自民「独走」先の見えない野党再編

2013.11.11

政治

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安倍政権が順調な政権運営を続けている。国民受けの悪い消費増税を決めた後も報道各社の内閣支持率は60%超をキープ。TPPなど党内に反対派の多い政策でもリーダーシップを発揮し、族議員の反発を抑えつけている。一方、その陰で存在感が薄れているのが野党だ。退潮傾向を止められない民主党や足元の堺市長選でつまずいた日本維新の会、内輪もめが続くみんなの党。三党の一部が起死回生の策と目論む野党再編も未だ先行きは見えない。

不気味なほど順調な安倍自民

「この道を迷わずに進むしかない」。安倍晋三総理首相は10月、臨時国会冒頭の所信表明演説で胸を張った。2006年9月に組閣した安倍総理は閣僚の不祥事や年金記録問題の発覚、そして体調悪化によってたった一年で退陣表明に追い込まれた。政権発足時に70%を超えていた支持率は10カ月後には30%を割り込んでいた。それと比較すると発足10カ月目の第二次安倍政権は不気味なほどの好調さ。7月の参院選大勝で国会のねじれも解消し「向かうところ敵なし」である。

リーダーなき民主、足元ぐらつく維新、内紛のみんな

安倍政権の勢いに押され、野党は存在感を発揮できないでいる。最大野党の民主党は政権混乱の記憶が未だ有権者の脳裏から離れず、再建のきっかけを掴めない。個人的人気の高かった細野豪志氏が幹事長を退任した後は「次世代のリーダー」も見当たらず、参院選敗退後はあっさりと海江田万里代表の続投が決まった。最大の支持母体だった連合も距離を置き始めており、「このまま解党に向かう」との見方まである。

一年前に綺羅星のごとく登場した維新の会も当時の勢いはない。橋下徹代表ら大阪維新の会メンバーや大阪系国会議員と、「たちあがれ日本」出身のベテラン議員との溝、いわゆる「東西問題」の根深さが低迷の主因。さらに堺市の市長選で反維新の現職に対抗馬を立てて惨敗したのも求心力低下に追い打ちをかけた。市長選の争点にもなった大阪都構想に黄信号がともったことから橋下代表も焦りを見せ始め、国政と距離を置いて大阪市政に特化する姿勢を示している。

結党5年目に入ったみんなの党は内戦状態にある。党運営を巡る対立から渡辺喜美代表が結党時からタッグを組んできた江田憲司幹事長を8月に更迭。同じく結党メンバーで、江田氏に近い柿沢未途氏を離党に追い込んだ。江田氏は党内にとどまっているものの、「渡辺派」と「江田派」の対立が党内に大きな亀裂を生んでいる。

再編のキーマンたち

各政党に勢いがない今、強大な与党に立ち向かっていくには政界再編しかない、というのは永田町内の一致した見方だ。無所属となった柿沢氏は10月末に出演したインターネット番組で「新しい政治勢力を国民は潜在的には求めている。タイムリミットは年末だ」と発言。民主、維新、みんな3党の一部を中心とする新党の年内結成を目指す考えを示している。ただ、いつ、何をきっかけに再編の引き金が引かれるのかが不透明。そしてその先頭に立つ人物はもっと見えない。

再編のキーマンとして今、最も注目されるのは「HEM」と呼ばれる三人の男だ。民主党の細野前幹事長、みんなの党の江田憲司前幹事長、維新の会の松野頼久国会議員団幹事長。いずれも今春まで各党の幹事長を務めており、細野、江田氏の辞任後も会合を重ねている。維新の会の橋下代表もこの三人を中心に新党を作るべきだとエールを送る。

三人の動きが具現化したのが10月に発足した勉強会、通称「新世研」(新しい社会保障制度を確立し、世代間格差を是正するための研究会)。HEMの三人を含む3党の中堅・若手議員約50人が参加し、「世代間格差の是正」を旗印に政策の一致点を見つけようとしている。様子見の議員や党幹部から派遣されたスパイのような議員も散見されるが、いざ再編が実現した時の核となる可能性はある。

HEMの中でも江田氏は政界再編の研究に余念がない。野党のキーマンと積極的に会合を重ねるほか、1993年の細川政権成立に携わった政界OBとも接触している。活路が見えた瞬間にみんなの党を離党し、3党の中堅・若手に結集を呼び掛けるというシナリオだ。

HEMの次に注目されるのは次世代の民主党を担うはずだった野田政権の中心メンバー、通称「六人衆」(※)だ。海江田体制下では主要な役職に就かず、ひそかに会合を重ねている。ただ、政権交代の直接のきっかけを作った野田佳彦元首相は前面に立ちにくいし、生真面目な岡田克也元外相は人望がない。キーマンとなりそうなのは前原誠司元外相くらいだが、細野氏が袂を分かって新グループを立ち上げるなど影響力の低下も指摘される。

※民主党六人衆

野田佳彦前首相、岡田克也元外相、前原誠司元外相、枝野幸男元官房長官、安住淳元財務相、玄葉光一郎前外相

ベテラン議員らから名前が挙がるのは自民党や新党さきがけ、たちあがれ日本を渡り歩き、「政界の寝業師」との異名もとる園田博之氏だ。現在、維新の会に所属する園田氏は党の会合でも繰り返し政界再編の必要性を説いている。たちあがれ出身ではあるが、政策は橋下氏にも近く、党内の人望は厚い。園田氏は「来年の通常国会から動く」と明言しており、その動向に注目が集まる。

可能性は低いが、安倍政権の屋台骨である菅義偉官房長官がカギを握る展開もありうる。アベノミクスの急進性に党内の守旧派議員が抵抗し、それを排除するために解散・総選挙に打って出るというシナリオだ。かつて安倍氏と菅氏は維新の会に接近したこともあり、可能性は排除できない。

政界再編には政策の一致も重要だが、政治というのは結局人と人とのつながりである。そして政治家は小泉純一郎元首相や橋下氏のように「時」を得て突然、輝きだす瞬間がある。今回挙げた男たちが急にまぶしく見えた時、政界再編のドラマが幕を開ける。