2023年も地政学リスク分析を専門にする米コンサルティング会社ユーラシア・グループが「世界10大リスク」を発表した。1位は「世界で最も危険なならず者国家」としてロシアが挙げられ、2位は「絶対的権力者」として中国の習近平国家主席となり、以下、「大混乱生成兵器」「インフレショック」「追い詰められるイラン」「エネルギー危機」「世界的発展の急停止」「分断国家アメリカ」「TikTokなZ世代」「逼迫する水問題」が世界10大リスクとなった。
「世界で最も危険なならず者国家」「絶対的権力者」が2大リスクに
2023年の報告書で、ユーラシア・グループは、ウクライナ侵攻から1年が経つなか、ロシアは戦況で勝利するための軍事的選択肢は残っておらず、核使用に軍事的威嚇が激化する可能性があり、欧米の安全保障に深刻な影響を及ぼす恐れを指摘した。
また、中国については異例の3期目に入った習政権について言及し、習近平は絶対的権力者になったが、側近たちは異議を唱えられないイエスマンで固められたことで、習氏を制約するチェック・アンド・バランスがほとんどなく、深刻な過ちを犯す可能性が高まったと指摘した。
2023年世界10大リスクは、2022年の世界情勢を如実に反映するものになった。昨年の2大ニュースといえば、多くの人がウクライナに侵攻したロシア、緊張が高まる台湾情勢を含んだ中国を挙げると思われる。しかも、ユーラシア・グループが今回両問題を1位2位に挙げた背景には、両問題が落ち着く傾向は一切見えず、場合によってさらに情勢が悪化する強い蓋然性があるからだと思われる。
新たな技術がリスクになる可能性
残り8つのリスクのうち、エネルギー危機とインフレショック、世界的発展の急停止は、ウクライナ危機からの影響によってリスクに肥大化する恐れがあり、それによって10大リスクに挙げられた可能性が考えられる。
周知のように、2022年はウクライナ危機によって世界的な物価高に拍車がかかり、ペルーやスリランカなどグローバルサウス(発展途上国)では大規模な抗議デモ、治安当局との衝突などに発展し、多くの死傷者・逮捕者が出た。欧米先進国でも、ベルギーやチェコ、イギリスなどで大規模な抗議デモが起こった。ユーラシア・グループは、現在進行形のウクライナ危機によって第2次物価高パンデミックの恐れも視野に、上記3つのリスクを含んだのかも知れない。
また、TikTok なZ世代や大混乱生成兵器、逼迫する水問題などは、今後10年、20年先を見据えて肥大化するリスクについても言及されている。
今後の世界をリードしていくのはいわゆるデジタルネイティブの世代であるが、世界的に技術革新が進むなか、今後はデジタルネイティブによる技術の悪用がひとつのリスクだ。AI兵器や自律型ドローンなど軍事技術も飛躍的に高まっていくなか、今後も今日のように大国間対立が続くのであれば、そこで用いられる最新兵器によって被害が寛大になる恐れもあろう。
“近代化されていく人”“近代化されていくモノ”の関係というものは今後の世界情勢にとって大きなリスクなる可能性もあり、こういったイシューは今後世界10大リスクで常連になっていくかも知れない。
日本も無関係ではない? 水・食糧不足
一方、水問題も同様に今後10年、20年先を見据えて肥大化するリスクだ。水問題は以前から言われていることだが、それを悪化させる恐れがあるのが世界的な人口爆発だ。日本では少子化に歯止めがかからず社会問題になっているが、世界ではグローバルサウスを中心に各国で今後若者の人口が急増する見込みで、2022年11月に世界人口は80億人に達し、2030年に約85億人、2050年には97億になるといわれる。
しかし、今日のエネルギー危機のように、今後は水を含む食糧需要が一気に増し、世界的な資源獲得競争が激しくなる恐れがある。昨年、世界的な物価高によって世界各国から悲鳴が聞かれたように、急激な人口増加は各国で経済格差や失業などを深刻化させ、それによって暴動やテロ、ひいては内戦や国家間衝突などを誘発しかねない。この問題も、今後世界10大リスクでランクを上げ、それに関連する問題もランクインしてくることも考えられよう。
おそらく2023年も何らかの問題が大きく悪化し、関連する問題が「世界10大リスク2024」にランクインしてくるだろう。もしかすると、来年1月には台湾で総統選挙があるので、世界10大リスク2024には台湾政治と中台関係がランクインしてくるのかも知れない。
しかし、重要なのは、たとえ今年とは違う問題が来年多く入ったとしても、それらと今年の問題の多くはつながっており、それぞれのリスクは別物ではないということだ。世界の多くの問題は相互作用の関係にあり、今年ランクインした問題でも、アメリカの行方によって、1位のロシア、2位の中国の行動は大きく変わる。また、それによってエネルギー危機やインフレショックは大きく動く。以上のような構えで、2023年の世界情勢をみていく必要があろう。