物流・運送業界の労働時間問題に挑む、自動運転レベル4のダンプカー

2023.11.24

技術・科学

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物流・運送業界の労働時間問題に挑む、自動運転レベル4のダンプカー

写真:武田信晃、江口和孝

「ジャパンモビリティショー(JMS)」(2023年10月26日~11月5日)で注目度の高かった車両の一つに、2021年にいすゞ傘下となったUDトラックスが開発した実証実験車両のダンプ「Fujin(風神)」がある。「特定条件下における完全自動運転」に達するレベル4の自動運転を開発、荷台に積んでいる砂利などを下ろす作業も自動で行ってくれる優れものだ。

「2024年問題」の解決に期待できる技術

今、物流・運送業界では「2024年問題」が課題となっている。これは、2024年4月からの働き方改革関連法の施行によりドライバーの労働時間に上限が課され、その結果生じる問題の総称のことだ。

具体的には、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限されることで一人当たりの走行距離が短くなるが、その結果、長距離輸送に影響が及ぶこととなる。引いてはドライバーの収入減少にもつながることにも。少子高齢化で成り手もなかなか見つからない状態では、給与を大きく上げるというのが一番わかりやすい解決方法だ。しかし、現実の経営を考えると、世間的な賃上げの流れができつつあるとはいえ、魅力的な給与を提示できるかとなるとなかなか難しいと言わざるを得ない。

この課題を解決できる可能性があるのが「自動運転化」だ。自動車業界は「100年に一度の大変革期」と言われており、クルマの構造の変化を表している「CASE(Connected/Autonomous/Shared/Electric)」の対応が避けられない。その一つである『Autonomous(自動運転化)』は人材不足を補う技術と言える。

自動運転レベルは現在、国土交通省によって0~5の6段階に分けられ、自動でできることが増えていくにつれてレベルが上がっていく。レベル0は「運転自動化なし」、レベル1は自動ブレーキなどの「運転支援」、レベル2は高速道路での自動運転モード機能などの「特定条件下での自動運転機能(高機能化)」、レベル3は「条件付自動運転」、レベル4は「特定条件下における完全自動運転」、レベル5は「完全自動運転」といった具合だ。

日本の市販車では、ホンダのLEGENDがレベル3を取得している。レベル3は「システムすべての運転タスクを実施するが、システムの介入要求などに対してドライバーが適切に対応することが必要」としている。レベル4になると「特定条件下においてシステムがすべての運転タスクを実施」と定義されている。日本の一般車両でこのレベル4を取得したクルマはないが、実証実験段階にある車両はいくつかある。それが、いすゞ自動車の子会社であるUDトラックスが開発した「Fujin」だ。

工事現場では荷下ろしなども自動化しないと意味がない

JMSに展示されていた「Fujin」。バンパーやライト、ルーフのあたりに球状のセンサーがあるのがわかる。

この車両には、監視カメラやGPS、前方のバンパーやループに5個、後方に1個のLiDAR(センサーを使って距離を計測する技術)を搭載しており、トラックドライバーが乗車しなくても目的地に到着し、現場では荷台に乗せた砂利などの積載物を自動的に下ろすことを可能にしているという。

UDトラックスは、神戸製鋼加古川製鉄所の協力を得て約2カ月間、実際の工事現場でFujinのテスト走行を実施。約17トンの製鋼スラグが積み込まれ、外から状況を監視していたオペレーターがトラックに指示を出すと、事前に登録しておいた別の荷下ろし地点まで自動搬送を行った。そして、登録地点にあるホッパーに対して自動で荷台が傾斜して製鋼スラグが流しこまれた。

ブースの担当者によると「一般の車両とは違い工事現場で使う車両のレベル4は、現場から現場までの走行を自動運転するだけでは十分ではありません」という。荷台にモノを積んだ後、次の現場では自動的にモノを下ろすことまでできないと結局、人手が必要になるため意味がないのだという。「つまり、業務用のレベル4とは、自動運転に加え、もうひとアクションの自動化ができないと、人材不足を補うことができません」(同担当者)

これが実現した場合、数人のオペレーターがいれば、鉄道にあるような運行管理センターからたくさんのトラックに指示を出すだけでよくなる。トラックドライバーの確保も必要なくなるため、すべて自動運転ができる効果は絶大だ。

UD Trucks – Level 4 Autonomous Driving Trial in Conjunction with Kobe Steel / 加古川製鉄所でレベル4自動運転実証実験を実施

作業スピード&耐久性にも高い期待値、将来は電動化も

さらに、UDトラックスは、油圧式ステアリングギアボックスに搭載した電気モーターが運転を支援する「UDアクティブステアリング」という技術を用いて、正確に操舵できるシステムを開発。大型トラックの「クオン」に搭載しているが、レベル4の開発に役立てている。担当者は「工事現場ですから、段差や水たまりがあったり、ぬかるみもあったりしますし、雨などによってどんどん路面状況が変化します。商用化に向けて車体の制御レベルをさらに上げたほうがいいと思っていますが、大きな問題は発生しなかったのは収穫でした」と話す。

スピードも遅くては作業効率が下がるのと同じなので、現実世界で走行されているスピードで実験を行ったそうだ。悪路でのスピードが上がれば、機械への衝撃は大きくなり誤作動を招き、事故が発生しかねない。それに耐えたことは、信頼性が高まっているだけでなく、サスペンションなどの開発もより進んだことを意味していると言えるだろう。

Fujinはディーゼルエンジンで開発しているが、実はUDトラックスは「Fujin & Raijin(風神雷神)―― ビジョン2030」を掲げトラックの電動化も進めている。2030年までにフル電動のトラック量産化を目指しているいるが、このまま順調に開発が進めば、次の2025年か2027年のジャパンモビリティショーにおいて、自動運転とEVが一緒になったトラックを展示させる可能性は低くないと印象を受けた。

いすゞ自動車のブースでは、バッテリー交換式の車両も展示されていた
いすゞ自動車とUDトラックスのブース(ジャパンモビリティショー)。