総裁選をめぐって協議。総裁選は9月17日告示、同29日投開票となる見通しだ。菅首相が選出された前回総裁選のような国会議員だけによる簡易な選挙ではなく、国会議員と党員・党友による地方票の合計で決めるフルスペック型の選挙とする。8月26日の自民党選挙管理員会で正式決定する。

その総裁選をめぐっては、立候補を模索する動きが相次いでいる。高市早苗前総務相が月刊誌で出馬表明したのは既報の通りだが、自民党の下村博文政調会長も安倍晋三前首相や所属する細田派の細田博之会長、二階幹事長らに相次ぎ会談し「チャンスと可能性があれば、そのときはチャレンジしたいという思いは持っている」と出馬の意向を表明した。

前回総裁選で首相に次ぐ2位の得票を得た岸田文雄前政調会長も、自ら率いる岸田派の若手議員らの立候補要請を踏まえ、8月24日のテレビ番組で「日程が決まったらしっかりと態度を明らかにしたい」と意欲を示した。

主流派の多くは菅首相の再選支持

ただ、総裁選に立候補するには現職国会議員20人の推薦が必要で、今のところ無派閥の高市氏や、所属派閥の会長が首相の再選支持を明言している下村氏は推薦人確保のめどがたっていない。岸田政調会長についても岸田派の前会長であり、引退後も同派に強い影響力を持つ古賀誠元幹事長がテレビ番組で「利口な岸田会長ですから、恐らくこういう状況のなかで出馬まで踏み切るという決断には至らないのではないか」と発言。岸田氏の立候補を強くけん制しており、立候補に踏み切れるかどうかは不透明な情勢となっている。

世論調査で「次の首相」として多くの国民が名前を挙げる石破茂元幹事長は今回の総裁選について「(首相指名選挙で)菅さんの名前を書いた以上、その責任は負わないといけない」と明言。石破氏に並んで国民人気の高い河野太郎行政改革相も8月24日の記者会見で「コロナ禍で、国民の皆様の健康を守るための責任を総理から任されている」と述べ、首相の再選を支持する考えを示している。

党内では二階幹事長以外にも安倍前首相や、安倍氏の出身母体である最大派閥、細田派の細田会長、第2派閥の麻生派を率いる麻生太郎副総理兼財務相ら主流派の多くが首相の再選支持を明言しており、支持率が危険水域を割り込んでもその状況に変わりはない。フルスペック型の総裁選となれば2001年に小泉純一郎氏が最大派閥を率いる橋本龍太郎氏を破って当選したように、国民人気の高さが国会議員票に波及することも考えられるが、今名乗りを挙げているメンバーを見渡してもそのような展開は考えにくい。

内閣支持率が3割を割り込んでも、地元の市長選で大敗しても、菅首相が無投票で再選、もしくは大差で再選を果たすとの見通しは変わっていないのだ。

9月の総裁選で複数の候補者が出た場合、新総裁は任期満了に伴い衆院選を行うか、総裁選後に臨時国会を召集して衆院を解散するという選択肢がある。仮に菅首相が無投票で再選した場合は、9月中にも内閣改造や党役員人事を行い、陣容を刷新した上で総選挙に臨む可能性もある。