原発の大規模再稼働がなければ成立しない日本の危うい脱炭素エネルギー戦略

2021.9.6

社会

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原発の大規模再稼働がなければ成立しない日本の危うい脱炭素エネルギー戦略

東日本大震災から10年たった現在も脱原発デモは続く(都内、2021年3月) 写真:ロイター/アフロ

国民の耳目がコロナ禍の動向に集まるなか、これ幸いとばかりに危うさ漂う日本の中長期エネルギー戦略が静かに動き始めている。世界的な命題の「脱炭素」をアピールしようと再生可能エネルギー、とりわけ太陽光と風力の割合を目いっぱいアップ、しかもこのバックアップとして、「3.11」以降、安全性の問題で目下停止中の原子力発電所多数を一斉に再稼働させるというもの。だが「安全性に問題はないのか」「再エネで電力供給は大丈夫なのか」「9年後の2030年に大規模停電の頻発で“先進国ニッポンの電力は後進国並み”と笑われなければいいが……」と不安視する向きも。

再生エネルギー比率の目標が爆上げ

経済産業省の資源エネルギー庁は2021年7月21日、中長期のエネルギー戦略の指針「第6次エネルギー基本計画」の素案を発表。8月4日には修正案を提示した。今回の「エネルギー基本計画」は9年後の2030年におけるエネルギー需給の見通しを具体的に数値で表したもの。注目はやはり「電力」で、2030年度の電力需要を約8700億kWhと想定。2020年度は約 9050億kWhで、人口減や省エネ効果などで約4%減と予想。また、発電能力も2030年度約9300~9400億kWh(2019年度約10240億kWh)とした。

電力構成は以下。

2030年における電力構成の見通し
※()内は第5次エネルギー基本計画(2018年7月)からの増減
  • 再エネ:36~38%(+14~16pt)
  • 水素・アンモニア:1%(新規)
  • 原子力:20~22%(据え置き)
  • LNG(液化天然ガス):20%(-7pt)
  • 石炭:19%(-7pt)
  • 石油など:2%(-1pt)

なお、2019年度の割合では、再エネ18%、原子力6%、LNG37%、石炭32%、石油など7%といった具合で、LNGと石炭の化石燃料火力が主軸となっている。

前回の第5次エネルギー基本計画で提示された2030年の電力構成の見通しは、再エネ22~24%、原子力20~22%、LNG27%、石炭26%、石油など3%。

世界的に環境対策への意識が高まるなか、第6次エネルギー基本計画の素案策定にあたり資源エネルギー庁は、再エネの導入をさらに進める目的で今年4月13日に開催された分科会において、再エネ比率を30%に引き上げる方向性を固めていた。

だが欧米各国のCO2削減策はより積極的で、「日本は手緩い」と国際社会からの批判を恐れた菅政権は、数字のさらなる上積みを経産省に厳命。菅首相は4月22日の気候サミットにて、2030年度の温室効果ガスの削減目標を2013年比46%減、とぶち上げた。

こうしてできたのが今回の「第6次エネルギー基本計画」で、経産省自ら「野心的な見通し」と自画自賛する中身は、再エネ割合を実に4割弱にまで高めて化石燃料はさらに圧縮、水素・アンモニアを新たに盛り込むなど、まさに力作となっている。

原子力割合が現状6%から一気に20~22%に

だが大いに気になるのが、第5次エネルギー基本計画と同様に、「原子力」が「20~22%」と存在感を残している点。 “脱炭素=地球にやさしい”を前面に出すエネルギー基本計画で、深刻な放射能漏れを起こした福島第一原発事故の記憶がまだ生々しく残るなか、『それはさておき』とばかりに全発電量の5分の1を原子力で賄おうと企てる政府・経産省の感覚が理解に苦しむ。

再エネの割合を最大4割弱にまで高め“CO2大幅削減”をアピールするのはいいが、再エネ内の電源構成を見ると、太陽光40%、陸上風力10%、洋上風力3%、地熱2%、水力30%、バイオマス15%(2021年4月13日分科会の2030年度再エネ電源構成予想より)といった具合。「風まかせ、おてんとうさま任せ」の太陽光、風力が5割以上を占めるため、夜間や天候不順における発電量の大幅減に備えるためベースロード電源(安価で昼夜、天候に影響されない安定電源)の保険が不可欠だ。

だがこれまでその任を担って来た石炭、LNGなど化石燃料火力は脱炭素の号令のなか、むしろ目の敵として減らされる憂き目。となれば選択肢は原発の再稼働しかない、というのが政府・経産省の論理だ。原発の扱いは世界でも二分され、実際ドイツや北欧などは全廃に舵を切るものの、アメリカやフランスなどはむしろ脱炭素の主役に位置づけている。

原発アレルギー”が強い日本で、脱炭素計画の達成のために原発を電力の主軸に掲げる政策は、果たして国民の理解が得られるのか甚だ疑問。現在稼働中の原発(原子炉)は9基(美浜・大飯・高浜・玄海・川内)で、休止中は28基(他に廃炉決定が24基)だが、休止中の分が全部再稼働を果たせば、「2030年度に原発割合は20~22%=1900~2000億kWh」という政府・経産省が弾く皮算用は実現する。

次々に発覚する原発のモラルハザード

ところが原発の実態に目をやると、モラルハザードのオンパレードで、国民に安全性を理解してもらうなど“夢のまた夢”の話で不祥事が頻発。2020年、敦賀原発2号機の地質データ書き換えが発覚、2021年8月に原子力規制委員会が安全審査の一時中断を決定、2017年には柏崎刈羽原発で免震重要棟の耐震不足が見つかり、2021年に入るとID不正使用による中央制御室入室問題や火災防護工事の未完了問題なども表面化。あと9年で残り28基全部を再稼働させるのは至難の技で、仮に時の政府与党が再稼働を強行すれば政権維持も危うい。

欧州では再エネ50%超を標榜する国もある。「日本もやればできる」との声もあるが、隣国と地続きで国境を接し、しかも周りが皆、同盟国という環境に恵まれたEU諸国の場合、互いに送電線が直結され(系統連系)電力の輸出入を活発に行っており、万が一電力不足に陥っても隣国からの電力融通で事なきを得ることが可能。だが日本の場合、隣国との系統連系は皆無で自己完結が鉄則のまさに“電力の孤島”。

日本列島に沿って超高圧直流送電線(HVDC)を海底に敷設、今後期待される洋上風力発電など再エネで作られた電力を全国で有効活用したり、大容量・高性能・低コストの巨大蓄電池で電力を長期間貯めたりといった妙案もあるが、2030年には間に合いそうにない。

おそらく政府の狙いは、「脱炭素」をいわば“人質”に、原発の大々的再稼働を既成事実化することだろう。要するに「時間がたてばたつほど政府に有利」という、まさに政府が得意とするなし崩し策だ。

つまり、

「太陽光や風力は脱炭素に極めて有効だが、『風まかせ、おてんとうさま任せ』で電力の安定供給が難しい」

「だからといって石炭・LNG等の火力はすっかり減らしてしまったため、いざというときののりしろが全くない」

「となれば原発再稼働しかない」

と、こういう論法か。

さらには電力会社側にも、「どれだけモラルハザード、不祥事があっても、最終的に国民は原発に頼るしかない」と足元を見ている節すら感じる。

原発全機再稼働ありきで日本はコントロールできるのか?

「第6次エネルギー基本計画」は今後パブリックコメントなども踏まえて微調整し、2020年10月までに閣議決定される模様。

80年ほど前、太平洋戦争に突入した日本は、内閣直属の企画院を中心に戦争継続に必須の石油に関する需給見通しを立案するが、途中で陸海軍から横やりが入り合理的計算よりも希望的観測や期待値が優先。占領したオランダ領東インド(現・インドネシア)から膨大な石油が流入し終戦時の1945(昭和20年)でも備蓄量に心配無用と結論。

実際はどうだったか詳述するまでもないが、“原発全機再稼働ありき”を前提としたエネルギー戦略が同じ轍を踏まないことを祈るばかりだ。