イスラエル・パレスチナ衝突の背景にあるイランの存在

2023.10.19

社会

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イスラエル・パレスチナ衝突の背景にあるイランの存在

パレスチナ自治区、ガザ市にイスラエルが空爆 写真:picture alliance/アフロ

10月7日にハマスなどパレスチナ武装勢力が、ガザ地区からイスラエル領内へ大規模な越境攻撃を行ったことに対してイスラエル側も反撃を開始。イスラエル軍による地上侵攻が迫っているとされ、事態は緊迫している。武力衝突が起きた背景には何があるのか。そして今後考えられる展開は。

改めて世界から注目される中東の紛争

近年の世界の関心事は、間違いなくウクライナと台湾に当てられてきた。かつて、2010年代に猛威を振るった「イスラム国」の脅威も今は昔。現在は完全に国家間イシューの陰に隠れている。しかし、その中東で紛争が再びエスカレートしそうな状況が今回の武力衝突だ。

イスラム原理主義組織ハマスが10月7日早朝、イスラエル領内へ大量のロケット弾を発射。その後、ハマス戦闘員らはイスラエル領内に侵入し、次々に市民を殺害した。市民の一部は拉致され、パレスチナ領内に連行されたという。ハマスによる越境攻撃に対して、軍事力で圧倒的に上回るイスラエルはすぐに反撃、パレスチナへ空爆を行った。

これまでの衝突で兵士や市民含め双方で4000人以上が犠牲となり、アメリカ人やイギリス人、フランス人などの欧米人のほか、タイ人やネパール人などアジア国籍者など外国人の犠牲も広がっている。今後はイスラエル地上軍が投入される可能性もあるというが、ハマス側は投入されれば人質を処刑すると警告している。

ハマスの奇襲から見える2つの背景

そもそも、イスラエルとハマスとの軍事的応酬は長年のもので、近年でも断続的に繰り返されてきた。しかし、今回の規模は異例で、しかもハマスが市民を無差別に殺害し、外国人を含め人質として拉致し、イスラエル側を警告するという手段は見たことがない。まるで「イスラム国」やアルカイダなど、ジハード系テロ組織を見ているかのようだ。では、なぜハマスは今回のような奇襲攻撃に打って出たのだろうか。理由はいくつかあろうが、筆者は2つの背景に注目する。

一つは、ネタニヤフ政権の強硬姿勢だ。2022年末、イスラエルでは極右のネタニヤフ政権が誕生したが、当時から対パレスチナ政策がいっそう厳しくなることへの懸念が広がっていた。

実際にイスラエル・パレスチナ間では緊張が続き、2023年4月には、イスラエルのテルアビブで車両が歩道に突入し、イタリア人観光客1人が死亡、5人が負傷する事件が発生。犯人はアラブ系イスラエル人の男で、銃を向けようとしたため警察に射殺された。その数時間前には、ヨルダン川西岸で銃撃事件が発生し、イスラエル人の姉妹2人が死亡、姉妹の母親が負傷する事件が起きた。また同月、エルサレムにあるイスラム教の聖地で、バリケードを築いて立てこもるパレスチナ人礼拝者らを排除しようと、イスラエルの治安部隊が突入。パレスチナ人19人が負傷、300人以上が拘束された。その後、ハマスがイスラエル領内にロケット弾を打ち込む今回の事態となった。

もう一つは、サウジアラビアのイスラエルへの接近だ。イスラエルとハマスは衝突を繰り返してきた一方で、近年、パレスチナと同じアラブ民族の中東諸国が次々に経済分野などを目的にイスラエルと関係を強化。アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーン、エジプトなどは、イスラエルと国交正常化を果たした。そして、アラブの盟主・サウジアラビアまでもがイスラエルへ急接近を図った。

ハマスの危機感は頂点に達したはずだ。脱石油の経済多角化を進めるサウジアラビアとしては、テクノロジー分野で先端を走るイスラエルとの関係強化は極めて重要で、アメリカも双方の間を後押ししてきた。

緊張が高まるイスラエルとイランの関係

そして、今後の展開で懸念されるのがイスラエルとイランの関係だ。両国は1979年にイランで起きたイスラム革命以来、関係が悪化。直接的な武力衝突はないが、たびたび対立している。

2023年1月末、イラン中部イスファハンにある軍事工場に小型爆弾を積んだドローン3機が飛来。そのうち2機は撃墜され、1機が工場の屋根に墜落する事件があった。イランは軍事工場の破壊を狙ったイスラエルによる仕業との声明を発表し、報復措置も辞さないと強くけん制した。ほかにも、2020年11月、首都テヘラン郊外でイランの核開発を主導してきた核科学者モフセン・ファクリザデ氏が車で移動中、何者かに銃撃されて死亡する事件があったが、イランはイスラエルが関与したと強く非難した。同氏は長年にわたってイラン核開発で主導的な立場にあり、“核開発の父”とも呼ばれ、最高指導者ハメネイ師やロウハニ元大統領もイスラエルの関与を指摘した。そして、2022年末、イスラエルのガンツ国防相(当時)は2015年のイラン核合意に向けた取り組みが停滞し、イランがウラン濃縮を拡大させるなか、イスラエル軍が今後2、3年以内にイランの核施設を攻撃する可能性があると言及した。

イランはイスラム勢力を軍事面で支援するなど間接的にかかわってきており、ハマスとも密接な関係がある。今回のハマスによる大規模攻撃で、イランがどれほど関与しているかは定かではないが、仮にイスラエルが地上侵攻することになれば、両国の衝突がいっそう激化することは避けられない。

そして、中東にはハマスと同様に、イスラエル領内へ攻撃を繰り返すレバノンのヒズボライラクのカタイブ・ヒズボラ(Kataib Hizballah)、カタイブ・サイード・アル・シュハダ(Kataib Sayyid al-Shuhada)、イエメンのフーシ派、バーレーンのアル・アシュタル旅団(Al Ashtar brigades)などイランが背後で支援する武装組織が存在する。パレスチナ情勢の悪化によっては、こういった組織が各地に点在するイスラエル権益、ユダヤ権益を攻撃する可能性が十分にあり、紛争が拡大、飛び火することが懸念される。