中国とインドのロシア離れ プーチン大統領は内外双方で苦境に

2022.12.1

政治

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苦しくなるロシアのウクライナ侵攻

ロシアによるウクライナ侵攻は、“ロシアの劣勢”というより“プーチン大統領の暴走”というもっと深刻な状況に突入している。

プーチン大統領は9月21日に軍隊経験者・予備役を招集するため部分的動員令を発令したが、それ以後ロシア国内では国民の脱出が広がり、今日までにカザフスタンやジョージア、フィンランドやエストニアなどを中心に20万人以上のロシア人が脱出したという。本来対象にならない人々にまで動員が拡大し、北方4島からも動員された人々がいるという。

また、プーチン大統領は時を同じくして、ドネツクとルハンシク、サポリージャとヘルソンの東部南部4州でロシア編入の是非を問う住民投票を行い、9月30日に同4州をロシアへ併合する条約に署名した。併合したということはロシアにとって4州は当然ロシア領土となり、解釈的にはウクライナ軍の4州での軍事活動はそもそも侵略行為となる。そして、併合したのにウクライナ軍に進軍され続けるとなれば、併合を宣言したプーチン大統領にとっては政治的威信、信頼を大きく損なうことになる。こういった状況はロシアの劣勢を顕著に示すものだ。

一方、部分的動員や東部4州の併合というプーチン大統領の決断に対し、ウクライナのゼレンスキー大統領はNATO加盟に向けて動き出すことを明らかにした。NATOに加盟する中・東欧9カ国の首脳も10月2日、ウクライナのNATO加盟を支持する方針を明らかにした。支持を表明したのはチェコやスロバキア、ポーランドやルーマニア、バルト3国などだが、プーチン大統領が長年NATOの東方拡大に対して強い不満を抱き、それがウクライナ侵攻の背景にあることから、こういったNATOによる動きはプーチン大統領をさらに挑発することになろう。今後、プーチン大統領は一定の地域に影響を抑えられる小型核などを使用する恐れもあろう。

“プーチン大統領の暴走”で進む中国・インドのロシア離れ

プーチン大統領の暴走によって、ロシアを取り巻く外交環境にも大きな変化がみられる。それは中国とインドのロシア離れだ。

侵攻から今日まで、中国は一貫してロシア非難を避け、制裁も一切実行していない。経済的にはロシアとの結び付きが強まってきた。中国税関総署によると、今年5月、中国のロシアからの原油輸入量が前年5月比で55%、天然ガスが54%それぞれ増加し、8月の貿易統計では世界各国からの輸入伸び率が前年8月比で0.3%に留まった一方、ロシアからの輸入が60%増加したとされる。

また、安全保障面でも、中国軍は9月1日から7日にかけて日本海やオホーツク海など極東海域で実施されたロシア主催の大規模軍事演習「ボストーク2022」に参加し、両軍は日本海で機関銃の射撃演習などを行った。それ以降も中露両軍が日本周辺海域で合同航行する姿が目撃されている。こういった現実は、まさに中露の接近、共闘を示すものだろう。

しかし、中国としてもプーチン大統領の暴走には距離を置く姿勢を示し始めた。9月中旬、プーチン大統領と習国家主席がウズベキスタンで約半年ぶりに顔を合わせたが、その際、両者は「この半年間でも世界は劇的に変化したが変わらないものが一つある。それは中露の友情だ」「激変する世界で中国はロシアとともに大国の模範を示し、主導的役割を果たす」と中露関係の重要性を改めて確認し合ったものの、ウクライナ問題に話が移ると、習国家主席は無言を貫き、プーチン大統領が「中国側の疑念や懸念を理解している。中国の中立的立場を高く評価する」と発言した。

これまで、中国がロシアに対してこの問題で苦言を呈したり、不快感を示したりすることはなかったが、9月の会談は両国の間で乖離が生じていることが初めて浮き彫りとなった。

そして、ロシアの伝統的友好国であるインドは最近、中国より明確な態度で反対を示している。インドのモディ首相は9月はじめ、ロシア極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラムの場でプーチン大統領と会談し、「今は戦争や紛争の時代ではない」と明確にロシアの行動を批判した。インドの外相も9月、国連の場でロシアを名指しで非難することは避けつつも、ウクライナ侵攻によって物価高やインフレが生じたとし、ロシアへの不快感を滲ませた。

核の使用に至る前に

中国は対米でロシアを戦略的共闘パートナーとして、インドは武器供与でロシアを伝統的友好国と位置づけており、両国ともロシアとの関係が冷え込むことは避けたいのが本音だ。しかし、ウクライナ情勢がプーチン大統領の暴走という時代に入ったことで、これ以上は今までのような関係は維持できないという焦りや危機感を抱き始めている。今後、両国とロシアの関係が一気に冷え込むことはないが、中国インドはロシアと“1つの壁で遮る”ような態度で接していくことだろう。

いずれにせよ、プーチン大統領は内外双方で苦境に立たされており、これまでの姿勢から考慮すれば、核というオプションも現実味を帯びてきている。中国やインドのロシア離れがプーチン大統領の暴走に拍車を掛けないことを望むまでだ。