半導体の対中輸出規制と安全保障

2023.2.24

社会

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半導体の対中輸出規制と安全保障

写真:picture alliance/アフロ

日本は「Yes」と答えるほかなかった

米中対立が続くなか、昨今半導体をめぐって米中の間で火花が散っている。中国商務省は2月22日、日本が2国間の経済・通商協力を守ることを望むとし、日本がバイデン米政権主導の対中半導体輸出規制に参加することに強い懸念を抱いていると発表した。

バイデン大統領は2022年10月、AI半導体や3D半導体などの先端・次世代半導体の開発・製造に欠かせない技術や部品が中国に流出するのを防ぐため、対中輸出規制を強化する方針を明らかにした。アメリカは、ハイテク兵器の製造に必要な先端半導体を中国が独自で開発・大量生産し、軍の近代化を押し進めることを強く警戒している。

しかし、アメリカのみの規制では中国への技術流出を抑え込めない可能性があることから、バイデン大統領は2023年1月、先端半導体に必要な製造装置で世界シェアを持つ日本とオランダに対し、同規制に加わるよう事実上の圧力を掛けた。1月に岸田文雄首相とオランダのマルク・ルッテ首相がホワイトハウスをそれぞれ訪問した際、バイデン大統領はその際協力を求めたとみられる。

だが、この問題で日本は「Yes」というしか選択肢はなかった。なぜならこれは、外見上は経済・貿易の問題だが、その核心は安全保障にあるからだ。

中国の習近平国家主席は長年、軍民融合を押し進める方針を強調してきた。軍民融合とは文字通り民と軍の壁を取っ払うということで、具体的には、平時からの民間資源の軍事利用、軍事技術の民間転用などを推進することを指す。そして、軍民融合を押し進める中国にとって、ハイテク兵器の製造の核心となる先端半導体はどうしても欠かせないものだ。

仮に、先端半導体に必要な製造装置や技術が中国に流出し、中国が独自で開発・大量生産できるようになれば、人民解放軍のハイテク化が進み、中国の海洋覇権に直面する日本の安全保障にとって大きな脅威となる。日本企業が作った半導体製造装置が中国に輸出され大きな利益が生まれる一方、それがいつの日か日本の安全保障を脅かすことになるならば、今回の要請について日本の選択肢は一つしかなかったと言えよう。実質国防をアメリカに依存する日本であれば、安全保障上大きな問題に対してアメリカに異議を唱えることは難しい。

安全保障の懸念は中国製プロダクトや土地にも

一方、今回の問題からわれわれは何を考えるべきだろうか。それは、上述したように軍民融合とその多様化である。当然ながら、軍民融合が利用されるケースは先端半導体に限定されない。最近、偵察用気球をめぐって米中間で非難の応酬が繰り広げられたが、これもその一つと言えよう。

また、2月、オーストラリア政府は安全保障上の理由から、政府・行政機関に設置されている中国製監視用カメラを全て撤去する方針を明らかにした。撤去される監視用カメラは、中国の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン・デジタル・テクノロジー)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)の製造した監視カメラ900台あまりになる。アメリカとイギリスも2022年11月、中国製の監視用カメラの設置を禁止する方針を発表したが、欧米諸国には中国製カメラが軍事利用され、軍事や安全保障に関わる情報が漏れることへの警戒がある。

また、最近は沖縄本島北部沖にある無人島・屋那覇島を中国人女性が購入したとするニュースが流れ大きな話題となったが、その用途はわからないものの、日本は国内に広がる土地、無人島と安全保障の関係をこれまで以上に考える必要がある。

日本では2021年6月に重要土地等調査法が施行され、安全保障の関連から重要な施設の周辺1キロを「注視区域」に、自衛隊基地や国境離島など特に重要とされる区域を「特別注視区域」に設定し、必要に応じて国が不動産所有者の国籍や用途を調査できるようになった。しかし、重要土地等調査法では注視区域や特別注視区域に該当しない無人島は規制の対象外となっている。台湾有事、そして太平洋への進出を目指す中国にとって、南西諸島に散らばる無人島の利用価値は低くない。こういった問題でも軍民融合が利用される可能性が十分にある。

アメリカからの圧力は多様化してくる

そして、軍民融合と関連することだが、米中対立の高まり、長期化によって、アメリカの日本への要請圧力が高まる可能性がある。今回は半導体関連で事実上の圧力が掛かったわけだが、今後は日本国内で流通する中国製品、また民間の土地などで規制を強化するよう求める声が強まるかも知れない。

近年は台湾問題をめぐってアメリカの必死さも顕著になっているように感じる。米議会でも対中警戒論は党派を超えて広がり、台湾は民主主義と専制主義の対立の最前線の様相を呈してきている。言い換えれば、台湾自身がアメリカの国家安全保障問題となっており、それに関連する問題でアメリカはよりいっそう同盟国や友好国に協力を求めてくるだろう。この観点で言えば、多様化する軍民融合でアメリカの日本への圧力も多様化してくる可能性を検討するべきだろう。