写真:代表撮影/ロイター/アフロ

政治

高市政権における日米、日中、日韓関係の行方

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自民党総裁に就任し、新たな政権を担うことになった高市早苗氏の外交姿勢は、国際社会から大きな注目を集めている。「鉄の女」とも評される高市氏のこれまでの言動は、保守強硬な色彩が強く、特に日米関係の強化と経済安全保障の推進に軸足を置くことは間違いない。その一方で、自身の歴史認識や国家観が色濃く反映された対中・対韓姿勢は、両国との関係に緊張をもたらすリスクをはらんでいる。

日米関係:同盟深化と経済安保の「一体化」へ

高市政権における外交の最優先事項は、揺るぎない日米同盟の強化であることに疑いはない。高市氏自身、総裁就任後の会見で「日米同盟の強化をしっかりと確認し合うことが大事」と明言しており、防衛力強化と日米間の連携を一層深める姿勢を明確にしている。

具体的には、防衛費の増額や自衛隊と米軍の一体化を推進し、日本を取り巻く厳しい安全保障環境に対応するための抑止力を高めることが政策の柱となる。特に、前職の経済安全保障担当相としての経験から、この分野を外交・安保政策の重要項目と位置づけ、米国との協力を加速化させるだろう。

高市氏が掲げる経済安全保障の強化は、AIや半導体、量子技術といった先端技術の育成と流出防止、重要物資のサプライチェーン強靭化に重点を置く。これは、中国の台頭とロシアのウクライナ侵攻以降、国際的に高まっているデカップリングやデリスキングの流れと完全に一致する。日米両国は、これらの分野で情報共有や共同開発を進め、経済的な相互依存を逆手に取った経済的威圧に対抗する体制を築くことを目指すことになるだろう。

ただし、日米関係にも課題がないわけではない。特に、高市氏が総裁選中に言及した日米間の既存の貿易協定の再交渉を検討する姿勢は、米国、特に保護主義的な傾向を持つ政権との間で摩擦を生む可能性も秘める。高市氏は、日本の国益を守るためには「カード」を大事に切り、毅然として交渉に臨む考えを示しているが、強硬なナショナリズムと受け取られれば、同盟国の間にも緊張をもたらしかねない状況である。

日中・日韓関係:保守強硬姿勢がもたらす緊張

高市氏の外交姿勢が真に試されるのは、日中・日韓との近隣外交である。高市氏の保守的な政治的信条がそのまま外交の前面に出れば、両国との関係は冷え込む可能性が高い。まず、対中姿勢において、高市政権は台湾海峡の安定、尖閣諸島周辺での活動など、日本の国益に直結する問題については、妥協を許さない強硬な態度で臨むと見られる。また、経済安全保障の観点からも中国に対する牽制を強める政策を推進した場合、中国側が外交的・経済的な報復措置を取る可能性が十分にあろう。例えば、経済制裁や日本企業への圧力強化は、日中間の貿易や投資に悪影響を及ぼし、日本経済にも大きな打撃を与えるリスクを内包する。

一方で、高市氏周辺では、アジア太平洋経済協力会議(APEC)などの場での日中首脳会談の機会を探り、外交問題の火種を避けるべきだとの声も出ており、現実的な外交チャンネルの維持に努める可能性も十分に考えられる。自らの信念と現実的国益、この二つのバランスをどのように取るかが、対中外交の鍵となる。

日韓関係についても、高市氏が仮に首相として参拝すれば、李在明政権は強く反発し、近年良好にある日韓関係は後退することになろう。一方、米国は、日米韓の協力が地域の平和と安定に不可欠であるとの基本姿勢を持っており、日韓関係の悪化は望ましくないと考えている。高市氏自身も、会見で日米韓の協力の重要性に言及しており、安全保障分野では連携を深める意向であると考えられる。しかし、歴史認識や領土問題など、感情的な対立を招きやすい問題で保守強硬的な言動を続ければ、大きく改善した日韓関係が再び後退し、地域の安全保障協力にも悪影響を及ぼすことになる。

多層的な戦略と現実的なバランス感覚が試される

高市政権の外交姿勢は、日米同盟を基軸とし、経済安全保障を車の両輪とする多層的な戦略を特徴とするであろう。日本を取り巻く地政学的リスクが高まる中、日本の国益を最優先し、毅然とした外交を進めるという高市氏の姿勢は、国内の保守層からの支持を集めるかもしれない。しかし、その保守強硬的な姿勢は、同時に日中・日韓関係における緊張という大きなリスクを伴う。「鉄の女」が自らの信念を貫くことは、外交上の孤立を招きかねず、地域の安定を損なう可能性がある。

高市政権の外交が成功するかどうかは、自らの信念を堅持しつつも、現実的なバランス感覚を持って外交的な柔軟性を発揮できるかにかかっている。特に、中国・韓国との間で、対立を避けつつ国益を主張する戦略的な曖昧さを駆使できるか、あるいは首脳外交を通じて信頼関係を築けるかどうかが、新政権の外交手腕を測る最初の試金石となるであろう。