佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

内閣総理大臣 安倍晋三「総理大臣は自分の理念に従って結果を出していかなければならない」

2013.11.11

政治

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写真/若原瑞昌

 安倍晋三総理とは10年弱のお付き合いだ。定期的に勉強会を開いて、忌憚のない意見を出し合った。オフの時には、冗談を交わしユーモラスたっぷりの安倍総理。オリンピックを引き寄せ、日本経済を上向かせている総理の本音に迫った。

国民ニーズとマッチした政策を

尊徳 二度目の総理就任ですが、前回と違うところは

安倍 何事も一度経験していることは強みになると思います。私の祖父の岸信介は、「自分にもう一度やらせてもらえば、もっと大きな仕事ができる。一度経験した人を使わないのは人材の無駄遣いだ」と言っていました(笑)。ということで、前回何が悪かったのかということを考えながら政権運営にあたっています。

尊徳 具体的にはどのようなところが。

安倍 前回は若さもあって、気負いがあったように思います。官房副長官からトントン拍子で総理になるのですが、とにかく目の前の仕事をさばくので精一杯なのです。官房長官を半年ほど務めた時に、(総理になろうという)決意をしました。振り返れば準備不足だったのかとも思います。総理大臣はその椅子に座ることではなくて、自分の理念に従って結果を出していかなければなりません。今でもその理念が間違っているとは思いませんし、教育基本法の改正など仕事はしてきましたが、それがその時の国民のニーズに必ずしもマッチしなかったということで、求心力を失ってしまったのではないかと思います。

今回は国民のニーズである経済再生と、私が5年間温めてきたプランが一致したということが違いではないでしょうか。

尊徳 お付き合いをしていて野党を経験したことも大きかったように思います。

安倍 元総理だけで無役でしたから、時間があっていろんな人の意見が聞けたのは大きかったと思います。

尊徳 総理の体調も国民の関心事ではないかと思いますが

安倍 持病の潰瘍性大腸炎に効く薬が認可されて、まったく症状が出ないのと、気分転換で時折ゴルフが出来ていることが前回とは違い、体調も万全です。

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ゴルフなど、オフの時には大変ユーモラスな安倍総理だが、 公務の時は引き締まる

尊徳 G20を抜けてブエノスアイレスまで行き、オリンピック招致を決めました。何か確証があったのでは。

安倍 最初からオールジャパンで政府も全面協力をしようと決めていました。最初は日本が有利な位置ではありませんでしたし、票読みでも不利でした。私の周りでも、総理大臣が前面に出て、招致できなかった時の影響を心配する人たちはたくさんいました。しかし、リスクをとって挑戦をしなければ何事も成しえないわけですからね。それに、1964年の東京オリンピックは少年だった私に夢と興奮を与えてくれました。今の子供たちにも同じ思いを味あわせてあげたいと考えて挑戦したのです。それと、1964年の東京オリンピックの開催を決めたのは、祖父の岸信介内閣の時でしたから、何らかの因縁もあるのかと(笑)。

G20から向かう飛行機の中でも、福島の汚染水問題をいかに払拭できるかがカギだとわかりました。政治的には上手く説明が出来なければ更なるリスクになりますから、非常に難しい決断でしたけど、いわれなき風評被害は払拭することが出来て、あのような結果(招致決定)をもたらすことが出来ました。

決まるまではやはり緊張します。最近の選挙では、世論調査の精度も高くなっていますから、事前に心構えはできるのですが、(オリンピックは)まったくわからないものですから。発表になって、まず「イスタンブール」と画面に出て、トルコの人たちが大喜びをしたので、目の前が真っ暗になりました。しかし、それは3つの候補地がもう一度紹介されただけだとわかり、生き返ったような心地でした(笑)。

決まった瞬間は大きな喜びと安堵感でした。嬉しかったのは、(トルコの)エルドアン首相が握手を求め、肩を抱き祝意を伝えてくれたことです。かつてトルコを訪問した時に、お互いが、開催地に決まったら、まず先に祝意を伝えあいましょうと約束していたことを守って頂いたことに感動を覚えました。

尊徳 その汚染水の問題ですが、国がどこまで関わり、東電をどのようにするおつもりですか

安倍 汚染水と廃炉については東電任せにはできないと考えています。廃炉は世界的にも例がない難しい事業ですから、東電を指導しながら国がしっかりとやっていかないといけないと思っています。汚染水は遮水壁を作るのですが、これも難度が高いものですから、国が前面に出ます。東電の人たちもプライドと緊張感をもって、問題にあたって欲しいと思っています。

じっくりと話を聞けたので、次号もこの続きを掲載します。次回は、”リーダーの条件”、”総理の苦労話”など、人間・安倍晋三に迫ります。

【後編】内閣総理大臣 安倍晋三「重圧があるからいい決断ができる」