5月19~21日にG7サミットが広島で開催される。ホスト国である日本は、広島開催であることからも核兵器廃絶やウクライナ支援を継続する姿勢を示すことになるだろう。そして、それ以外に岸田政権が力を入れているのが、グローバルサウス諸国との関係強化だ。実際に岸田文雄首相は、2023年1月13日の米ワシントンD.C.での演説や同月23日の施政方針演説、4月10日の政府与党連絡会議などで関係強化を主張してきた。今、なぜ日本はグローバルサウスを重視するのだろうか。
日本はグローバルサウスとの交流を活発化
4月上旬までに、岸田首相がゴールデンウィークを利用して「グローバルサウス」にあたるエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークのアフリカ4か国を訪問する方向で調整が進んでいることが分かった。グローバルサウスとは簡単に説明すると、途上国と同じ意味で使われ、主にアジアやアフリカ、中南米の途上国、新興国を指す。ちなみに、これに対して先進国が集まる北半球を「グローバルノース」と呼ぶ人もいる。
この訪問について、日本政府はこれらの諸国との会談を踏まえて5月のG7広島サミットに臨むことは、重要な意義があると説明している。今年3月にも岸田首相は、電撃的なウクライナ訪問の直前にインドを訪問してモディ首相と会談。グローバルサウスの盟主であるインドとの関係強化に努め、グローバルサウス重視の姿勢をアピールした。そして、岸田首相は5月の広島サミットにインドのモディ首相を招待し、G7で自由主義陣営とグローバルサウスとの結束を強化したい模様だ。では、なぜ岸田政権はグローバルサウスを重視するのだろうか。ここでは大きく2つの政治的背景を紹介したい。
影響力を強める中国・ロシアとけん制したい日本
まず1つ目は、対中国、対専制主義へのけん制がある。近年、中国による覇権的な現状打破、ロシアによるウクライナ侵攻などにより、欧米主導の自由主義陣営の影響力低下が叫ばれている。大国化する中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」によって途上国へ経済支援を拡大させ、グローバルサウスでの影響力を強めている。さらに最近では、中東の“地域大国”であるイランとサウジアラビアの国交回復で中国は主導的仲裁役を担い、中国と関係を強化するグローバルサウスの国々は増加傾向にある。
また、中国ほどではないが、近年ロシアもシリア内戦に介入するなど、中東での影響を拡大させ、ロシアの民間軍事会社ワグネルはマリやブルキナファソ、モザンビークやスーダンなどアフリカ諸国の間で存在感を強く示すようになっている。また、対テロという分野では、アフガニスタンから米軍が撤退した一方、同国では経済開拓を目指す中国企業の動きが活発化している。マリとブルキナファソではフランス軍が撤退した一方、ワグネルの活動が活発化している。こういった形で欧米の影響力が薄まるところに中国・ロシアが触手を伸ばしており、日本や欧米はグローバルサウスでの中国・ロシアによる影響力拡大を懸念している。
5月の広島サミットで、岸田首相はインドのほかに韓国やオーストラリア、そしてウクライナ(ゼレンスキー大統領はオンラインでの参加予定)など、価値観を共有する国々を招待した。ここで改めて自由や人権、民主主義といった普遍的な価値の重要性を内外に強く示し、中国やロシアなどの専制主義を強くけん制したい狙いがある。
そして、グローバルサウスの盟主であるインドをG7に招待することで、欧米主導の自由主義陣営とグローバルサウスとの結束を強化する目的がある。ここからも、グローバルサウスをめぐる大国間対立の構図が読み取れそうだ。
関係強化は日本の主体性・独立性がカギ
2つ目の背景は、日本の主体性・独立性の問題だ。G7のメンバーとして、日本が自由民主主義陣営とグローバルサウスとの関係強化を主導することは極めて重要だ。しかし、グローバルサウスは1つの塊ではない。
グローバルサウスが欧米や中国、ロシアとは距離を置く第3陣営のように見られることもあるが、グローバルサウスに属する国々はそれぞれ国益を第一に考え、自律的に外交を展開。その立ち位置は国々によって異なる。
ウクライナ戦争や台湾情勢など、大国間対立の影響から距離を置く国もあれば、中国との関係を重視する国、中国を脅威ととらえて再び欧米に接近する国、エネルギーなどでロシアと関係を密にする国など、グローバルサウスの中は極めて複雑化している。
このようなグローバルサウスの複雑性を考慮すれば、日本が接近してくることを警戒する国もあろう。昨年もグローバルサウスに属する国々からは、「途上国を再び冷戦に巻き込むべきではない」など「大国警戒論」が多く聞かれた。日本が対中国、対専制主義という視点で、グローバルサウスに接近することには限界が見える。
そこで重要となるのは、アメリカと中国の対立などとは一線を画す、日本の主体性、独立性である。昨今、アメリカと中国の対立の激化で、日本はその狭間で難しい舵取りを余儀なくされているが、今後、国際社会でグローバルサウスの影響力が高まることを想定すれば、日本自身がグローバルサウスの国々と独自の関係を築いていく必要がある。
岸田首相はゴールデンウィークにエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪問するというが、ここでは自由主義陣営であることだけでなく、2国間関係の強化のために日本の独自性も強く示す必要がある。言い換えれば、日本の主体性・独立性を世界にアピールするチャンスでもある。それは広島サミットにも影響するだろう。岸田首相がグローバルサウスとの関係強化に乗り出す背景には、少なくともこの2つの政治的背景があると言えよう。