【2023年の経済】4月、政府・日銀のアコード見直しに注目
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【2023年の経済】4月、政府・日銀のアコード見直しに注目

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「卯は跳ねる」というのが、株式市場の格言だが、2023年の日本経済も「卯」のように飛躍できるだろうか。

年の前半にイベント目白押し

鍵を握る3大イベントは4~5月に訪れる。まず1つ目のイベントは4月8日の黒田東彦日銀総裁の任期満了に伴う新総裁へのバトンタッチだ。2つ目のイベントは4月9日、同23日の統一地方選挙(道府県知事選投開票)、そして5月19日に広島市で開催される主要7カ国首脳会談(G7サミット)だ。年の前半におけるこの3イベントが日本経済の潮流を決めると見ていい。

一方、グローバルには、中国のゼロコロナ解除後の経済回復の行方、世界的なインフレ高進と基軸通貨米ドルを司るFRB(米連邦準備理事会)による利上げ打ち止めのタイミング、そしてロシア・ウクライナ戦争に停戦の可能性はあるのかなど、数多くの鍵を握る要素が存在し、当然のことながら日本経済へも多大な影響を及ぼす。こうした国内外のキーファクターがシンクロするように進む2023年が予想される。

黒田総裁の変節とポスト黒田

日銀は12月19~20日の金融政策決定会合で大規模な金融緩和を修正する方針を決めた。長期金利の変動許容幅を従来の0.25%程度から0.5%程度に広げたもので、事実上の利上げを意味すると受け止められている。アベノミクスの象徴だった異次元緩和は10年目に転換点に差し掛かったことは確かだ。

これまで日銀の黒田東彦総裁は長期金利の変動許容幅の拡大について「明らかに金融緩和の効果を阻害する」と明確に否定していただけに、市場は虚を突かれた格好になった。黒田総裁は12月20日の記者会見で、今回の政策転換について「景気にはまったくマイナスにならない」と、これまでの説明を一変させた。変節の背景には何があるのか。鍵は11月10日の岸田文雄首相と黒田総裁の面談にあったようだ。

「余分なことまで会見で言わないように」。朝日新聞によると、11月10日午後、首相官邸を訪れた黒田総裁は、面会した岸田首相からこう釘を刺されたという。岸田氏が問題視したとみられているのは、大規模な金融緩和の維持を決めた9月22日の金融政策決定会合後の記者会見だったとされる。

当時、与党内では、「急激な円安に伴う物価上昇」を懸念する声が強かった。利上げを急ぐFRB(米連邦準備理事会)に対して、頑として金融緩和を続ける日銀。日米の金利差に起因すると見られる円安を前に、与党内には黒田総裁の姿勢を疑問視する声が絶えなかった。にもかかわらず黒田総裁は9月22日の記者会見で「当面、金利を引き上げることはないと言ってよい」と述べ、緩和を引き締めに転じる時期について「2~3年先」と自身の任期後にまで言及した。次期総裁の任命権を持つ岸田首相の手足を縛りかねない発言に、苦々しい思いを抱いたのは想像に難くない。

しかし、その一方で、日銀は政府が発行する国債を市場から大量に購入することで、金利を低位に抑え込んでいる。大規模な金融緩和の転換は財政問題へと飛び火しかねないリスクを孕む。日銀の姿勢を批判することは簡単だが、その処方箋は難題だ。

事実、日銀の国債保有残高(国庫短期証券を除く時価ベース)は、9月末時点で535兆6187億円と、発行残高の50.3%を占め、初めて5割を超えた。異次元緩和がスタートした10年前は約10%であったことを考慮すれば、いかに日銀が国債を購入し、金融緩和を継続してきたかがわかる。

だが、「国の借金の半分以上を日銀が引き受けている構図はやはり異常だ。いずれ是正される局面が訪れるだろう」(市場関係者)とみられていた。そのとき、国の財政運営はどうなるのか。多額の公的債務を抱えるものの、日本のソブリン格付けは最高水準に維持されている。しかし、このまま大規模な財政出動を続ければいずれ限界が来るかもしれないと危惧されている。

日銀関係者によると、大規模金融緩和の継続に固執する黒田氏に対して、日銀事務方は緩和を徐々に手仕舞うべきと考えていたという。2022年3月に長期金利の変動幅を上下0.25%程度まで広げた真意は、日銀事務方によるステルステーパリング(緩和縮小)で、その幅をさらに広げていくことで、緩和をなし崩しすることが狙いだったというのだ。今回0。5%程度まで変動許容幅を広げたのは、その延長にあると言っていい。変節したのはまさに黒田総裁その人ということだろう。

そうしたなか、はやくもポスト黒田の人事に注目が集まっている。有力候補と目されているのは前日銀副総裁の中曽宏氏(東大大学院経済学研究科金融教育センター特任教授、大和総研理事長)と、中曽氏と同じ日銀プロパーで、黒田総裁の懐刀として現在、日銀事務方を統括している雨宮正佳副総裁だ。「中曽氏はロンドン事務所勤務や国際決済銀行への出向など主に国際畑が長く、海外の通貨マフィアなど海外要人と広い人脈がある。一方、雨宮氏は若い頃から一貫して企画畑で育ち、エリート街道まっしぐらで副総裁まで上り詰めた逸材」(日銀関係者)という。

さらに、政界ではこの2人のほか、日銀出身で日本総合研究所理事長の翁百合氏や元日銀副総裁の山口廣秀氏(年金積立金管理運用独立行政法人経営委員長)の名前も浮上している。「日本長期信用銀行に勤務した経験のある岸田首相だけに、経済運営における日銀総裁の重要性を政界の誰よりも熟知している。女性の総裁登用というサプライズ人事があるかもしれない」(与党幹部)という指摘も聞かれる。

岸田政権の支持率低下と統一地方選

2年目に入った岸田政権だが、国民からの支持率は低下の一途を辿っている。昨年12月中旬の全国紙などの支持率調査では政権発足以来最低の20~30%台で推移しており、いずれの調査でも不支持率が支持率を上回っている。「岸田政権は存亡の危機という表現は行き過ぎかもしれないが、かなりきわどい立場になりつつある」(野党幹部)と言っていい。

旧統一教会との関係や政治資金をめぐる不正などの問題が支持率低下に直結している面は否めないが、コロナ禍が継続するなか、過度の円安やインフレ進行に伴う生活難に対して有効な手を打てないでいることへの失望感も強い。特に唐突に防衛費の引き上げ「GDP2%」を提唱し、これから必要となる防衛費増を既存の余剰や効率化により財源を捻出し、それでも足りない一年あたり約1兆円強の財源を税金(国民負担)で賄う方針を自民党税調に指示したことも支持率低下に拍車を掛けたとみられる。

また、看板施策として打ち出した「新しい資本主義」についても、NISAの拡大(少額投資非課税制度)の拡大程度しか打ち出せておらず、「資産所得倍増プラン」としては力不足とみられている。また、肝心な賃金引上げによる富の再分配と成長の加速も未だ道半ばだ。

岸田政権の低支持率を見る限り、4月の統一地方選も苦戦が予想される。4月9日には道府県と政令指定都市の首長・議員選が投開票され、同23日には政令市以外の市区町村の首長・議員選挙が投開票される。その数は981件にのぼる。「統一地方選挙の結果次第によれば、岸田政権のレームダック化が決定的になる可能性もある」(野党幹部)と指摘される。

G7サミットと総選挙の行方

そうした支持率低下に歯止めをかけると期待されているのが、岸田首相の地元・広島で5月に開催される主要7カ国首脳会談(G7サミット)だ。このG7にはウクライナのゼレンスキー大統領もオンラインで参加する見通しで、岸田首相は年頭所感で「力による一方的な現状変更や核による脅しを断固として拒否する強い意思を、歴史に残る重みをもって示していきたい」と強調した。4月の統一地方選挙とG7をテコに、岸田首相は解散総選挙を決断する可能性も囁かれている。

日本経済はこうした政治日程を睨みながら、政府の政策運営に大きく左右されることになろう。繰り返しになるが最大の焦点は4月の次期日銀総裁人事に注がれる。岸田首相は、次期総裁の就任と合わせて、政府と日銀が2013年に結んだ2%の物価を目標とするアコード(共同声明)を見直す方針を示している。どういった内容の新アコードになるのかは未知数だが、誰が次期総裁に就いても、待っているのは黒田総裁が10年近く続けてきた異次元緩和の後始末であり、「出口戦略」という難題であることには変わりはない。

異次元緩和の終焉は、とりもなおさず、世の中に「金利が復活する」ことにつながる。このことは同時に、これまでゼロ金利下で先送りされてきた過剰債務企業や個人の淘汰が始まることを意味する。日本経済は金利上昇という痛みを乗り越えなければならない年となろう。