自民1勝1敗 衆参補選で浮き彫りになった首相の求心力低下と、まとまれない野党
2023.10.24
1コメント写真:つのだよしお/アフロ
衆参のダブル補欠選挙が10月22日に投開票され、衆院長崎4区は自民党の新人が競り勝ったものの、参院徳島・高知選挙区は野党系元職が自民党新人を大差で退けた。岸田政権にとっては「1勝1敗」で最悪の結果は逃れたが、有利とみられた衆院長崎4区でも接戦に持ち込まれたことで首相の求心力低下は必至。永田町では「年内解散は困難」との見方がさらに広がりそうだ。
僅差で自民勝利となった衆院長崎4区
「結果を真摯に受け止め、地域の政治情勢、合区の影響をしっかり分析した上で今後の対応に万全を期していきたい」
岸田文雄首相は10月23日、ダブル補選の結果についてこう語った。
まず、衆院長崎4区補選は、自民党で岸田派所属だった北村誠吾氏の死去に伴うもの。自民党は同じく岸田派所属だった元参院議員の金子原二郎氏の長男、容三氏を擁立し、「宏池会(岸田派)の選挙」として派閥を挙げた選挙戦に取り組んだ。立憲民主党は前回2021年衆院選で北村氏に敗れて比例復活していた末次精一氏が辞職して立候補した。
日本維新の会や共産党など野党各党は候補の擁立を見送ったため、自民と立憲との一騎打ちの激しい選挙戦となった。自民党にとっては強固な保守地盤であり、なおかつ北村氏の弔い合戦。衆参両院議員や長崎知事などを歴任した原二郎氏が選挙の陣頭指揮を執ったこともあり、金子氏有利との見方が大勢だった。しかし、野党陣営が物価高や“世襲”批判を展開して徐々に巻き返し、最終的には7000票差の僅差となった。投票率は42.19%。
参院徳島・高知選挙区は圧倒的得票差で野党勝利
参院徳島・高知選挙区は、自民党の前職が元秘書への暴行疑惑で辞職したことに伴うもの。野党は民主党や立憲で衆参両院議員を務めた広田一氏を無所属の「野党統一候補」に決定。政党色を前面に出さずに野党各党の地方組織が支援する選挙戦を展開し、自民党新人で、高知県議だった西内健氏との一騎打ちを制した。
広田氏は高知を地盤に参院を2期、衆院1期を務めて知名度が高いことから有利との見方あったことから、選挙戦では保守層にも徐々に浸透。、マスコミの情勢調査でも日に日に差が開いたとされる。実際の得票は、広田氏が23万票、西内氏14万票で9万票差の圧勝だった。2016年から合区となった参院徳島・高知選挙区で野党候補が勝利したのは初めて。投票率は32.16%。
辛勝・惨敗の原因は、物価高に無策な岸田政権への批判のあらわれか
衆院長崎4区と参院徳島・高知選挙区は、共にもともと、自民党の議席であり保守地盤。自民党が2勝してもおかしくないはずだが、長崎で辛勝、徳島・高知で惨敗となったのは、岸田政権の支持率低下が直撃したからだろう。
共同通信社が10月14、15日に実施した世論調査では、内閣支持率が前月から7.5ポイント下落し、32.3%で2021年10月の内閣発足以来、過去最低となった。不支持率は、2.8ポイント増の52.5%で過去最高。特に物価高対策への無策を批判する声が多かった。また、防衛費や社会保障費など大規模な財源の論議によりSNSなどでは首相を「増税メガネ」と揶揄する声が目立つ。
こうしたなか、岸田政権は政権浮揚と補選のテコ入れのために「所得税の減税」を模索。10月20日の臨時国会初日に所信表明演説で打ち出そうとしたが、野党が拒否したことで同日に与党幹部に所得税減税の検討を指示するにとどまった。こうした動きには野党から「選挙目当ての悪手」(立憲の岡田克也幹事長)との批判が出ている。
共同通信が実施したダブル補選の出口調査によると、衆院長崎4区では金子氏が自民、公明両党の支持層の多くから支持を得たものの、無党派層からの支持は36%で、63%は末次氏に流れた。参院徳島・高知選挙区では広田氏が無党派層の82%から支持を受け、西内氏はわずか17%にとどまった。今回はともに保守地盤だったが、無党派の多い都市部であれば野党候補が圧勝していてもおかしくないだろう。
岸田首相は10月20日召集の臨時国会冒頭での解散は見送ったものの、物価高対策を含めた経済対策を実施するための補正予算を成立させた上で、年内に解散する可能性は残っている。しかし、首相は23日、年内解散について「先送りできない課題に一つひとつ向き合い、取り組んでいかなければならない。今はそれに専念すべきとき、それ以外のことは考えていない」と否定した。ただ、内閣支持率は危険水域に近づいており、11月に発表する経済対策の内容次第では「岸田おろし」につながる可能性すらある。
まとまれない野党の課題は“支持率のねじれ”の解消
一方、野党である立憲の泉健太代表にとっては2021年11月の就任以来、国政選挙での初勝利となった。ただ、参院徳島・高知選挙区で勝利した広田氏は、保守層取り込みに向け立憲の看板を封じ、街頭演説でも党名には触れなかった。
全国的に注目される補選では知名度の高い候補が有利のため、野党として競い合う日本維新の会や共産党などは候補の擁立を見送ったが、「野党統一候補」と言えるほどまとまって戦ったわけではない。次期衆院選に向けては、野党各党が全国で独自に候補の擁立を進めており、候補統一への機運も高まっていない。特に野党第一党の立憲の支持率が低迷し、第二党の維新が上回っていることが事態を複雑化させている。“強い野党”がリーダーシップを発揮しない限り、調整はうまくいかない。
首相の求心力低下が進む与党と、まとまれない野党。臨時国会の開幕で東京に議員が集結するなか、補選結果を踏まえてそれぞれの駆け引きが激しくなりそうだ。
匿名
なき
2023.11.16 08:56