【激化する中東情勢】欧米諸国とは違う中国・ロシアの思惑

2023.11.1

社会

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【激化する中東情勢】欧米諸国とは違う中国・ロシアの思惑

中東情勢について電話会談したとされる中国の王毅外相とブリンケン米国務長官 写真:ロイター/アフロ

武装組織ハマスによるイスラエルへの突然の攻撃により端を発した中東情勢は、依然収まる気配を見せない。欧米諸国がイスラエル支持を表明するなか、中国はパレスチナ寄り、ロシアはどちらにも与さないという立ち位置にある。その裏にある中国とロシアの思惑はどのようなものだろうか。

中東諸国はパレスチナ寄り

10月7日、パレスチナ・ガザ地区を実行支配するイスラム原理主義組織ハマスがイスラエル領内へ数千発のロケット弾を発射するなど、空、陸、海からの攻勢を仕掛けて以降、戦闘がエスカレートしている。

ハマスの戦闘員らはイスラエル領内に侵入し、外国人を含む130人以上を拉致してガザ地区に連行し、ハマス側はイスラエルの対応次第では人質を殺害すると警告した。しかし、イスラエル側がガザ地区への空爆を強化したことから、すでに一部の人質は殺害されたとみられる。

アメリカを中心に欧米諸国は一貫してイスラエル支援に回っているが、ハマスを長年支援するイランが介入する可能性をイスラエルに示唆し、イスラエルとの国交正常化を目指してきたサウジアラビアがその動きにストップをかけるなど、中東諸国の間ではパレスチナ支持、支援の動きが広がっている。

その様相は、過去幾度も繰り返されてきた中東戦争の前兆を見ているかのようである。これ以上、紛争が拡大せず、第5次中東戦争にならないことを願って止まない。一方、イスラエル情勢をめぐって諸外国の動きに変化が見られるなか、中国とロシアは今日の状況をどうとらえているのだろうか。

中東諸国との摩擦を避けたい中国

まず、中国はイスラエル、ハマス双方に暴力の自制を呼び掛けているが、これまでの発言などからパレスチナ寄りの姿勢を示している。中国の王毅共産党政治局員兼外相は10月12日、この問題の本質はパレスチナ人民に正義が果たされ続けていないことにあると、ハマスが実行支配するガザ地区への反撃を続けるイスラエルを批判した。

また、王毅氏は14日にアメリカのブリンケン米国務長官と電話会談し、事態の打開を図るため早期に国際会議を開催すると提案し、軍事的手段による解決はできないと訴え、イスラエルとパレスチナの2国家共存による解決を模索するべきとの認識を示した。

和平を仲介するかのような中国側の姿勢の本音はどこにあるのだろうか。

2023年春、中東の覇権争いで対立してきたイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアと、シーア派の盟主イランが7年ぶりに国交正常化を発表した。以前、サウジアラビアのムハンマド皇太子は、イランが核を持てばサウジも保有すると発言するなど、サウジアラビアとイランは中東で影響力を拡大しようとする動きを互いに警戒してきた間柄だったが、このとき、中国が仲裁役を果たすことで国交正常化にまでこぎ着けた。

中国とイランは対米で共闘関係にあり、一帯一路やエネルギー分野など経済面でも結び付きを強化している。一方、脱石油の経済多角化を目指すサウジアラビアも近年経済面で中国との関係を強化している。両国にとって中国が重要なパートナーになるなか、中国が中東の緊張緩和で大きな存在感を示したのである。

両国の関係が大きく改善したことは、中国の存在感を他の中東諸国に強く示すことにもなった。中国は経済面でアラブ諸国との関係を重視しており、中東は中国にとってひとつの経済フロンティアとも言える。

そのような状況で、中国としては今回の事態でイスラエル支持の立場に回ることは得策ではない。仮にそうすれば、イスラエルと犬猿の仲にあるイランからの反発は必須で、他の中東諸国との関係にも摩擦が生じることになり、中東で影響力を深めたい中国にとって大きなマイナスとなる。

中東情勢に乗じてウクライナ戦争の形勢逆転を狙うロシア

一方、ロシアのプーチン大統領は、今日の悲劇はアメリカの中東政策の失敗によるものだと批判し、軍事力で勝るイスラエルに過剰な対応を控えるよう自制を求め、双方の間で停戦を仲裁する用意があると表明した。

今日のロシアの立ち位置は、イスラエル支援の欧米とは一線を画す一方、中国ほどパレスチナ寄りでもなく、双方に自制を求めるという第三者的なものと言えよう。だが、ロシアの本音は他にありそうだ。

ロシア政府は今年9月末までに、2024年の国防費を2023年の約1.7倍に増額する予算案を連邦議会に提出した。ウクライナ戦争が長期化するなか、武器弾薬の増産や兵士補充などに充てるとみられるが、プーチン大統領にはウクライナを支援するアメリカなど欧米諸国の関心が中東に移り、ウクライナ問題が手薄となり、それによって形勢逆転を仕掛けられるという思惑があろう。

今日、中東に関心が寄せられ、ウクライナ問題に焦点が以前ほど当たらなくなっており、ゼレンスキー大統領もそれを強く危惧している。欧米諸国では“ウクライナ疲れ”も広がっており、プーチン大統領はまさにそれを好機ととらえているだろう。今日のイスラエル情勢が激化、長期化すればするほど、ロシアにとっては好条件となることが懸念される。