利用者が大手電力会社以外の事業者から電気を買えるようにする制度「電力小売り自由化」。政府は2016年の全面自由化を決めていますが、現在は大口契約者が対象(総需要の6割)で、新電力の供給力が乏しいことから、依然ほとんどの電気を大手電力が供給しているのが現状です。
大手電力は営業エリア外で電源を持っていないことに加え、地域独占の枠組みを壊すことへの抵抗感から相互参入がほとんど進んでいませんでしたが、東京電力が10月から家電量販最大手のヤマダ電機の関西と中部地方62店舗に電力を供給。ヤマダ電機は東電への切り替えで年間数千万円のコスト削減につながるとみられています。
全面自由化後は火力発電所を持つガス会社や料金回収ノウハウを持つ通信会社など、多様な業種の参入で、地域を超えた競争による多様なサービスや価格の実現へ向かうことが期待されています。
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Q.電気小売の全面自由化が始まったら、家庭で使用する電気の事業者を自分で選ぶようになる、ということでしょうか?
A.自分で選ぶ、というか、選べる、ということ。
今でも大口需要家は、新電力から選ぶことはできるよ。それが家庭でもできる、ということ。携帯電話も最初はNTTドコモが圧倒的にシェアを持っていたけど、auやソフトバンクの台頭で料金も下がってきたよね? 地域独占を続けてきた電力会社もこれからは競争にさらされるということだ。
Q.原発事故後、各地域で電気の使用料金が値上げされていますが、ヤマダ電機は東電への切り替えで年間数千万円のコスト削減を見込んでいるとか。域外では電気料金を低くできる理由は何ですか?
A.各地域で自家発電事業者などから、安価に電力を購入して売ってるから。
域外では保守点検などは域内の電力会社がやるから、東電は託送料(電力会社の送配電網を利用する際にかかる料金)にかかるコストを上回る程度の低料金で販売できる。域内でそれと同じ料金にしたら、保守点検など費用をまかなえなくなって、赤字になってしまうよ。それに、中部電力や関西電力よりも安くしないと乗り換えてもらえないからね。
今までは、お互いに営業地域を荒らさないという暗黙の了解があったんだろうね。その方が安定的な収益が稼げるから。でも、そんなこと言っていられないくらいに切羽詰まってきたということ。
Q.制度はあるのに、供給力の問題で新電力が普及されていません。やはり電力は新規参入の難しい業種で、新電力が多く供給されるようになるには時間がかかるのでしょうか?
A.そりゃそうでしょう。電力は大きな装置産業ですよ。イニシャルコストがかかる。それに、今までは電力会社が地域で大きな力を持っていたからね。
ということで、真っ向勝負するには大きな資本力がいる。また、発電力(自家発電装置)を持っていても営業には大きなコストがかかります。営業力(通信事業者など顧客の数が多い)があっても、発電能力を備えるコストは膨大なものです。
それに、インフラ(送電線)は電力会社のモノを使わなければならないのだから、制度がきっちりと整わなければ、電力会社に勝てるわけないんだよ。(佐藤尊徳)
[参考:「東電、域外で大口供給 関西・中部 ヤマダ62店」(日経新聞1面 2014年8月27日)]
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