欧米かロシアか 複雑化する大国間競争に悩むインド

2022.7.3

政治

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欧米かロシアか 複雑化する大国間競争に悩むインド

写真:ロイター/アフロ

ロシアによるウクライナ侵攻は、米中対立を中心に近年国際政治で展開されてきた大国間競争をさらに複雑なものにしている。急速な経済成長を続けるインドは、さまざまな多国間協力において重要さを増しているが、対ロシアについては微妙なポジションを取らざるを得なくなっている。

欧米vs中国、欧米vsロシアの同時進行

長年、国際政治では米中対立が中心的トピックであるが、近年は新型コロナウイルスの感染拡大による真相究明、多国間協力を重視するバイデン米政権の誕生、同政権による人権問題での中国圧力強化なども相まって、米中対立は他の欧米諸国を取り込む形で欧米vs中国という図式に変化している(当然ながら各国によって対中では温度差はあるが)。

そのようななか、欧米vs中国の陰に隠れるような存在だったロシアがウクライナに侵攻したことで状況は大きく変化し、欧米vsロシアの構図が国際政治の一つの焦点となり、今後は欧米vs中国、欧米vsロシアの同時進行という感じで展開されていきそうな予感だ。

なお、5月に中露両軍による日本周辺での合同軍事訓練や合同飛行が実施されたように、日米に軍事的けん制を行うため両国が一定の範囲内で協調することはあるだろうが、東南アジアや中東、アフリカや中南米諸国などとの関係を維持発展させたい中国からすればロシアを擁護する立場を明確にすることは難しく、いわゆる中露接近、中露結束がどこまで進むかは不透明な情勢といえる。少なくとも、中露同盟のようなものができる可能性は短期的にはゼロに近い。

そのようななか、今後の大国間競争の行方を探る上でポイントになるのがインドの出方だ。中国に次いで人口が多く、労働力人口も増加傾向のインドは、2020年代の内に日本をGDPで追い越すなど世界経済の主要大国になることが予測され、欧米や中国にとってもインドとどう付き合っていくかは戦略的重要マターになってきている。そのインドは今日、世界で展開される大国間競争をどのように眺めているのだろうか。

武器供与などでロシアとは伝統的友好関係に

それを理解する上で重要になるのは、5月に日本で開催された日米豪印の4カ国による枠組みクアッド(Quad)首脳会合だ。クアッド首脳会合では中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する途上国支援が打ち出された一方、ウクライナに侵攻したロシアを名指しで批判することが回避された。

対ロシア制裁を強化・拡大する日米としては当然ながらロシア非難の文言を入れる方針だったと考えられるが、インドは武器供与などでロシアと伝統的友好関係にあり、日米としてはクアッドの機能性維持・強化の観点からインドに配慮する形を取った。現在重要なのはクアッドの一体性であり、4カ国の間で摩擦が生じればそれだけ中国に利する可能性があるからだ。

長年インドと中国は国境問題を抱えているが、近年は国境地帯での衝突でインド兵に犠牲者が出るなどモディ政権は中国への警戒を強めている。また、中国がスリランカやパキスタン、バングラデシュやネパールなどインド周辺国に対して多額の経済支援を行うなどしてインドを囲むように影響力を強めており(真珠の首飾り戦略)、インドの中国への警戒心は年々強まっている。

インドは長年インド洋を自らの裏庭と位置付け、2019年4月から5月にかけて実施されたインド総選挙で圧勝したモディ首相が第2次政権初の外遊先としてインド洋に浮かぶモルディブとスリランカを訪れたのも中国への警戒感、対抗意識の表れだろう。

そのような意味でも、インドにはクアッドに加わることには政治的メリットがある。自らのクアッドへの対応の仕方でクアッドを警戒する中国をけん制することができるからだ。しかし、インドは伝統的に非同盟主義を外交の基本方針にしており、今後クアッドにインドがどうかかわってくるか未知数な部分もある。

一方、ロシアについては上述のようにインドは伝統的友好関係を維持しており、そこにはクアッド各国と温度差がある。4月、バイデン政権はロシアを非難しないインドに対して不満を表明したこともあり、アメリカの中にはインドへの強い不満も見え隠れする。また、インドは新興5カ国「BRICS」や中国とロシアが主導する地域協力組織「上海協力機構」でロシアと同じ加盟国であり、非常に難しい立場にあると言える。

このようにインドは複雑化する大国間競争のなか、対中国では欧米や日本と協力する姿勢は示しても、ロシアについては関係を別にする姿勢を堅持している。インドにとって複雑化する大国間競争は悩みの種であり、どちらか(欧米かロシアか)両足を踏み込み、そのアリの巣から出てこれない状況を警戒しているように映る。今後ともインドは伝統的な非同盟主義に基づき、独自の外交を展開してくる可能性が高い。