侵攻ロシア軍を苦戦に追い込む ウクライナ軍の欧米製ポータブル兵器

2022.3.10

政治

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侵攻ロシア軍を苦戦に追い込む ウクライナ軍の欧米製ポータブル兵器

NLAW(エヌロウ) 写真:SAAB

誰もが平和を望んでいる。戦争など無いに越したことはない。ロシアによるウクライナへの侵攻から約半月がたち、国連をはじめとする世界はロシアへの制裁を強め、停戦を模索する。ただ、ロシアの侵攻をウクライナ軍の反撃によって食い止めている事実もある。当然、他国からの武器の供与によるところも大きい。戦況が進むに従って戦闘機の供与も検討されている。今回はウクライナ軍の反撃の背景に目を向けてみたい。

「ジャベリン、エヌロウ、スティンガー」の3本の矢

ウクライナに侵攻したロシア軍は予想に反し大苦戦、迎え撃つウクライナ軍は相手の戦車や戦闘機、ヘリコプターを続々と撃破。ウクライナ側を強力サポートする米英など西側諸国が供与する「ハイテク・ポータブル(携行式)兵器」が活躍、中でも「ジャベリン」「NLAW(エヌロウ)」「スティンガー」の“3本の矢”が、ロシア将兵たちを恐怖に陥れている。

「ジャベリン」はアメリカ製の対戦車ミサイル、「NLAW」はイギリスとスウェーデンが共同開発した対戦車ロケット兵器、「スティンガー」はアメリカ製の地対空ミサイル(SAM)で、これらに共通するのが「ファイア&フォーゲット(撃ちっ放し)」と「個人で持ち運べるポータブルさ(携行式兵器)」だという点。

閉所からも発射できる「ジャベリン」

ジャベリン 写真:米陸軍

ジャベリンは1990年代半にアメリカが開発した次世代型対戦車ミサイル(ATM/ Anti-Tank Missile)で、アメリカのほかイギリス、フランス、カナダなどNATOで広く採用。ミサイル本体を含むシステム重量は約22kgで、通常は予備弾1発を抱えながら2人1組で運用するが、体格のいい欧米人なら1人で操作することも珍しくない。

ジャベリンの最大の特徴は“完全撃ちっ放ちの携行式ATM”という点。既存の携行式ATMの大半は、ミサイル発射後も目標に命中するまで射手などがコントローラーでミサイルを遠隔操作(誘導)しなければならず、誘導のため発射装置とミサイル本体は電線や光ファイバーで結ばれていたり(有線誘導)、目標にレーザーを当て続けなければならない。このため、射手は発射地点に留まることを求められるため敵に見つかり反撃されるリスクが高い。

これに対し“完全撃ちっ放し”がウリのジャベリンの場合、戦車など目標を照準器でのぞき赤外線(熱線)画像として認識、引き金を引いた後はこれをもとにミサイルが自動で追尾し目標に命中するというもので、発射後に射手はその場から退避できる。

また、既存の携帯式ATMの場合、ミサイル発射の際にロケットモーターから猛烈な爆風と炎がランチャーの後部に吹き出し(バックブラスト)、これがかなりの広範囲に及ぶため、発射ポイントが敵に見つかりやすく、建物内など閉所での発射は射手自身が丸焦げになるので無理。

この欠点を解消するため、ジャベリンは「コールド・ローンチ(冷たい発射)」の技術を採用。発射の際、まずはミサイルを空中に舞い上がらせる程度の推力の小さいロケットモーターが点火、まさに“ポン”といった感じでミサイルが射出されると1~2秒後にメインのロケットモーターが点火、激しい爆風と炎を噴出し飛翔する。射手は敵に見つかりにくく、建物が密集する市街地でも扱いやすくする工夫だ。

基本は戦車や装甲車など装甲戦闘車両(AFV)を撃破する火器で、この場合AFVにとって最も装甲の薄い車両の天井を自動的に狙う「トップアタック・モード」と、建物を直接攻撃する「ダイレクト・モード」を用意、ヘリコプターへの攻撃も有効だという。最大有効射程は2500メートルで、予想以上の活躍からウクライナ軍は「聖ジャベリン」と半ば神格化するほど。

軽量が取り柄のNLAW

冒頭の写真にある「NLAW」はイギリスとスウェーデンが共同開発、「Next generation Light Anti-tank Weapon(次世代型軽量対戦車兵器)」の略で2000年代はじめに開発、イギリスやスウェーデンはもちろん、フィンランド、インドネシアなど計9カ国が採用。一部メディアはATMと報じるが誘導していないので厳密には対戦車ロケット・ランチャー。目標の戦車を照準器で眺めると瞬時に目標までの距離や角度、移動速度を計算、ミサイルが到達する数秒後の未来位置に向かって飛んでいくというもの。

基本的に車両など水平方向に移動する目標が対象で、航空機や急発進・急加速・急回転を頻繁に繰り返す車両には不向きだが、ヘリコプターには有効とのこと。通常のATMと比べ複雑な誘導システムなどを採用していないため、重量は12.5kgとライバルのATMと比べて軽く、低価格。射程は800メートルでジャベリンと同じく、ダイレクト・モードと対戦車用のトップアタック・モードも用意。

「ハインド・キラー」スティンガーの復活

スティンガー 写真:米陸軍

アメリカが開発した携行式SAM(地対空ミサイル)で開発は1960年代後半、アメリカ軍へは1970年代後半から配備が開始されるなど一見旧式に思えるが、数々の実戦に投入され貴重な教訓をフィードバックさせて改良を頻繁に繰り返しており、携行式SAMの分野では信頼性や性能面で他の追随を許さず、自由主義陣営ではデファクト・スタンダードで約40カ国が採用。

ミサイル本体を含んだシステム全体の重量は約16kgで、射手はランチャーを肩に担ぎ目標の航空機に向けて照準を合わせてミサイルを発射、“撃ちっ放し”兵器なので複雑な操作は不要。最新バージョンでは誘導方式に赤外線と紫外線の両方を使用する「二波長光波ホーミング(IR/UVH)で、相手側の妨害電波などの電子対策(ECM。「ジャミング」ともいう)や、航空機から花火のような火球を派手に放出し、赤外線誘導のSAMの照準を惑わせる「フレア」に対しても強い。

最大射程4800メートル、最大射高3800メートルで、1980年代のアフガニスタン紛争では同国に侵攻したソ連軍が誇る攻撃ヘリ、ミルMi‐24「ハインド」に対し、抵抗するアフガン・ゲリラはアメリカから供与されたスティンガーを大量使用、多数を撃墜したことから「ハインド・キラー」との異名も。

今回のウクライナ侵攻でロシア侵攻軍はなかなか制空権(航空優勢)を確固たるものにできないでいるが、理由の一つにスティンガーの脅威が看過できないほど強力、との見方もある。

こうした「撃ちっ放し」兵器は、素人でも簡単な講習ですぐさま実戦で使用できるという非常に大きなメリットがある。今後全国民を総動員した抵抗活動へと軸足を移しつつあるウクライナにとっては力強いアイテムに違いない。