三橋貴明が説く 今さら聞けない経済学

第6回:インフレ対策とデフレ対策

2014.09.10

経済

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経済政策には「インフレ対策」と「デフレ対策」の2種類しかない。両政策はいずれも善でも悪でもない。すべての政策の善悪を決めるのは”タイミング”である。あらゆる政策は、たとえ増税であろうともタイミングが正しければ善になる。

三橋貴明の原則(第二原則)

前回、「三橋貴明の原則」の第一原則について取り上げた。

■第一原則:規制緩和・グローバル化と安全保障の強化は、両立しえない
■第二原則:経済政策には「インフレ対策」と「デフレ対策」の二種類しかない

今回は、第二原則について書いてみたい。
経済政策には2種類しかない、と言われても戸惑う読者が多いだろう。とはいえ、本当にそうなのだ。すべての経済政策は、インフレ対策とデフレ対策のいずれかに分類できる。理解を深めてもらうために、本連載の第1回でも使用したインフレギャップとデフレギャップの図を再掲する。

インフレギャップとデフレギャップの図

インフレギャップとデフレギャップ

経済政策は、なぜ2種類しかないのか。理由は、そもそも「経済環境」も2種類しかないためだ。すなわち、インフレギャップとデフレギャップである。国民がモノ(財)やサービスを生産する能力、すなわち「潜在GDP」に対し、国民がモノやサービスの購入する総需要、すなわち「名目GDP」が過大になっていれば、インフレギャップが発生し、物価は上昇する。

逆に、名目GDPが潜在GDPに対し過小になると、デフレギャップ拡大により物価が下落していく。すなわち、総需要の不足によるデフレ深刻化だ。

名目GDPとは、もちろん国民経済計算における国内総生産(GDP)そのものである。それに対し、潜在GDPとは、日本の労働者、工場、設備等が100%稼働した際に生産可能なGDPになる。すなわち、完全雇用が成立している環境における、国内総生産だ。

インフレ対策とは

前ページの図を見れば、インフレ対策、すなわち「インフレギャップを埋める政策」は、「総需要(名目GDP)を削減するか、もしくは潜在GDPを引き上げる政策」であることが理解できるだろう。総需要削減策とは、具体的には増税、公共投資削減、公務員削減、診療報酬・介護報酬の削減という、政府の需要削減策と、政策金利(中央銀行が市中銀行に融資する際の金利)の引き上げ、売りオペレーション(中央銀行が国債を売却することで通貨を回収する)などの金融政策になる。政策金利の引き上げも、売りオペレーションも、共に金融市場の「金回り」を悪くする。結果的に、民間がお金を借りにくくなり、需要が減るわけだ。

また、潜在GDPを引き上げる政策には、規制緩和、国営企業・公営企業の民営化、グローバル化(国境を越えた規制緩和)がある。政府の規制を緩和し、国営企業などは民営化し「市場競争」のなかに放り込み、外国企業を含めて市場競争を激化させるのだ。すると、各産業への新規参入が相次ぎ、企業が生産性の向上に努力し、潜在GDPが引き上げられる。総需要が減り、潜在GDPが大きくなれば、インフレギャップが縮小し、物価上昇率は抑制できる。

デフレ対策とは

次に、デフレ対策であるが、こちらは「総需要を拡大する」政策以外には存在しない。デフレギャップを埋めるためには、「潜在GDPを削ればいいのでは?」などと思った読者がいるかもしれない。とはいえ、潜在GDPの削減とは、要するに企業のリストラクチャリング(リストラ)だ。企業が人員解雇や事業整理を進めると、失業者が増え、消費が減り、設備投資や住宅投資は先送りされ、総需要が減ってしまう。総需要が小さくなると、結局のところデフレギャップは埋まらない。

というわけで、デフレ対策は「総需要拡大策」以外には存在しないのだが、具体的にはインフレ対策(総需要削減策)の逆になる。すなわち、減税、公共投資拡大、公務員増強、診療報酬・介護報酬の増加、政策金利の引き下げ、そして量的緩和(中央銀行の買いオペレーションの拡大)だ。

見えてくる安倍政権の政策の不整合

第二次安倍政権は、デフレ脱却を標榜して成立した。そして、アベノミクス第一の矢(金融政策)と第二の矢(財政政策)は、まさに上記の総需要拡大策となっており、筆者は相当に期待したものだ。とはいえ、現実には第二の矢は尻すぼみになり、総需要が十分に拡大せず、第一の矢の効果も頭打ちになってしまった。さらに、消費税増税という「インフレ対策」を断行し、成長戦略と銘打ち、各種の規制緩和という「インフレ対策」を推進しているのが、現在の安倍政権である。

日本国民の所得(実質賃金)がいまだに減少し、デフレ脱却を果たしたわけではないにもかかわらず、インフレ対策を推し進める。安倍政権の経済政策には、不整合があるのだ。

ところで、経世済民(国民を豊かにするための政治)という政府の目的を達成するためには、インフレ期であろうともデフレ対策を、あるいはデフレ期であろうともインフレ対策を打たねばならない時期があるのは確かだ。例えば、日本に対する中国の軍事的圧力がさらに強まった場合、わが国はデフレ、インフレに関係なく、防衛費を増やす(=デフレ対策)必要がある。さらに言えば、国民経済全体がデフレ状況であっても、一部の産業については潜在GDPを引き上げるインフレ対策(規制緩和など)を推進しなければならないケースもある。
残念ながら、現在の安倍政権の「政策の不整合」の理由が、経世済民であるとはとても思えない。