NATO加盟秒読みのフィンランド&スウェーデン 実は欧州屈指の軍事強国

2022.5.24

政治

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NATO加盟秒読みのフィンランド&スウェーデン 実は欧州屈指の軍事強国

“グリペン”とFA18 写真:スウェーデン国防省

軍事的中立だった北欧のフィンランド、スウェーデン両国はロシアのウクライナ侵攻に危機感を募らせ、2022年5月18日ついに NATO(北大西洋条約機構)への加盟を正式に申請、早ければ同年秋にも実現する。人口だけを見ればどちらも小国に過ぎないが、いざ軍事力の中身は欧州でも指折りだ。

ロシアと1300kmも隣り合うフィンランド

フィンランドの2020年の正規軍は約2万3800人(陸軍1万7350人、海軍3400人、空軍3050人)で、うち1万6000人を徴兵に頼る。準軍隊の国境警備隊2700人も含めても総兵力は2万5000人強に過ぎないが、弱小と思うのは尚早。軍事の世界では「動員兵力」を見るのが鉄則だ。軍隊経験のある予備兵力(予備役)に加え、特に国民皆兵制を採る国の場合は潜在的なマンパワー、つまり兵隊として戦える男子の兵役適齢人口(大体15~64歳で「男子就労人口」とほぼ同じ)を弾き出すのが大事。

余談だが、ウクライナ侵攻の暴挙に出たロシア・プーチン大統領は予期せぬ苦戦を強いられているが、ウクライナの人口は約4400万人(2020年)、紛争直前の正規軍兵力約21万人に加え準軍隊約10万人、予備役90万人の計120万人が控え、実は兵隊の数では欧州最大クラス。こんな軍事強国にたった15~20万人の兵力で侵略しようと考えたのだから、あまりに楽観的なロシア側の情勢分析に、改めてビックリしてしまう。

ウクライナでロシアが苦戦する間に…北欧中立2カ国のNATO加盟は実現するか

2022.5.2

話を戻そう。フィンランドはほかに予備役約23万人を抱え有事には瞬時に正規兵力が10倍に膨らむ。さらに人口(2020年)は約554万人でうち男性の兵役適齢人口は3割弱、約155万人と推定。国民皆兵の国は成人男性の大半が軍務経験者で、短期間での兵役復帰が期待できる。冷戦時は予備役70万人を維持していたこともあり、仮にロシア軍が侵攻したとしても100万人規模の兵力を動員できるだろう。

冷戦終結後、NATO加盟国の大半が徴兵制を廃止するなかでも、一貫してこれを維持、現在でも国籍を持つ満18~27歳の男子は皆最長1年間の兵役が義務で、その後、満50歳まで予備役として待機、一部は年間80日の軍事教練を続け有事に備える。歴史的背景からロシアの脅威に対する国民の国防意識が極めて高く、徴収兵や予備役将兵の士気も想像以上に高い。

ロシアとは約1300kmにも及ぶ陸上国境で接するため、必然的に陸軍と空軍が主軸となる。陸軍の主要装備を見ると、まず主力戦車(MBT)はドイツ製の「レオパルト2」計100台、しかも装甲や戦車砲を強化のアップグレード型(A6型)。同戦車はNATO加盟国の多くも採用、強力な120mm砲搭載で「世界最強」と呼ばれるアメリカ製M1A2戦車にも匹敵、ロシア製の現役戦車を一撃できると目される。またこれとは別にレオパルト2戦車の「A4」型も100台保管、さらに1990年代まで現役だった旧ソ連製T-72戦車なども100台以上温存していると見られる。

このほか装甲車は旧ソ連製や自国製を含め800台強、大口径(100mm)以上の大砲も旧ソ連製を中心に約400門を配備。

空軍はアメリカ製のF/A-18戦闘攻撃機60機強を装備、次期戦闘機としてアメリカ製のステルス戦闘機F-35A 64機の購入も決めている。

国産兵器大国スウェーデン

スウェーデン軍の姿はフィンランド軍によく似ており、正規軍兵力は約1万5000人(陸軍7000人、海軍2000人、空軍3000人、その他3000人)で、郷土防衛隊約2万1000人と予備役1万人が控える。

冷戦時は徴兵制を保ち、国民皆兵のもと強力な軍隊で武装中立を維持したが冷戦終結でこれを撤廃。だがロシアがクリミアに侵攻、一方的に併合すると、脅威に対応するため2018年に徴兵制を復活。満18歳に達した男女は全員、最大1年未満の兵役に服している。また、兵役満了後は50歳近くまで予備役登録され、その中でも前述の1万人が年間数十日間の訓練を受けて即戦力として待機。ただし同国も冷戦中は70万人の予備役を準備、フィンランド同様兵力の動員数は凄まじい。

2020年の人口は約1010万人、日本の12分の1で東京都よりも少ないが、兵役可能な男性人口は推定300万人以上で、有事のときは短期間のうちに100万人の軍務経験を召集することも絵空事ではないだろう。これを日本に当てはめれば「兵力1200万人」のインパクトに匹敵する。

なお、同国は世界有数の兵器開発国で、潜水艦や戦闘機、各種艦艇、対戦車火器などを自国軍で使用すると同時に輸出にも積極的。

陸軍はMBTとしてフィンランドと同様2000年代に入ってから既存戦車をレオパルト2の「A5」型120台で更新、冷戦時は軍事的中立を極めるため戦車も独自開発したが、冷戦終結後は費用対効果とNATOとの互換性を考慮し自主開発をやめている。なお1990年代まで国産戦車(砲塔のないSタンク)をはじめMBT約800台を有したが、この多くは今でも保管中と思われる。

一方、フィンランドとは違い海軍は比較的充実しており、特にディーゼル・エンジンで動く通常動力型潜水艦を5隻有するのが特筆。同国国産で、しかも最先端の長期間潜航可能なAIP(非大気依存推進)システムを搭載する点が特徴。また、近未来的フォルムの国産ステルス・コルベット5隻も注目だろう。

空軍も国産のJAS39ドラケン戦闘機約100機を持つ。

ちなみにアメリカは別としてNATO内の“大国”イギリスは総兵力15万人弱、予備役8万人弱、MBT約230台、戦闘機/攻撃機225機、フランスは総兵力約20万人、予備役4万人強、戦車約約220台、戦闘機/攻撃機約280機+約55機(海軍機)、ドイツは総兵力18万人強、予備役約3万人、戦車約250台、戦闘機/攻撃機約230機で、北欧2国の軍事力が決して小さくないことがわかる。

もちろんNATOにとっては大幅な戦力アップが期待できるからウエルカム、それ以前に両国は先進国で、しかも国民の教育水準や所得水準は世界トップクラス、軍隊のレベルも高く申し分ないはずだ。

ロシアはフィンランドとスウェーデンがさらに西側に寄ることを警戒していたはずだが、プーチン氏はウクライナへ侵攻の副作用で北欧の軍事強国2国のNATO入りをかえって加速させてしまったという“オウンゴール”的な大失態を犯したといえる。