開戦から1年、ウクライナ戦争と日本企業 政治と経済のジレンマ

露のウクライナ侵攻から1年、バイデン米大統領がポーランドで演説 写真:ロイター/アフロ

社会

開戦から1年、ウクライナ戦争と日本企業 政治と経済のジレンマ

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ロシアによるウクライナ侵攻から1年が経過した。2月20日、アメリカのバイデン大統領が事前予告なしに、ポーランドから陸路でウクライナ入りし、10時間の電車移動で首都キーウに到着、ゼレンスキー大統領と軍事的支援などウクライナへの支援継続で一致した。その直後にはポーランドのワルシャワで演説を行いウクライナへの支援を続ける姿勢を強調。一方、プーチン大統領も2月23日、国民向けの演説の中で侵攻の正当性を強調し、戦闘を継続する決意を改めて示した。これまでの情報を整理すると、今後3月の春あたりから双方の間で戦闘が激化することが予想される。戦争終結に向けた動きは現時点で何も見えていない。

日本企業、脱ロシアの一方で継続も

ウクライナ侵攻によって、ロシアに進出する日本企業の間では脱ロシアの動きが拡大している。JETROが1月下旬にロシアに拠点を置く日本企業198社(99社から回答)を対象に行った調査結果によると、「撤退した・撤退を決めた」と回答した企業が4%、「全面的に停止」が17.2%、「一部停止」が43.4%、「通常どおり」が35.4%となった。また、侵攻から半年あまりが経過した昨年8月の調査と比べ、「全面的に停止」と「一部停止」をあわせた回答は11ポイントも上昇し、6割を超えた。また、帝国データバンクによる調査では、ロシア事業からの撤退を決めたのは進出企業全体の約16%で、先進7カ国(G7)中2番目の低水準となったという。

具体的な動きでは、例えば、日立製作所の子会社である日立エネジーは1月末、ロシアで展開してきた事業を売却したことを明らかにし、大手自動車メーカーのマツダも2022年秋、展開事業を現地の合弁会社や自動車研究機関に売却した。ロシアで約2000人の従業員を抱えるガラス大手AGCも2月上旬、国際情勢を考えると運営する意義がなくなったと判断し、今後ロシア事業の譲渡の検討を始めたと発表した。他の大手企業では、トヨタが現地での生産停止、JALやANAがロシア便の運行停止、ユニクロを展開するファーストリテイリングはロシア国内の全店舗で営業を停止(一部は閉店)している。

反対に、日本たばこ産業は、原材料も十分に調達可能で従業員4千人以上を抱えているなどとし事業継続の方針を明らかにし、大手商社の伊藤忠商事や丸紅、三井物産や三菱商事はサハリン1、サハリン2で事業を継続し、商船三井や日本郵船もロシアからのLNG輸送を続けている。NTTグループやKDDIも国際通信などの一部でサービスを継続している。

経営戦略のなかで地政学リスクをどう考えるか

このような状況から、どのようなことが言えるだろうか。まず、国家間戦争という最悪の政治的暴力が生じても、企業にとってこれまで築いてきたビジネスから撤退することは簡単ではなく、企業によって事情が大きく異なることだ。上述のように、ロシアからの撤退を表明した企業は全体では16%に留まる。一般的な感覚ではもっと多くの日本企業が撤退しているように思うが、企業によって事情は大きく異なる。

例えば、産経新聞の記事(2月20日、「ウクライナ侵略1年 悩ましい日本企業のロシア撤退 雇用責任、対中国で懸念」)によると、事業継続を発表した日本たばこ産業の総売上の2割超がロシアである一方、ガラス大手AGCは2%あまりとされるが、企業によってロシア依存度は大きく異なり、撤退の意味も大きく違ってくる。また、脱ロシアと同時に第三国シフトを展開しやすい企業、業種もあれば、それ無しには経営が滞る企業もある。企業にとって経営戦略のなかでどう地政学リスクを位置づけるかは、極めて悩ましい問題と言えよう。

また、国益、公共性という事情から、脱ロシアと第三国シフトを図りたくてもできない、リスクを承知でお金を費やさなければならない企業もみられる。サハリン1やサハリン2への出資を継続する大手商社にはそういった本音があるかも知れない。日本は輸入する液化天然ガスLNGの9%近くをロシアに依存しており、それを失うと逼迫する日本のエネルギー事情に大きな影響が出る。日露関係が悪化するなかでも、この件については日本政府も出資継続の姿勢を維持しており、ここに政治と経済の大きなジレンマがある。

2023年の侵攻直後から、日本企業の脱ロシアの動きが激しくなったが、しばらくするとその動きは落ち着く傾向になった。侵攻直後は大きな動揺が走ったが、“ウクライナ侵攻”“戦闘中”という状態が続くようになり、企業の間ではしばらく様子を窺う動きが出始めた。侵攻は始まったばかりであり、短期間のうちに収まるかもしれないという認識もあったことだろう。

しかし、2022年9月、軍事的劣勢に立つプーチン大統領が予備役の部分的動員を発表し、ウクライナ東部南部4州のロシアへの一方的併合を発表したあたりから、戦争の長期化は避けられないという認識が徐々に広まっていった。それによって、企業の間でも撤退や事業停止など脱ロシアの動きが再び加速化していったと考えられる。