秋の臨時国会が10月20日に召集される。岸田文雄首相が臨時国会冒頭で衆院を解散するとの見方もあったが、内閣支持率の低迷を踏まえて見送る公算だ。政府・与党が提出する2023年度補正予算案の内容や減税などについては、与野党の激しい論戦となりそうだ。
年内解散を鈍らせた、夏以降の内閣支持率
「今月中に経済対策を取りまとめて補正予算案を編成し、臨時国会に提出、成立させたい」。岸田首相は10月7日に茨城県水戸市を訪問し、地元の自民党会合でこう述べた。補正予算の“成立”を明言したことにより、根強い年内解散の噂を否定した格好だ。
岸田首相が長期政権を目指す上で最も重要なのは、2024年9月に任期が切れる自民党総裁選を勝ち抜くこと。そのためには、事前に衆院選で勝利して足元を固めたいところだが、来年以降は防衛費の増額や少子化対策の強化に向けた増税議論が本格化する。増税議論で批判を招く前となると、臨時国会の冒頭で経済対策と補正予算案を示し、衆院解散・総選挙に突入する、というのが永田町なら誰でも予想するシナリオだった。
しかし、内閣支持率の低迷が台本を狂わせた。9月13日に内閣改造と自民党役員人事を行い、上川陽子氏を外相に起用するなど過去最多タイの5人の女性を閣僚に登用。自民党の最高ポスト「4役」の一角である選対委員長には小渕優子元経済産業相を起用したが、全体的には新味に欠ける陣容で、政権浮揚にはつながらなかった。
読売新聞社が改造直後の9月13~14日に行った全国世論調査によると、岸田内閣の支持率は35%で、前回の8月調査と横ばい。10月の調査ではさらに低下し、34%で2021年10月の政権発足以来、最低となった。不支持率は49%。朝日新聞の10月調査でも8ポイント減の29%ととなり、不支持率60%の半分以下。朝日調査の不支持率は2012年に自民党が政権復帰して以降、3つの内閣の中で最も高い数字となった。これでは到底、解散など決断できる状況ではない。衆院選に負ければ総裁選どころではないからだ。
支持率回復のカギは早急な物価高対策か
支持率低迷の最大の要因は、物価高対策への対応遅れだろう。政府は、高騰するガソリン価格については、負担軽減に向けて補助金の支給を来年3月末まで延長すると決めたが、本来価格が高騰した際に税率を引き下げる「トリガー条項」や、ガソリン税に消費税がかかる二重課税の問題については議論すら拒否している。
そもそもガソリン税、つまり揮発油税の本来の税率は1リットルあたり28.7円だが、1974年以来、「道路財源の不足を穴埋めするため」に“暫定的”に25.1円上乗せされている。時代の変遷とともに、こうした暫定措置をどうしていくべきか議論すべき時にきているのに、そうしないのは財務省が“安定財源”を手放したくないからだ。その財務省に異を唱えようとしない岸田政権の姿勢を国民は見透かしている。
岸田首相は、10月中に物価高対策を含む経済対策を取りまとめるよう閣僚に指示したが、首相が表明した5本の柱は、①物価高対策 ②賃上げ、所得向上と地方の成長 ③国内投資の促進 ④人口減少対策 ⑤国土強靭化――と、今までもずっと言われてきたものばかり。おそらく経済対策にも既視感のある政策が並ぶとみられるが、その中でも国民に「おっ」と思わせるような政策をいくつ打ち出せるかが評価の分かれ道となるだろう。
「国民に還元」もやり方次第で政権へ致命傷に
国会では補正予算の内容とともに、減税も焦点となる。岸田首相は経済対策をめぐって9月25日に「成長の成果である税収増を国民に還元する」と突然打ち出し、それに呼応するように自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は、経済対策に消費税や所得税の減税を盛り込むよう求める提言を発表した。鈴木俊一財務相は「財源的な裏付けがない」と否定したが、どういう形で国民に“還元”するのかは今国会の大きな争点となりうる。
野党各党は一斉に消費税の引き下げを求めるだろうし、政府内では給付金を配る案も浮上しそうだ。ただ、財務省は消費税の引き下げは断固として拒否するのが目に見えているし、給付金については何度も国民の反発を招いた過去がある。還元のやり方次第では政権浮揚どころかさらなる支持率の低下につながりかねない。岸田内閣の支持率はすでに危険水域に足を踏み入れており、これ以上の支持率低下は致命傷となる恐れがあるため、慎重に判断する必要がある。
衆参補選の結果が総裁選再選にも影響か
臨時国会の召集直後、10月22日には衆参補選が行われる。マスコミの情勢調査によると、衆院長崎4区では自民党の新人、金子容三氏がやや先行し、立憲民主党新人の末次精一氏が追いかける展開。参院徳島・高知選挙区では逆に野党系無所属の前立憲民主党衆院議員、広田一氏がリードし、自民党の西内健氏が追いかけているという。
ただ、一部マスコミは長崎4区を接戦と報じており、予断は許さない。与党は1勝1敗ならなんとかメンツを保てるが、2敗となると責任論が浮上しかねない。次期衆院選に向けて“選挙の顔”としての首相への不安も高まるだろう。
補選を1勝1敗で乗り切り、経済対策でも何らかのサプライズを演出して支持率低下に歯止めをかける。これが岸田首相の総裁選再選に向けた最低条件となりそうだ。