地銀は1県1行に集約される 地銀再編が本番入り
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地銀は1県1行に集約される 地銀再編が本番入り

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コロナ禍の経済対策として実施した無担保無保証融資(ゼロゼロ融資)の返済は2023年から本格化。大手信用情報機関の調査によれば、実質破綻状態でありながら事業を続ける、いわゆる“ゾンビ企業”は2022年3月末時点で約18万8000社にのぼると見られている。これら企業の多くはゼロゼロ融資を受けており、その返済は困難を伴う。さらに、欧米の金利上昇に伴い外債投資に多額の評価損が生じている地銀が少なくないほか、日銀による長期金利上場幅の拡大に伴い国債等の評価損益の悪化も懸念されている。令和の地銀再編はどうなるか。

地銀に残された時間は限られている

横浜銀行が2月6日から神奈川銀行にTOB(株式公開買い付け)を行っており、子会社化することが決まった。両行は歴史的にも関係が深く、統合は時間の問題だった。横浜銀行は神奈川銀行に7.76%出資する大株主であり、「神奈川銀行の現在頭取の近藤和明氏は生え抜きですが、それまで長年、横浜銀行出身者が頭取に就く、天下りポストでした」(地銀幹部)と人的関係も深い。

神奈川銀行はもともと横浜銀行の協力でできた相互銀行が前身で、横浜銀行は10年ほど前にも買収を検討した経緯がある。しかし、この時は「資産査定を行った結果、神奈川銀行の不良債権を懸念して断念した」(金融庁関係者)という。

その横浜銀行を再編に駆り立てたのは金融庁の暗黙の圧力だった。「神奈川県の将来の市場規模からみて一行体制でも採算が確保できない恐れがある」(同)という圧力だ。特にコロナ禍に乱発した無担保無保証融資(いわゆるゼロゼロ融資)の返済が2023年から本格化する。横浜銀行でも「当行の貸出先のおよそ半数で返済が始まっている」(片岡達也頭取)という。コロナ禍後の地域経済を支えなければならない地銀がグラついては元も子もないというのが金融庁の問題意識だ。

また、アメリカの利上げや日銀の政策転換による金利上昇から有価証券投資の巨額な評価損が顕在化しつつある地銀も少なくない。残された時間は限られている。1月中旬に全国地方銀行協会で開かれた金融庁幹部と地銀トップとの会合で、金融庁幹部は「これまで以上に時間軸を意識して、必要な改革を着実に進めていただきたい」と、事実上の最後通牒を発している。

加速する「1県1行体制」

金融庁が念頭に置くのは、「1県1行体制」で盤石の地域金融を築くことにある。同体制は昭和前期の大蔵省の施策で「戦時統合」とも呼ばれる。国債消化と戦争遂行のために資金を集中投下することを目的に、同一県内の中小銀行を強制的に大手銀行に集約していった。現在の政治・経済情勢と酷似しているとの指摘もある。

「1県1行体制」の動きはすでに各地で起こっている。2021年1月に新潟県の第四銀行と北越銀行が合併して「第四北越銀行」となったのを皮切りに、同年5月には三重銀行と第三銀行が合併して三十三銀行が誕生した。さらに同年10月には福井銀行が同じ福井県内の福邦銀行を子会社化している。

この流れは2022年に入りさらに加速した。22年4月に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を行い、共同持ち株会社のプロクレアホールディングスを設立した。両行は25年1月を目途に合併し、「青森みちのく銀行」となる予定だ。

さらに2022年9月に八十二銀行と長野銀行が経営統合を発表、23年6月に八十二銀行が長野銀行を完全子会社化し、25年を目途に合併する計画だ。また、22年10月には愛知銀行と中京銀行が統合し、持ち株会社「あいちフィナンシャルグループ」を設立、24年10月に合併する予定となっている。さらに22年11月には地銀グループ最大手のふくおかフィナンシャルグループが、同じ福岡県内の福岡中央銀行を完全子会社化すると発表した。そして、冒頭の横浜銀行による神奈川銀行の完全子会社化と続く。

「横浜銀行は東日本銀行と持株会社形式で経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループを形成しており、そこに神奈川銀行が吸収されるものだが、同じ地銀グループでトップの座を競うふくおかフィナンシャルグループによる福岡中央銀行取り込みに刺激されたことは間違いない」(地銀幹部)と見られている。

次は人口減少の著しい東北地域の再編が進む?

これら一連の同一県内での統合の背後にいるのはいうまでもなく金融庁だ。金融庁は各県で「第一地銀と第二地銀を統合させる」というシナリオで動いている。そのシナリオの原点は2018年に金融庁の有識者会議がまとめたレポート「地域金融の課題と競争のあり方」に集約されている。このレポートでは、人口減少などにより1行単独でも地銀が生き残れない都道府県が23に上り、1行であればどうにか存続できる都道府県が13になると指摘されている。「全国どこでも地銀の再編が起こってもおかしくありませんが、とりわけこのレポートで指摘された都道府県は金融庁から名指しされたようなもので、お尻に火がついた状態になっています」(地銀幹部)という。

特に同一県内に複数の地銀がひしめく地域はまさにホットスポットだ。例えば、静岡県には静岡銀行はじめ、スルガ銀行、清水銀行、静岡中央銀行の4行がひしめく。また、福岡県も福岡銀行が福岡中央銀行を子会社化することを決めたが、なお西日本シティ銀行、北九州銀行、筑邦銀行の4行・グループがしのぎを削っている。

ただ、静岡県は東西に長く、しかも歴史的な背景もあり、地域ごとに棲み分けができているとの見方もある。また、福岡県も経済規模からみて4行グループが存続できる市場があり、かつ、取引者の規模に応じた棲み分けがみられる。同様に千葉銀行、千葉興業銀行、京葉銀行と県内に3行を擁する千葉県、きらぼし銀行、東日本銀行、東京スター銀行の3行がある東京都。北陸銀行、富山銀行、富山第一銀行の3行が併存する富山県なども存続は可能か。

そうしたなか、次の再編の目玉とみられているのは、人口減少の著しい東北地域ではないかというのが地銀関係者の共通した見立てだ。先に青森銀行とみちのく銀行が経営統合を決断したように、東北地域で3行が併存する岩手県(岩手銀行、東北銀行、北日本銀行)、山形県(山形銀行、荘内銀行、きらやか銀行)、福島県(東邦銀行、福島銀行、大東銀行)などが焦点と見られている。「金融庁が2018年にまとめたレポートでは、宮城県を除く5県が、1行単独でも生き残れない県、あるいは1行単独なら存続可能な県に分類されている。再編は待ったなしだ」(銀行アナリスト)とされる。

金融庁は再編を促すアメも複数用意

金融庁がこうした厳しいレポートで半ば地銀を追い詰めるのは、地銀経営そのものに問題があるというわけではない。むしろ「経営統合で地域の金融システムが安定化し、地域経済に十分な資金が供給できるよう環境整備を図る」ことに目的がある。このため再編を促すため各種のアメも用意している。

再編や経営改革に取組む地銀に対して日銀を通じて当座預金の金利を年0.1%上乗せするのはその筆頭だが、その期限は2023年3月末まで。また、同一県内の地銀が統合して寡占状態になっても認可する独占禁止法の特例法や再編地銀に公的資金を注入する枠組みも用意している。

さらに地銀関係者が声を潜めて指摘するのは、「金融庁はシステムのクラウド化という妙技もくり出している」というのだ。経営統合で最大の問題となるのはシステム統合だが、そのネックを解消するため地銀のシステムをNTTデータのクラウドに誘導しているのだ。

「広島銀行が約20年間続けてきたふくおかフィナンシャルグループとのシステム共同運営を解消し、横浜銀行などが共同運営する『MEJAR』に合流することを決めました。このMEJARはNTTデータが支援する共同システムで、地銀40行がこのシステムに糾合する見通しです」(地銀幹部)という。金融庁は、2021年7月から、経営統合した地銀のシステム統合や店舗統合などで生じた費用の3分の1(上限30億円)を補助する「資金交付制度」も設けている。

金融庁内部には「地銀の数は現在の半分でいいのではないか」との意見も聞かれる。「令和の地銀再編」は燎原の火のように全国に広がりつつある。