VR・ロボット出社…脱テレワーク化を阻止するオンラインオフィス技術

2021.10.26

社会

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VR・ロボット出社…脱テレワーク化を阻止するオンラインオフィス技術

コミュニケーションを促すバーチャル空間を提供する「oVice(オヴィス)」 画像:oVice

コロナ禍では行動制限や政府の要請によりテレワークの導入が進められてきた。しかし、緊急事態宣言下のみ導入する企業も多く、コロナ収束後は原則出社を掲げる企業もあるなど本格的に普及する見込みは薄いとみられる。筆者の勤め先も昨年4、5月こそテレワークを導入していたがその後は原則出社となった。会社の仕事をすべてテレワーク化するのにZoomやChatworkなどの単一機能のツールだけでは難しいのだろう。だが、通勤が不要なことや集中して仕事ができるなどテレワークは有益なことも多い。そんななか、会話のやり取りにとどまらず仮想空間上にオフィスを再現するメタバースの技術が増えてきた。こうした技術は脱テレワークの阻止に貢献できるかもしれない。

テレワークの課題

感覚的な部分もあるが、コロナの感染拡大当初こそテレワークの導入が謳われてきたが、その後は下火になってしまった感がある。導入による弊害が明らかとなったためか、結局はマスク着用やアクリル板の設置で対策を講じテレワークを取りやめた企業も多い。

野村総合研究所のアンケートによると、テレワークの問題点として「孤独感やストレス」に関する意見が8%、「Zoom等オンラインツールの通話品質」に関する意見は16%にとどまる。一方で、「同僚と思うように意思疎通が図れない」ことを挙げる人は3割にも及ぶ。

確かにビデオ会議ツールを使えば会話はでき、従来通りメールやチャットを使えば文書を送ることができる。だが会社ではいつでも話しかけられるのに対し、テレワークでは会話したいときとツールの起動までにタイムラグが発生するため瞬間的な意思疎通に問題が生じることもある。

こうしたなか近年では、チャット、通話、資料共有といった単一機能ではなく仮想空間上で複合的にオンラインオフィスを再現する技術が開発されている。新たな技術はテレワークの課題を解決してくれる可能性がある。

会議室の臨場感を再現できるHorizon Workrooms

既存のオンラインツールは、会話はできるものの会議室のように空間を再現できないため、どこか臨場感に欠ける印象がある。ホワイトボードもないため柔軟に手書きの資料を共有できない。テレワークの問題点として挙げられる意思疎通の難しさは、臨場感の無さに起因しているのかもしれない。だがVR空間で会議室を作り上げれば臨場感を再現できるだろう。

Facebookの「Horizon Workrooms」はVRの技術を使ったオンラインオフィスのツールだ。同社はもともとVRのオンラインゲームHorizonを提供しており、そこから派生してオフィス用のHorizon Workroomsが開発された。現在はベータ版だが、同サービスは登録した自分のアバター(分身)を通じてVR空間上で会議を行うことができる。音声も空間に対応しているため、右側に居る人が発言すれば右のヘッドホンから声が聞こえてくる。そして、専用のコントローラーを使えば手書きの内容がVR空間上のボードに表示される仕様となっており、ホワイトボードを再現することができる。

「Horizon Workrooms」のイメージ 画像:Facebook Newsroomより
画像:Facebook Newsroomより

VRゴーグルを取り付けたらPCの画面が見えなくなると思うかもしれないが、VR空間上に自分のデスクトップを表示できるため心配は無用だ。そして通常の会議のように発表資料をVR空間上の仮想画面に映し出すこともできる。VRゴーグルが必要なため普及にはややハードルがあるが、Horizon Workroomsは臨場感を作り出し会議の効率性を高めてくれるだろう。既存のオンライン会議にありがちな誰も発言しない無言時間を防いでくれるかもしれない。

簡易バーチャルで出社を再現

会社で近くに同僚がいればすぐに話しかけられるが、テレワークで会議をするには電話やチャットで相手の状況を確認してからZoomでつなぐといった様に一段階手間がかかってしまう事も多い。テレワークにおける意思疎通の難しさは臨場感に欠けることのほかにも、簡単に話しかけられる状況ではないことに起因しているかもしれない。

「oVice(オヴィス)」は日本企業が開発した、2Dの簡易バーチャルでオフィス空間を再現できるコミュニケーションツールだ。オフィスの間取りを平面空間上から見下ろすような形式で、社員がそれぞれアイコンを通じて平面上を移動できる仕組みとなっている。

画像:oVice

話しかけたい相手に自分のアイコンを近づけると会話ができ、距離に応じて相手の音量が変わる仕組みだ。もちろん離れすぎていると会話はできない。顔を合わせて会話をしたい場合はビデオ会議に切り替えられるため他のビデオ会議ツールを併用する必要もなく、通常のオフィスと同様、一定のメンバーで鍵付きの部屋に閉じこもることもできる。

これまでのビデオ通話ツールだと「あの資料どこにありますか?」、「明日の予定教えて」などの簡単な会話でツールを使うのは気が引けたが、oViceであれば気軽に話しかけられるため頻繁に情報を共有できる。テレワーク特有の孤独感も解決してくれるだろう。

公式HPによると富士フイルムやウエルシアなど1200以上の企業・団体で導入されているとのこと。1スペース当たり月額4,950円と零細企業や大企業の一部署で使うには手頃な上、2D画面なのでPCのスペックを要さないことも魅力的だ。ちなみに似たようなサービスではアメリカの「Remo」がある。

自分の代わりにロボットが出社

実物の商品や現場を見ながら話す場合は、アバターやアイコンでは伝わりにくいかもしれない。ビデオ通話ではカメラが固定されているため周りを見渡すこともできないだろう。ならばいっそのことロボットで出社してみてはどうだろうか。

米Suitable Technologies社の「Beam」は遠隔操作できるビデオ通話ロボットだ。カメラ付きモニターが車輪で動く構造で、ロボットを操作する人の顔がモニターに映される仕様となっている。操作者はPCのほかスマホ・タブレットでもロボットを操作でき、VRのようなオプション機器がなくても操作できる。最大時速は3.2kmと室内用には十分な速度だ。連続8時間の駆動が可能だが充電のために逐一コンセントをつなぐ必要はなく、ドッキングステーションに移動させれば充電ができる仕組みとなっている。

例えば、顧客に対する工作機器などの大規模な製品の紹介や、遠隔地の社員に対する操作法のレクチャーなど“規模や動き”を伝えたい場合に適したシステムといえる。公式HPによると遠隔地に複数拠点をもつ大企業での導入例が紹介されており、人員の航空運賃削減に貢献しているそうだ。

Beamのようなテレビ通話型ロボットは「テレプレゼンス・ロボット」と呼ばれ、近年各社が開発を進めている。例えばANAが航空に代わる新事業として「アバター事業」を打ち出しており、この事業でもテレプレゼンス・ロボットが中核を担う。現在では水族館見学やデパートで実証実験を行っているとのこと。観光やショッピング分野での開拓を目指すようだ。以前は人型ロボットの研究が注目を浴びていたが、現在の技術でより現実味があるのはテレプレゼンス・ロボットだろう。電池の容量拡大が進めば身近なものとして普及するかもしれない。

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テレワークは人間のすべてを再現できないが…

ブルース・ウィリス主演の映画「サロゲート」は皆が自分の身代わりとなるロボットを遠隔操作して生活する近未来を描く。ロボットは脳波で操作する仕組みで、見た目は生身の自分そっくりだ。もちろん操作者は家から一歩も外に出る必要はない。コロナ禍ではテレワークが推進されてきたが、私たちの仕事をすべて置き替えるには「サロゲート」のような技術を待たなければならないだろう。

前述のHorizon Workroomsを使えば確かに臨場感のある会議はできるが、表情から相手の意図を汲み取ることは難しいかもしれない。それに取引先も同じツールを導入していなければ不可能だ。そしてテレプレゼンス・ロボットはどこにでも行けるがモノを扱うことはできない。特にモノを扱う製造業立国の日本で完全テレワーク化は不可能だろう。

一方、社内のメンバー間で行う会議等はリモートで十分な場合も多い。テレワークであれば場所の隔たりは関係なくなり、遠方地の人材を活用できるほか、コストも削減でき、移動にかかっていた時間を有効活用できるようにもなる。コロナ禍を通して手にしたこれらの可能性を私たちはないがしろにすべきではない。仕事すべてが置き換えられることはないが、今後もテレワークは私たちの業務を補完・効率化するものとして位置づけられていくべきだ。