カジノ利権をめぐる バトルロワイアル~気になる国内候補地の事情

2014.11.10

政治

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国会ではカジノ法案の議論の真っ最中だが、全国各地では、すでに莫大なカジノ利権をめぐる戦いが行われている。その数ざっと見積もって20ヵ所。気になる国内候補地の事情を探った。

日本国内のカジノリゾート候補地日本国内のカジノリゾート候補地

【横浜】JR東日本の「羽田アクセス線」に危機感強める京急が反撃策

2020年の東京五輪は鉄道会社にとっても好機で、特に羽田空港~都心は利用客の急増が見込まれる。このためJR東日本は「羽田空港アクセス線構想」と題し、既存の貨物線などを流用して、羽田と東京、新宿、新木場各駅を直結する3ルートを作るとブチ上げた。

これに慌てたのが京浜急行電鉄。都心~羽田線は同社のドル箱だが、これが脅かされ大減益が必至だからだ。しかも東京・お台場にカジノができた場合、「羽田~新木場」はここを通るためJR東が圧倒的に有利。方や京急には直結するルートがない。

加えて、渋谷を本拠に構える東京急行電鉄も羽田ルートを模索、同社の多摩川線(多摩川~JR蒲田)を羽田まで延伸する通称「蒲蒲線」構想で、ビジット・ジャパン構想により急増する外国人客を直接、渋谷まで運ぼうという目算。これも京急にとっては痛打だ。この悪夢を回避すべく、京急は「横浜」を候補地に掲げて猛反撃。山下埠頭付近への誘致で巻き返しを図っている。

【大阪】神戸と連携しメディカル・ツーリズムで世界のセレブを囲い込む

大阪はかつて2008年夏季五輪を目指し、その会場敷地として1990年代から大阪湾に広大な埋立地「夢洲(ゆめしま)」の造成に挑んだが、結局この夢は破れ、今や財政を圧迫する不良資産に。そこで一打逆転とばかりに、IRをここに誘致、借金返済と関西経済復権の一石二鳥を目論む。

“食い倒れ”の難波をはじめ、京都・奈良など近隣には観光資源も多く、立地条件としては申し分ない。だが、大阪はさらに”医療”というアイテムを盛り込み差別化を図る目論見だという。カジノ目当てで訪れる外国人富裕層に日本の高度医療も提供する、いわば超リッチなメディカル・ツーリズム(医療観光)だ。

実は、大阪周辺は日本屈指の高医療地区。関空のお膝元、泉佐野や岸和田周辺は、心療内科関連の医療施設の密集地。また、神戸は製薬・医療関連企業が200社以上も進出。加えて1996年にはWHOの出先機関、WHO健康開発総合研究センター(WHO神戸センター)が旗揚げするなど、人材とノウハウが集積。医療を武器にIR誘致の”一番くじ”を勝ち取る目算だ。

ハウステンボス・シーガイア[左]長崎・ハウステンボス、[右]宮崎 フェニックス・シーガイア・リゾート(右)

【九州】盟友だったリゾート2巨頭の間に”すきま風”の噂

少々複雑な様相を見せるのが九州。実はここには、ハウステンボス(HTB:佐世保)とシーガイアリゾート(宮崎)という強力な2者がIR招致に秋波を送る。
ともにかつて経営不振で破綻した大型レジャー・リゾート施設だが、現在、前者はHIS会長の澤田秀雄氏が、後者はセガサミーホールディングス会長兼社長の里見治氏がそれぞれ強力にテコ入れ中。

2010年にHTBの経営に乗り出した澤田氏は、当初からIR誘致を念頭に置き、実際に大型フェリーを調達して佐世保~上海便を就航、近隣の貨物港の利用や海浜のリゾート化の可能性を調査するなど、布石を打っている。「佐世保は日本の西端だが、極東で考えれば真ん中。数億人の市場がある」とは澤田氏の持論だ。だが彼には遊戯施設の経験がないため、里見氏を師と仰ぎ学んでいた。

翻って、国内アミューズメント界の重鎮・里見氏もシーガイアへのIR誘致に前向き。だが、さすがに”九州に2つ”とはいかない。この件で近年、両者の間に確執が生じているのでは、との観測が周囲にある。要するに2巨頭による綱引きというわけだ。

ただ、かつてHTB再建のために万策尽きた九州財界の重鎮たちは、澤田氏を三顧の礼をもって招聘したという経緯がある。仮に九州地区に”IRを1ヵ所”となった場合、これら重鎮たちの意向を重んじるはずで、これを考えれば澤田氏が不利だとは一概には言えない。

【沖縄】最有力候補に立ちふさがる「安保」「市場」「地権」の大きな壁

「米軍基地の”迷惑料”として沖縄はIR誘致先の筆頭」というのが大方の見方だが、ことはそう簡単ではないらしい。例えば「安保」。世界のカジノ市場ではマカオ資本の発言力が強く、その背後には強大な経済力を持つ中国が控える。もちろん、日本国内でのIR誘致でもマカオ資本の参入は必要なのだが、いざ沖縄となると話は別だ。

というのも、尖閣問題で中国の軍事的脅威に危機感を強める日本政府は、近年自衛隊の南西諸島シフトに力を入れ、離島防衛の尖兵として2015年には上陸専門部隊の「水陸機動団」まで創設する。
こうした状況のなか、沖縄のカジノにマカオ(=中国資本)を入れたとなれば、整合性が取れず、国民感情を逆撫ですることになる。だが、中国の富裕層を集客するにはやはり彼らの力を借りなければムリだ。

次に「市場」。キレイな海のそばにカジノを造れば、海外からわんさかセレブが押し寄せる……というほど世の中は甘くはない。テーマパークと同様に近隣に巨大な大都市圏(後背地)が必要。仮に国際情勢の変化などで海外客が来なくなった場合、国内市場を持たなければ経営悪化に直結するからだ。翻って沖縄本島の那覇都市圏の人口は100万人ほどにすぎず、市場的にはもの足りない。

最後に「地権」。現在名護市がIR誘致に名乗りを上げるが、やはり返還後の普天間基地跡地が有力視されている。広大なまとまった土地で申し分ないように見えるが、沖縄の米軍基地の大部分は戦後米軍が地元の地権者から強制的に借り上げたという歴史を持ち、その土地の権利はいまだに多数の民間人が所有する。

しかも「軍用地」として売買も自由で、仮に普天間にIRが誘致されるとなれば、例えばこれに反対する人間が、「一坪運動」よろしく広大な跡地の真ん中を買い取って建設を妨害したり、あるいは中国資本が買い占めたり、という懸念があるのだ。