「日本で一番『ありがとう』と言われる葬儀社」を生涯スローガンに掲げ、これまでになかった「哀悼と感動のセレモニー」で業績を伸ばす葬儀会館ティア。独自の「感動葬儀」を作り上げるセレモニーディレクターだが、新卒入社のころは当然、葬儀業界はもとより社会経験もほぼ皆無。彼らはいかに成長し、感動を実現できるようになるのか。あるセレモニーディレクターの成長と、教育担当者の指導への思いを通して、ティアの人財教育の神髄に迫る。
理念への共感は必須
ティアでは社員を“人財”と表す。「感動葬儀」は社員たちの思いや努力の結晶であり、つまり人こそが経営を支える財産だからだ。そのため、ティアの教育制度は、人財を磨き輝かせるノウハウが構築され、また、受講者への配慮も行き届いた内容になっている。
家族葬ホール ティア柴田 副支配人を務めるセレモニーディレクターの片岡冴望(さえみ)さんは、2019年新卒入社。大学では農学を専攻していたが、まったくの異業種である葬儀業界に進んだ。
「就職するにあたって大事にしたいことが3つありました。人とかかわる仕事。人の心、特に悲しさ、寂しさに寄り添える仕事。そして尊敬できる上司がいることです。そこで葬儀業をリサーチし、教育制度が万全なティアに決めました」(片岡さん)
入社の際、創業者の冨安徳久社長が語ったティアの理念「哀悼と感動のセレモニー」と、それを形にした「感動葬儀」、その実現に必要なのは「目の前にいる人を大切に想う愛」という言葉を聞いて、他社の内定を辞退してティアに入社したことに間違いはなかったと感じたという。
人財教育の司令塔を担う人財開発部・部長の横井規浩さんは、理念への共感と教育との関係について以下のように語る。
「新卒入社の方がティアで活躍するにあたって、葬儀業への志はもちろん、こういったティアへの共感、双方の思いを共有できていることはとても大事です。それらが無ければ、教育や成長にも影響し、いずれモチベーションの低下、そして離職という事態を招きかねません」
採用時から志望者への教育効果を判断することは、より適切で、より優秀な人財の確保につながっている。
成功体験とモチベーション維持が人を育てる
新入社員に対するティアの教育は手厚い。まず、冨安社長の理念に基づく人財教育プログラム「ティアアカデミー」による研修を6カ月間受ける。平均的な新入社員の研修期間は3カ月といわれるが、ティアはその倍の時間をかける。その後の葬儀会館での実地研修も含めるとトータルの研修期間は約1年にも及ぶ。その間、身につけることは多岐にわたる。
「葬儀は究極のサービス業、ホスピタリティ業といわれ、ご遺族の近くで接するセレモニーディレクターには細やかな配慮が求められます。ティアのお客様の大半は初めてお会いする方。しかもご一緒するのは通夜・葬儀を合わせて48時間というわずかな時間しかありません。その中でセレモニーディレクターがお客様に寄り添い、感動を届けるためには、ティアの理念への理解はもちろん、言葉遣いや身だしなみといった接遇の基礎も必須になるため、丁寧に指導していきます」と語るのは、片岡さんの“先生”でもあった人財開発部・教育課の和田麻生(まい)さん。
「感動葬儀」を提供するための実践的な知識や技術は、ロールプレイング形式の模擬通夜・葬儀などによって習得していくのだが、ここにティアの人財教育の効果を上げるポイントがある。以下は片岡さんの例だ。
「研修では、通夜・葬儀の流れと、お花やお供え物の手配などのご案内について時系列に沿ってご説明すると学んだのですが、私は時間ではなく、まず大切な項目を伝えた方が頭に入りやすいのではと考え、ロールプレイングで試しました。しかし和田さんからは、『ある程度時系列もイメージできなければ、大切な項目も把握しにくい』と指摘。一方、ご遺族を思っての工夫には評価をいただきました。
この件に限らず、ティアの研修は一方通行の学習と悪い点の指摘だけではなく、良い点を必ず伝えくださるので、意欲を削がれることがなく、常に前向きに取り組むことができます」(片岡さん)
一度しかない通夜・葬儀に失敗は許されない。しかし、臆病になってしまっては「感動葬儀」を謳うティアのセレモニーディレクターは務まらない。
「セレモニーディレクターは研修で失敗と改善を繰り返し、成功体験を重ねることで、意欲を低下させることなく現場に出ていく自信を培っていきます。特に昨今の若い世代の育成には、褒めて伸ばす、成功体験を繰り返す、が不可欠。指導内容の根幹は変わりませんが、世代や葬儀へのニーズの変化を加味しながら育成方法をブラッシュアップさせているのも『ティアアカデミー』の特長です」(横井さん)
現場で味わう痛みは伸びるための“成長痛”
6カ月間の研修後、新人たちは意気揚々とセレモニーディレクターの第一歩を踏み出す。しかしながら、実際の通夜・葬儀、遺族への対応は一筋縄にはいかない。片岡さんも研修中には味わわなかった失敗を経験する。
「葬儀後に、ご遺族が行う役所への手続きや納骨、法要などをご案内していた最中に突然、喪主様がその場から退席されてしまったのです。理由がわからずにいると、先輩に、納骨はいつ頃をお考えか、ご事情やご意向を一つひとつ伺ったのか、喪主様のお顔をきちんと見ていたのかと言われ、ハッとしました。私は説明責任を果たすことばかりに集中し、ご遺族のお気持ちをおろそかにしていたことに気づいたのです」(片岡さん)
限られた時間でやり遂げなければならない膨大な業務とホスピタリティの両立は難しい。故人や遺族の事情もさまざまで、想定外の出来事もたくさん発生する。新人セレモニーディレクターはそのたびに悩み、苦しみ、それは時に心の痛みも伴うが、これらがいずれ、何事も受け止められる耐性と柔軟な対応力、セレモニーディレクターとしての自立につながる糧となっていく。
何事もポジティブにとらえる片岡さんは、「現場での“痛み”は子どもの頃の成長痛と同じで、伸びるためには必然、むしろありがたいとさえ思っています」と笑うが、研修と現場では突き当たる壁の種類も大きさも異なり、人によって感じることもさまざま。業務に対する意欲低下を防ぐため、ティアでは一人ひとりに合わせたフォロー体制を万全にしている。
「現場に出た新人には、配属先の葬儀会館の支配人や先輩セレモニーディレクターがマンツーマンで寄り添い、育成を担当。教育課も連携しており、担当する新人への適切なアプローチ方法などを記した育成支援書の配布のほか、コーチング研修なども行います。もちろん、私たちも一人ひとりの業務と成長を逐一確認し、悩みや迷いがあればすぐにフォローします」(横井さん)
「感動」は「信頼」から生まれる
誕生日目前だった故人のためにバースデーケーキでお別れをしたり、故人が好きだった青いバラを求めて生花店を探し回って用意したり、故人のバンド仲間による生演奏を行ったり……。「感動葬儀」のエピソードは挙げればきりがない。
通夜・葬儀中にセレモニーディレクターの判断で演出などの手を加えることもある。片岡さんも担当した葬儀である演出を行った。
「葬儀の最後での出来事なのですが、喪主様が声を詰まらせながら言葉を紡ぎ、ご参列者も聞き入られていました。私も心を打たれ、この素晴らしい光景に合うものを……とBGMを流したのです。ところが、喪主あいさつは厳粛な中で行うもので、BGMは非常識だとご遺族からおしかりを受けました」(片岡さん)
思いが裏目に出てしまった例だ。前向きな片岡さんもこのときばかりは、葬儀後に涙を流してしまったという。
「セレモニーディレクターが手がけるサプライズや演出のすべてに感動していただけるかというと、そうではありません。感動をつくるというのは、故人様、ご遺族から発信されたことを形にすること。そのため、セレモニーディレクターはご遺族のお話と姿に目も耳も頭も心も全身全霊傾けて “傾聴”します。感動葬儀につながるヒントの多くはそこから見つかります。
安心感や信頼感の無いセレモニーディレクターにはご遺族もお話しづらいので、言葉遣いや身だしなみをきちんとし、寄り添う姿勢や感じの良い態度を整える必要があるのです」(和田さん)
感動の前には信頼がある。遺族と信頼関係を構築できなければ「感動葬儀」は実現できない――。この経験を通して、片岡さんは改めて「感動葬儀」について考えた。
「私がティアに入社したときに志したのは、人の悲しみ、寂しみに寄り添うことです。そのために、私ができることは笑顔なのではないか。温かく微笑むことでご遺族が少しでも安心して、元気になっていただければ。そう思って実行すると、ご遺族から『片岡さんが笑ってくれて癒された』といったありがたいお言葉をいただくことが増え、自信になっていきました」
セレモニーディレクター一人ひとりの強みがティアのブランドとなり、多くの遺族の感動を呼ぶ。昨今のティアの認知度向上は、こうした背景に裏付けられているといえそうだ。
「社内評価はもちろん、お客様からの評価こそが人財を成長させ、エンゲージメントの向上にも大きな効果を発揮します」(横井さん)
人財育成の先にあるたくさんの「ありがとう」
成長するのは新人に限ったことではない。原点回帰は経験を積んだセレモニーディレクターにも有効で、ティアでは冨安社長のセミナーを毎月開催し、理念の理解を促すことを欠かさない。また、先輩が新人や後輩に向けて経験を話すシニアスタッフセミナーもたびたび行っている。
「インプット・アウトプットによって、ティアの理念や自らの思いを改めて確認すると、業務への意欲も向上します。さらに、ティアでは社内検定制度『ティア検定』を設け、キャリアアップと、自己の能力や価値、お客様からの評価をいっそう高める施策も行っています」(横井さん)
人を感動させるのは人でしかない。人を育てるのも人でしかない。そんなティアの理念と人財育成を体現した話を、和田さんが聞かせてくれた。
「私には身内を突然亡くした経験があります。夢なのか現実なのかもわからず、ただただ戸惑うばかりのなか、的確に進行してくださる葬儀担当者の方にふと『ありがとうございます』との言葉が出たのです。『ああ、私はまだありがとうと言える』と我に返り、気持ちを落ち着かせることができました。
ティアは“日本でいちばん『ありがとう』と言われる葬儀社”を目指しています。『ありがとう』の言葉は、言っていただいたセレモニーディレクターにも、言ったご遺族にも力をもたらします。だからこそ、たくさんの『ありがとう』を引き出し、たくさんのご遺族の救いとなるセレモニーディレクターを育てていきたいと思います」
和田さんの話に片岡さんは笑顔でうなずき、“ご遺族への愛”をまた深めたようだ。
グローバル化、デジタル化、そしてコロナ禍……。世の中がどんなに変わっても、心に寄り添うセレモニーディレクターが次々と羽ばたいてくティアは、企業として強く、故人と遺族にどこまでも優しくあり続ける。