米中間選挙 民主党善戦でトランプ氏以外の候補を求める声強まる?

共和党の不振はトランプ氏の責任だとい声も大きい 写真:AP/アフロ

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米中間選挙 民主党善戦でトランプ氏以外の候補を求める声強まる?

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アメリカの中間選挙が11月8日に行われ、バイデン大統領率いる与党・民主党が連邦議会の上院で多数派を維持することが確実となった。事前に野党・共和党の優勢を予測する声が多かったなか、なぜ民主党は善戦することができたのか。トランプ前大統領が出馬に意欲をみせる次期大統領選への影響は。

歴史的な物価高は逆風だったはずが…

アメリカの連邦議会は2年ごとの偶数年に定数100の上院議員のおよそ3分の1の35議席、定数435の下院議員の全議席が改選される。2回に1回は大統領選と同時だが、2回に1回は大統領の任期半分、2年を過ぎた時点で行われるため「中間選挙」と呼ばれる。同時に全米50州のうち36州で知事選も行われる。日曜日が通例となっている日本の選挙と違い、投票日は火曜日だ。

大統領任期の半ばで行われることから中間選挙は“大統領の通信簿”と位置づけられるが、政権運営への批判の方が注目されがちなため与党が議席を減らすことが多い。トランプ大統領の任期中だった前回2018年の中間選挙は下院で野党・民主党が議席を伸ばし、多数党を奪還。オバマ大統領の2期目の任期中だった2014年は上院で野党・共和党が多数党を奪還している。

通常でも与党が不利なのに加えて、今回は歴史的な物価高への不満でバイデン政権が逆風にさらされている。ロイター通信によると11月7日時点の世論調査で不支持の57%が支持の39%を大きく上回っており、共和党が上下院ともに過半数を獲るとの見方が優勢だった。

有識者も赤をイメージカラーとする共和党が勝つことを表す“赤い波”が押し寄せると警告していた。これまでは上下院ともに民主党が多数派を握っていたが、上下院ともに野党が主導権を握れば議会で法案を成立させることが難しくなり、バイデン大統領の政権運営はさらに厳しさを増すとみられていた。

“赤い波”は起きず、上院は民主党が多数に

しかし、開票が進むとともに民主党の善戦ぶりが明らかとなってきた。上院では歴史的な接戦。11月11日までに民主・共和がともに49議席ずつおさえ、12日夜にはネバダ州で民主党現職の勝利が確実となった。これにより民主党は全100議席の半数を抑え、上院議長を兼務する民主党のハリス副大統領の1票を加えると実質的な多数党となる。ちなみに残り1議席はジョージア州で、12月6日に決選投票が行われる予定だ。

下院では共和党が多数党を奪還する見通しが強まっているが、上院だけでも民主党が多数党となったことは大きな意味を持つ。上院は大統領が指名する大使や連邦判事、政府高官などの承認、条約の批准権限を持つからだ。バイデン大統領は上院での多数党維持を受けて「とてもうれしいし、これからの数年間を楽しみにしている」と語った。

若者支持が伸びた背景には人工中絶問題

なぜ、バイデン政権の支持率が低迷するなか、民主党は善戦することができたのか。米メディアの出口調査によると、若年層や女性の無党派層が民主党を支えたことがみてとれる。ABCテレビによると、18~29歳の63%が民主党候補に投票。30~39歳では54%が民主党候補に投じたが、40歳以上は共和党が優勢だった。今回は若者の投票率も過去2番目に高かったという。

若者の多くが民主党支持に回った背景には人工中絶問題がある。人工中絶をめぐっては民主党が権利を認める方向、共和党は権利を認めない方向で、6月下旬に連邦最高裁は中絶の権利を認めない判決を下した。9人の判事のうち、判決に賛成した5人は共和党の大統領に指名されている。バイデン政権は「中絶は女性の権利」だと判決を批判し、中絶の合法化を中間選挙の中心的な争点に掲げた。民主党が広告で訴えたテーマの中で、中絶問題がダントツでトップだったという。この方針に女性や若者の指示が広がったとみられる。

人工中絶以外にも民主党支持者は気候変動や民主主義人種差別などの政策を重視する人が多かったとみられる。CNNの出口調査によると女性の53%、黒人の86%、ヒスパニックの60%、アジア系の58%が民主党候補に票を投じたという。

トランプ氏以外の候補を求める声強まる?

中間選挙の結果について米メディアの一部は「最大の敗北者はトランプ氏だ」と報じている。共和党の予備選ではトランプ系候補の躍進が目立ったが、実際の上院選や知事選では注目されたトランプ系候補の苦戦や落選が目立ったからだ。CNNによるとトランプ氏について「好ましい」と答えた有権者は39%で、そのうち95%が共和党支持者。「好ましくない」との答えは58%に上ったという。バイデン大統領の支持率が低迷しているとはいえ、アメリカに深刻な分断をもたらしたトランプ前大統領への嫌悪感は根強いということだろう。

トランプ氏は選挙直前に「11月15日21時(日本時間16日午前11時)にとても重大な発表する」と表明。2024年の大統領選に出馬表明するとみられているが、中間選挙の結果を受けてトランプ氏の求心力が低下する可能性がある。共和党内でトランプ氏以外の候補を求める声も強まるだろう。

一方でバイデン大統領にとっても「勝利」とは言い難い。下院の主導権を共和党に握られれば法案の成立が難しくなり、これまで以上に政権運営の困難さが増すからだ。バイデン氏は再選に意欲をみせるが、11月20日で80歳となる高齢も不安視される。ニューヨーク・タイムズが7月に実施した世論調査では、民主党支持者のうち次期大統領選でバイデン大統領の立候補を望む人は26%だった。

2年後の大統領選で民主、共和両党の候補として誰が舞台に上がっているか。中間時点を越えた今も見通すことができない。