コレステロールだけでなくCO2の削減にまで貢献するフードテック

2021.10.27

社会

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コレステロールだけでなくCO2の削減にまで貢献するフードテック

経済発展とともに世界中で食品の流通網が整備され、どこにいても多彩な料理を楽しめるようになった。特にファストフードの普及は食の嗜好を統一化させたといえるだろう。肉食の文化は世界中に浸透し、子どもたちはアイスクリームを好むようになった。しかし食生活の変化はデメリットも生じており、糖尿病患者数は全世界で4.6億人を超えるといわれている。そして畜産が要因で排出されるCO2は全体の14%を占めるため環境問題も深刻だ。だが近年、食に関する新技術「フードテック(FoodTech)」が研究されており、食分野の課題を解決するとして注目されている。

ヘルシーで環境にも優しい大豆由来の肉

最近ではスーパーでも大豆由来の肉、「代替肉」を見かけるようになった。もともとはヴィーガン向けに開発されたようだが、現在では健康意識の高い消費者の間で普及しつつある。代替肉は大豆などの高たんぱくな原料からたんぱく質を分離し、味付けのために各種原料を混ぜ込んで作った植物由来の肉である。原料は主に高タンパクな大豆が使われ、普通の肉よりも脂肪分が少ないのが特徴だ。調理法次第では本物の肉と見分けがつかないといわれている。ちなみにアメリカでは、バーガーキングなどのチェーン店で代替肉バーガーが提供されるほど人気がある。

国内ではその名の通りDAIZが代替肉のベンチャー企業として知られている。「ミラクルミート」という名の代替肉は通常の大豆ではなく発芽大豆を使用。発芽には同社独自の落合式ハイプレッシャー法が採用されており、一定のストレスを与えながら発芽させることで通常の大豆よりもうまみ成分を豊富に含んだ発芽大豆を生産できるそうだ。大豆100g中に含まれるグルタミン酸量は一般の大豆が64mgに対し同社の発芽大豆が182mgと3倍も多い。そのため同社は他社の代替肉よりも味に勝ると主張する。

もちろん商品にもよるが、代替肉は通常の肉よりもカロリーが少なくダイエットにも効果的。それだけではなくCO2削減にも貢献すると考えられている。

植物としての大豆が生産時にCO2を吸収するほか、動物の飼育に必要な冷暖房のエネルギーや糞尿処理のエネルギーも不要。牛のげっぷから発生するメタンガスは温室効果を有するため、代替が進めばよりCO2削減効果が発揮されるかもしれない。

代替肉がどの程度普及するかは未知数だが、DAIZでいえば丸井グループやENEOSが提携を進めており、企業によるESG活動の中で代替肉が注目を浴びているのは間違いなさそう。また、ニチレイや味の素といった食品メーカー、スーパーマーケットでは大手のライフやイオンでも「ミラクルミート」を使った商品が販売されるなど消費者へも届きやすくなっている。

3Dフードプリンターの可能性

PCで設計図を読み込むだけで目的のモノを作れる3Dプリンターは加工のための精密機器を必要とせず、製造業を根幹から変えるといった意見も聞かれる。樹脂を固めてプラスチック製品を作る初期のものから金属粒子を固めて作る金属3Dプリンターなるものも開発されている。

それら3Dプリンターの技術はフードテックにも応用されているようだ。台湾の大手3Dプリンター企業XYZPrintingが公開した試作品は、ペースト状の食材やキャンディーを使って食品を立体的に作り上げることができる。ペーストにクッキーの元を使い、これを通常のオーブンで焼けば立体的なクッキーのできあがりだ。ケーキの場合はパティシエのようにチョコレートで文字を描くこともできる。他にもオランダのbyFlowやドイツの「Print2Taste GmbH」がチョコ専用の製品を提供するなどフードプリンターは各国で開発されているようだ。

しかし本格的に普及するかと聞かれれば疑問が残る。現状では加工に使える食材はペースト状に限られ、どうしても用途がお菓子に集中してしまう。安価な大量生産品向けはすでに工場の設備が整えられているし、作る頻度の少ない結婚式用のケーキ等にフードプリンターを導入しても採算は取れなさそうだ。一方、山形大学は異なる硬さの食材で造形できるというフードプリンターの特徴を生かしてシャリの柔らかい寿司を試作しており、介護食向けに一定の需要を得られるかもしれない。

メリットも多い遺伝子組み換え食品

食品パッケージの原材料欄に「遺伝子組み換えでない」と記載されているのをよく見かける。日本人は遺伝子組み換え食品(Genetically Modified Organism 、GMO)を好まない傾向にあるが、国内では生産量が僅かでほぼ試験栽培であるものの、輸入に頼らざるを得ないトウモロコシ・大豆のほとんどがGMOだ。

遺伝子組み換え食品

品種改良技術のひとつ。他の生物から有用な性質を持つ遺伝子を取り出し、その性質を持たせたい植物等に組み込む技術を利用して作られた食品。害虫抵抗性、除草剤耐性といった従来の掛け合わせによる品種改良では不可能と考えられていた特長を持つ農作物を作ることができる(参照:消費者庁HP

アメリカでのトウモロコシ生産を例に挙げるとGMOの作付面積は90%以上を占める。現在の食品表示には義務と任意があり、加工品を摂取するなかでは何かの形で口にしていることもあり得るのだ。そんなGMOだが実は近年、さまざまなメリットが見直されている。

日本では2020年、筑波大学発のベンチャー企業サナテックシード」が開発した“ゲノム編集トマト”が承認され販売を開始した。トマトには鎮静・血圧抑制効果があるとされるGABA(γ-アミノ酪酸)が含まれているが、ゲノムを編集することで同社はGABAが従来より豊富に含まれるトマトを開発した。本来、トマトの遺伝子に含まれていたGABA抑制遺伝子を破壊することを実現したという。

ちなみにゲノム編集について国はGMOとは別と認識しているようだ。外から別の作物の遺伝子を組み込んだものをGMOと定め、ゲノム編集作物については作物に元から含まれる遺伝子を変えたものとして品種改良と同じようなものととらえている。いずれにせよ遺伝子を編集することで高栄養価の作物を実現した。

今後数十年、世界人口は増え続ける

GMOが対象となるのは植物だけではない。アメリカのアクアバウンティー・テクノロジー(AquaBounty Technologies)社は遺伝子組み換えの養殖サーモンを生産している。キングサーモンにオーシャンパウトという魚の遺伝子を組み込んだ新しいサーモンで、通常の養殖サーモンは出荷まで2年半要するのに対し、同サーモンは1年3カ月前後で育つ。そして通常の養殖サーモンのように海中の柵の中で育てるのではなく、水族館のように内陸の淡水設備で育てるため抗生物質等の薬剤を投与する必要が無いと同社は主張する。

国連によると世界人口は現在の78億人から2050年には97億人に増えるとされている。現在は人口の増加に伴って食料需要が急増しており、食糧生産を効率化するGMOに頼らざるを得なくなっている。GMOによってこれまでになかった高栄養価の作物も生み出されている。そしてGMO作物は害虫や病によるロスを削減するため省エネ化にも貢献しているといえる。しかし現状では不安の声が大きい。

GMO作物が避けられるのは、遺伝子に関する知識が足りないという認識が消費者の間にあるためである。GMO作物が受け入れられるには人類の遺伝子関連技術が向上するのを待つ必要があるだろう。おそらく、遺伝性疾患を自在に治癒できるようになれば消費者は安心してGMO作物を摂取するのではなかろうか。