イスラエルと武装組織ハマスの戦闘は解決策も妥協点も見つからぬまま激化の一途をたどっている。戦禍の拡大に伴って次に懸念されるのは、対立の火種が飛び火して国際的なテロへ発展することだ。すでにその予兆は現れつつあり、今後、海外在留邦人を巻き込む恐れもある。
戦禍の拡大で相次ぐ邦人の帰国
イスラエルとハマスとの軍事衝突がエスカレートするなか、イスラエルと諸外国を結ぶ国際線フライトの運休が広がっている。10月7日のハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃以降、10月10日時点でドイツのルフトハンザ、エールフランス、ハンガリーのウィズエアー・ホールディングス、アメリカのデルタ航空やアメリカン航空、ユナイテッド・エアラインズ・ホールディングスなどが相次いでイスラエルの都市・テルアビブ便の運航を停止した。
今後の事態がさらに悪化すれば、運行停止はさらに拡大することから、イスラエル在住の外国人の間でも帰国する動きが広がっている。イスラエルには、商社やメーカー、IT企業など90あまりの日本企業が進出。一部の日本人は退避が完了しているが、現時点で1000人近くの日本人がイスラエルに在住しているという。10月14日には、韓国軍の輸送機に日本人51人も搭乗し、ソウル近くの空港に無事に到着した。
このようななか、日本の外務省は10月10日、ガザ地区および境界周辺の危険度を「3」(渡航中止勧告)から「4」(退避勧告)に引き上げたが、韓国など諸外国と比べると日本の対応が遅いとの非難の声も上がっており、今後これについては別途議論が必要だろう。
今後、想定しうる国際的テロ
一方、海外在留邦人の安全という視点からは、「イスラエルから退避できたから安全」で済ましてはならない。今回のハマス側からの攻撃は、これまでとは比較にならない規模で、それだけ世界に激震を与えている。
アラブ諸国では反イスラエル、パレスチナ支持の抗議デモが広がり、世界各地に点在するパレスチナ・コミュニティの間でも同様の動きが見られ、イスラエル支持派のグループとの衝突が懸念されている。そして、スンニ派のイスラム過激派や親イランの武装勢力らもイスラエルを非難し、パレスチナ支持の姿勢を示している。中にはテロを呼び掛ける組織もあり、国際的なテロ情勢の観点からも懸念が強まっている。
例えば、今日までに、国際テロ組織アルカイダを支持する武装勢力は相次いでパレスチナ支持のメッセージを配信している。ソマリアを拠点とするアルカイダ系の【アルシャバーブ】は、「ハマスによるイスラエルへの攻撃は偉大なものとして歓迎される正当なジハード(聖戦)だ」と題するメッセージを配信。シリアを拠点とする【フッラース・アル・ディーン】、イエメンを拠点とする【アラビア半島のアルカイダ(AQAP)】、サハラ地域や北アフリカを拠点とする【マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)】【イスラム・ムスリムの支援団(JNIM)】【インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)】など、他のアルカイダ系組織も同様のメッセージを発信している。
だが、こういったアルカイダ系組織の活動は長年ほぼ地域的なものに限られており、プロパガンダ的な役割に留まる可能性が高い。しかし、アルカイダ系組織の呼び掛けに応じる形で、欧米諸国などで生活する若者のイスラム教徒が過激思想の影響を受け、一匹狼的なテロを行うリスクが確実に高まっている。
欧米諸国で高まりつつあるテロのリスクはアジアにも
フランス北部のアラスでは10月13日、刃物を持った男が高校を襲撃し、教師1人が死亡、別の教師ら数人が負傷する殺傷事件があった。捕まった男はチェチェン系の20代で、犯行当時は「アラー・アクバル(アラビア語で『神は偉大なり』)」と叫んだとされる。フランス当局は、今回の事件とハマス・イスラエル軍の戦闘と関連があるとしてテロ事件として捜査を開始し、フランス全土では同日、国内のテロ警戒が最高レベルに引き上げられた。 こういったイスラム過激思想関連の単独的なテロは、他の欧米諸国でもリスクが今日高まっている。
また、世界各地にあるイスラエル権益、ユダヤ教権益を狙ったテロにも注意が必要だ。親イランの武装勢力はすでにそういった主張を展開しているが、親イランの武装勢力だけでなく、反イスラエル感情を強めた個人によるテロが各国で発生するリスクも強まっている。例えば、10月13日、中国の北京ではイスラエル大使館に勤務する外交官が何者かにナイフで刺される事件が発生したが、同様のケースが各国で発生する恐れがある。
海外在留邦人の安全という視点からは、各国にあるイスラエル大使館や領事館、イスラエル企業、ユダヤ教寺院のシナゴークなどには決して近づかないなどの注意喚起が必要だろう。