年収1000万円も!ミドル・シニアのセカンドキャリア最前線

2024.6.4

企業

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パソナマスターズ 代表取締役社長 中田 光佐子氏

総務省の資料によれば、我が国の15歳から64歳までの生産年齢人口は減り続けており、2050年には5,275万人と、2021年に比べれば29.2%も減少すると見込まれている。ところが、働いている人の数である労働者人口を見ると微かだが増えている。女性と高齢者の就業が増えているためだ。なかでもシニア層は、豊富な社会経験を持っていることから、とくに注目を集めている。パソナグループの中で、主に企業人のセカンドキャリア支援を行う、パソナマスターズの中田光佐子社長にシニア活躍の現状と課題、そして、これからを聞いた。

パソナマスターズ 代表取締役社長

中田光佐子 なかた みさこ

株式会社パソナに1997年に入社し、人材に関わる様々なビジネス経験を経て、2018年4月株式会社マスターズの代表取締役社長に就任。新会社にて「生涯現役社会」の実現に向けて、ミドル・シニアの方々の活躍機会の創出や企業のセカンドキャリア施策の支援に取り組む。

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建設、金融業界からオファーが殺到

―― 近年、人材不足からミドル、シニア層の活用に注目が集まっていますが、市場規模はどれほどあるのでしょうか。

中田 シニアの求職者数は、一般的には約50万人いると言われています。当社のメインとなるお客様は、定年や役職定年などのタイミングで、自らのキャリアを考えておられる方々で、マーケットとしては30万人くらいの規模です。そのなかで我々は、新たな活躍の場を考える方のために、さまざまな選択肢を用意してサポートを行っています。

―― セカンドキャリアの傾向があるのでしょうか。

中田 私が社長に就任した2018年頃は、企業の人事施策の一環としても、次に活躍する場を社内だけでなく社外に広げて求めていく傾向にありましたが、最近は少し変化が起きています。企業の中でミドル、シニアを再び戦力として積極的に活用したり、新たに採用するケースが増えています。背景には、深刻な人材不足があり、とくに地方の企業の中では新卒やキャリア採用を含めて人材採用が計画通りに進んでいないなど深刻です。そうしたことから、新たな人的資本としてシニアを積極的に活用していくという傾向にあります。

―― シニアの新規雇用というのはどんな分野で増えているのでしょうか。

中田 まだまだ多数派とはいえませんが、増えているのは、経験を買われて採用されるケースです。例えば、監査や審査に関する業務、あるいはガバナンスレポートの重要性が高まっていることからIRの分野に精通された方の人気が高いです。そして、1,000万円を超えるような年収が提示されることもあります。メーカーからも品質管理や環境系の事業、ISOの取得などの経験をお持ちの方への需要が増えています。

―― そのなかで強い需要があるのはどの産業ですか。

中田 いちばんは建設業ですね。慢性的な人手不足で、とくに施工管理や電気工事士、設計、積算などの資格や技術を持たれた方がとくに求められています。「時間外労働の上限規制」など、いわゆる2024年問題もあり、圧倒的に人材が足りておらず需要は旺盛です。また、少し前までは新NISAがはじまることから金融業界も活発でした。例えば、新NISAの口座を開設する際、お客様の中にはITに強くない方もいらっしゃいます。そうした方にリアルで対応するためにも、証券外務員等の必要な資格を持った人材が必要になることから人気が高かったです。

―― 逆に言うと、資格がないとむずかしいのですか。

中田 そんなことはありません。あくまで事例としてわかりやすかったためです。もちろん、専門職は依頼が入ってきやすいですが、仕事には、専門的な資格が必要でなくても、経験が大事となる案件も多くあります。そのため、ご登録いただいているミドル、シニアの方の経験を詳しくヒアリングし、企業側とのマッチングを行っています。

―― マッチングはうまくいっているのでしょうか。

中田 今の世の中、まだまだ年齢で区切られてしまう企業もあり、シニアの方がこれまで培われた経験を活かしたいと思っても、正直、望まれた求人が多いわけではありません。ただ、仕事がないわけではなく、シニアが活躍できる環境が整っていないだけなので、そこを私たちが変えていきたいと思っています。

今は、シニアの方がこれまで培われた経験を活かしたいと思っても、その環境が整っていない

あなたの「強み」をヒアリングで引き出す

―― シニアの活躍を阻害する要因はどんなことですか。

中田 一番大きいものは心理的なバイアスですね。企業側には年齢を重ねることでの生理的な衰え、いわゆる老化から、シニアよりも若い人が良いという固定観念があります。その一方で、シニアの方もご自身の年齢を気にして一歩引いてしまう場合が多くあります。企業側と人材側の双方が持つ心理的バイアスを変えていきたいのです。

―― どうやって変えていきますか。

中田 2つのことを行っています。例えば、一般的に知能には、新しいことの学習や暗記力、直感力といった「流動性知能」と、理解力や洞察力、コミュニケーション力や言語能力といった「結晶性知能」の2つがあると言われています。実は、65歳ごろから低下する流動性知能に比べて、結晶性知能はあまり衰えません。それに、シニア層と仕事を行う際、必ず、「自分は、どの役割、どの立場で仕事をすればよいのか」といったことを聞かれます。これは、全体を俯瞰しているからこそ出てくる質問で、いつも、さすがだなと思います。つまり、シニアの方を最大限に活かすためには、どういう立場で、どんな役回りをしていただくかをマネジメント側が考えて、提示する必要があるのです。それだけで、結果がガラリと変わってくるはずです。なまじ経験があるから、先輩だからと気を遣い役割を決めないことで力を発揮できなくしてしまっているケースが多いのです。そして、これはシニアに限らないダイバーシティマネジメントそのものなので、マネジメント側に根気よく伝えたいと思っています。

―― もう一つは何ですか。

中田 キャリアの棚卸を含めて、過去のご経験などをしっかりお聞きすることです。すると、職務経歴書では見えてこない能力やお人柄といったその方の宝が見えてきます。先日も、人事や総務の立場でPMI(企業統合)の経験をお持ちの方にお話を伺いました。職務経歴書上ではたった一行で書かれていた経験だったのですが、ヒアリングをしてみると様々な工夫や苦労をされてきたことが分かりました。社風のまったく違う両社のガバナンス、例えば、個人情報の管理を徹底するために、管理がルーズな人のデスクを朝の5時半に出社して撮影し、行動を改めてもらったエピソードなどをお聞きし、困難な仕事でもやりがいをもって仕事の臨めるというその方の姿勢や仕事観がわかってきました。それは、次の活躍の場を探す上でも非常に役立つのです。

―― キャリアの棚卸は難しいので、聞きだしてもらえるのは喜ばれるのではないですか。

中田 そうですね、私も含めて、若い頃にキャリアなんて言葉はありませんでしたからね。長い間、会社に与えられたミッションに向き合ってきたのに、ミドルと言われる年齢になったら、急に自分のキャリアを考えろ、棚卸しろと言われても、多くの人は戸惑ってしまいます。そうした部分を、自らもキャリアの棚卸で苦労した私たちの仲間が、ひとつひとつ丁寧に掘り起こしていくので、自分の強みなどを客観視していただけますし、企業側のバイアスを無くすきっかけにもなると思っています。

―― 最後に、シニアのセカンドキャリアにおいて、どんな環境をつくっていきたいですか。

中田 グループ代表である南部靖之は、パソナグループを「家庭の主婦の再就職を応援したい」という思いから創業しました。私たちも「働きたい」と願うミドルやシニアの方たちが、必ず自分の経験を活かせる仕事があるような環境をつくっていきたいと思っていますし、先ほどの需給のミスマッチを解消していけばそれは可能だと思っています。そして最終的には、年齢に関係なく、誰もが活かされる場所づくり、活かしたいと思う社会づくりができればと考えています。