「2050年には人間との差が一切無くなる」ANAアバターが社会実装に向けて本格始動

2019.10.31

技術・科学

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写真/芹澤裕介、江口和孝

多くの企業がAIの活用に注力するなか、“瞬間移動”ともいえるアバターの開発プロジェクトを進めるANAホールディングスは、10月に幕張で開催された「CEATEC 2019」で実用化を想定した6つのアバターを公開。社会実装に向けて着々と進むプロジェクトの進捗について、アバター準備室ディレクターの深堀昴さんに聞いた。

“自分がいない場所に行ける”アバターの数々

「CEATEC 2019」でのANAホールディングスの出展は今回が初。「ミュージアム&ショッピング(リビングルーム)」、「レッスン」、「スキルシェア」、「クッキング」、「フィッシング」、「フューチャーテック」とアバターでできる6種の“体験”を中心に展示が行われた。

まず、ブースの中で最も目を引いたのが、「CEATEC 2019」初日に片野坂真哉社長による基調講演で発表されたコミュニケ-ション型アバター「newme(ニューミー)」。「newme」は移動するための車輪を土台にしたボディに、2K・フルHDの高画質ディスプレイを備え、首振り機能や衝突防止センサーも付いている。さらに高さを約150cm、約130cm、約100cmと三段階にカスタマイズすることも可能。

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「ミュージアム&ショッピング(リビングルーム)」のバートでは実際に遠隔地にある「newme」を操作することができ、水族館の中を巡ったり、ウインドウショッピングを体験することができた。ほかにも「レッスン」ではANAの客室乗務員が「newme」を通して、参加者との会話や質疑応答をするパフォーマンスを披露していた。

参加者一人ひとりの前に「newme」が移動したり、質問者の声の方に振り向いたりする様子は、動きにまだぎこちなさが見えるものの、確かにそこに人格が宿っていることを実感させられた。

「newme」以外のアバター体験では、「スキルシェア」も印象的だった。二人羽織のようなウェアラブルアバターは、操作者と装着者がほぼ同一の視点で空間を共有しながら、身体的な共同作業ができる。例えば、医者がいない地域にこのアバターがあれば、装着者が患者のもとに駆けつけ、医者がアームを操作することで遠隔から治療を施すこともできるという。

実演ではコップにボールを入れることに成功。

「クッキング」でもロボットアーム型アバターを使い、遠隔調理を披露。こちらのロボットアームは指先に触覚センサー、さらに指先に伝わる力の方向や振動を検知する多感覚センサーが組み込まれ、よりリアルな感覚と動きを伝え合うことができる。

「フィッシング」は娯楽性の高いアバター。遠隔地の釣り堀に設置された釣り竿と、ブースにある釣り竿型アバターが連動し、本物の魚を釣ることができる。釣り竿には力触覚を再現する「リアルハプティクス技術」も用いられ、釣り具の振動や魚に引っ張られる感覚もリアルに体験することができた。

最後に「フューチャーテック」ではアメリカのスタートアップ、Agility Robotics社と共同開発したアバターロボットを展示。起伏のある山道などの屋外でも活動でき、約18㎏の荷物も持って移動できるという。

アバターは“自分の意識を持って動けるもの”

今回展示されたアバターたちはさまざまな形があるが、一見すれば単なるロボットのようにも見える。アバターとロボット、その違いは何なのだろうか。

「ひと言で言うと、アバターは“自分の意識を持って動けるもの”というのが定義になります。だから『newme』はロボットではないし、テレビ電話でもない全く違うカテゴリにあります。自分の意思で動かして感覚と意識を共有するからです。

その条件をクリアすれば、例えば車を遠隔で動かしたらアバターといえるし、ドローンもアバターにできる。ラジコンのように操作はできても感覚を共有できないロボットはアバターと呼べないし、テレビ電話のように動けないものもアバターではありません。アバターにとって意識を持って動ける自由というのはものすごく重要な要素なんです」(深堀さん)

ANAホールディングス株式会社 グループ経営戦略室 アバター準備室 ディレクター 深堀昴(ふかぼり あきら)

AIとアバターは対立するか

もうひとつの疑問がAIだ。いずれ人間の仕事の多くを代わりに行うようになるといわれるAIと、人間の意識を宿し、身体活動を拡張させるアバターは対立する概念になり得ないだろうか。アバターをインフラとした新しい社会の創造を目指すANAだが、AIとはどのようにかかわっていくことになるのだろうか。

「アバターは単に遠隔操作するだけではありません。動きを補助して身体的能力を拡張させることも可能です。今回展示しているロボットハンドも今後はAIを搭載して人間の動きを学習させていこうと思っています。例えば、溶接工がアバターで自分の溶接する動きを学習させたら、技術のない人も溶接ができるようになります。このようにスキルをデータにしてダウンロードすればシェアできるようになるわけです。

通常のAIは大量のデータを入力してそれを分析するというようなものですが、われわれはAIの使い方をちょっと違う方向で考えていて、人間から学ばせたい。人間のような考え方で人間のように動けるAIを作り、アバターに生かしていきたいと考えています。

それには人間の動きを学習していくツールとデータベース、それを再生したり拡張したりするようなものを構築していくというのも、アバター開発の壮大なロードマップの中に入っています。

五感のシンクロも研究開発が進んでいて、今は視覚、聴覚、触覚が主ですが、いずれ嗅覚、味覚も再現できるだろうというところまで見えていきています。それらが揃うと、まさに弊社の片野坂も申し上げた『2050年はアバターと人間の差が一切無くなる』ということが可能になります」(深堀さん)

ANAの片野坂社長はCEATECの講演で、「2025年には介護士、2030年にはレスキュー隊のような救助活動などができるようになり、2040年には脳からの指示でアバターが動けるようになり、腕の不自由な方が自由に使えるようになる。2050年になると、アバターと人間の差が一切なくなり、五感すべてがアバターを通じて違和感なく体験できるようになり、遠く離れた場所にいるアバターが本当の自分になる」と発言。

“高性能な手”よりも子どもたちとの会話

ANAがアバターの精度、技術開発に邁進するなか、アバター社会実装の第1弾として選ばれたのが、車輪とタブレットというシンプルな「newme」だったのはなぜなのだろうか。

「性能で言うと、展示したロボットハンドの方が高いです。なぜ『newme』が選ばれたのかというと、実証実験を行うなかで大勢の方から“高性能な手”よりも子どもと会話ができたり、食器を洗っているときに覗きに来たりするアバターの方がすごくニーズが高いということがわかったからです」(深堀氏)

高性能で最先端の派手なヒューマノイド型といったものではなく、むしろコミュニケーションの頻度を飛躍的に上げるようなアバターの方が求められていたという。

「これはエンジニアとしては意外でした。もちろん一方で、技術進化するためには高性能なプロダクトの研究開発をする必要もありますが、やはり足下をしっかり見てどういうものが求められているのかというのを考えないといけないと気づかされました。

現在は産・官・学のいろいろな方々と連携しながら、かなり本腰を入れて準備しています。実際に社会インフラとして量産していくモデルを作っているという自覚があるし、スタートアップのとき以上のスピードで準備は進んでいます」(深堀さん)

さまざまな技術を通して距離を超え、意識と身体、そしてコミュニケーションを拡張するアバター。今回展示された6つのアバター体験の実用化だけでなく、インフラ化の早期普及にも期待したい。