技術・科学

日本にも水平分業型の車が登場。SCSKが目指 す未来

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日本自動車工業会(自工会)は、2025年10月30日から11月9日まで開催する「ジャパン モビリティショー(JMS)」を東京ビッグサイトで開催した。その中でソフトウエアを中 心に車を作るというビジネスモデルで注目を浴びたのが、住友商事傘下の大手IT企業の SCSKが製作した「ソフトウエア定義車両(SDV)」の試作車である「SCSK-Car」だ。

分断から繋げるへ

自動車産業は、基本的に、親会社、子会社、孫請けなど垂直統合型の産業構造だ。しかし、SCSKは、得意分野の異なる企業が協力し合って1つの製品を製造する水平分業型で実現させた。水平分業型のわかりやすいところではスマートフォンがそれにあたる実現できた背景の1つとして、IT技術や無線技術が進化し、人々が夢見てきた車の自動運転が現実味を帯びてきたことがある。さらに細かく言えば、カーナビやエンジン制御もデジタル技術が欠かせないが、これらの機能をソフトウエアサイドからどんどんアップデートさせることで新たな価値を生み出そうというのがSDVだ。これからの車は、エンジン、サスペンション、車体などといったハードウエアの性能と同じくらいソフトウエアの重要になっていく。

SCSKは、1980年代から自動車関連のソフト開発を行ってきた実績があるが、なぜ自動車を製造しようと考えたのか? SCSK-Car開発の中心的役割を果たした同社モビリティ事業グループSDM事業開発センターSDV企画部の白木世友氏は「実際には、ソフトとハード、メーカーとITなど、さまざまな分断がありました。それぞれに課題があって、これらを繋げることができれば点を線に、線を面へと広げられると思いました」

わかりやすくいえばECU(電子制御ユニット)などのような部品を自動車に組み込めば、自動車は大量のデータが取れるので、いろいろなサービスができると考えたのだ。また、SCSKとしてもシステム開発を包括的に行うSIの企業だが「SIからの脱却も図りたいという思いもありました」と語った。

モビリティ事業グループSDM事業開発センターSDV企画部の白木世友氏

別々に取得していたデータを繋げる

グーグルを見てもわかるように、データはビジネスの宝の山だが、実際にどうマネタイズするのか?例えば、トラックにドライブレコーダーで外の様子を撮影している車両は多いが、それに加え、車内の運転手、助手席、ドライバーの足元にもカメラを設置した上で運転の様子を撮影し、運転手の動き、アクセル開度、ハンドルの舵角などもすべて記録する。「今までは、別々にデータを取得していましたが、全て連動させます。運送業界で言えば、あるトラックドライバーについて、疲れが出てきたときに出る体の動きなどといった癖の把握が可能となります。それを踏まえて、事故防止対策をすることができるのです」

ほかにも、あらゆる車から取得できる走行データを防災、医療、エネルギーなどの社会システムと繋げば、新しいデータ活用法が生まれ、ビジネスが創出されることから、車を含めた移動体そのものが社会を動かす存在になることを目指している。

SDVに乗り遅れないか

水平分業というが、どうやって自動車を作るのか?「私たちは純粋なソフトウエア企業なので、ハードウエアは作れませんし、作るつもりもありません。必要に応じて、必要なところと組んで、ものを作っていくという仕組みをしたいのです」。今回、JMSに出展したのも、さらに仲間を増やしたいという思いがあったからだ。
通常、車の開発は数年かかるが、水平分業型をトライした結果、SCSK-Car は約9カ月で作り上げることができた。「3カ月で要求を作り、開発を6カ月でやりました」。

開発中も改善点や新たなリクエストが出てくるが、そこはIT企業らしくアジャイルで開発をすることで、開発・製造時間を短くすることが可能となった。開発は、20人ほどのチームで、20代の人材も多く、若い人の発想をベテランが持つ知見を活かして具現化するなどしているという。

SCSK-Carの外観

SCSK-Carは、今の時流をしっかり取り込んで5人乗りのSUV型のEVだが、外観のモチーフはドルフィン=イルカで、シャープなデザインとなっている。航続距離は600キロ+。室内も広々としている。目を引くのは運転席のピラーから助手席までのピラーに44.6インチのディスプレーだが、インパネなどによる凹凸がなくなったの広い室内の演出のアシストをしている。ディスプレーは、運転席と助手的では別々なものを分割表示できるのは言うまでもない。AIも組み込まれており、エアコンなどの捜査、ゲーム、観光案内などは音声を通じてAIエージェントが担ってくれる。

巨大なディスプレーが目を引きます

SDVはざっくり言えば車をスマホ化させるものだ。SDVは中国を中心とした海外勢が進んでいる。日本は以前、ガラケーに固執してスマホ化の波に乗り遅れた結果、市場を失ったが、自動車もSDVの移行に遅れてスマホと同じことの繰り返しになりかねない。自動車業界は100年に1度の変革期と言われている。自動運転や電動化がその中心だが、日本の場合は意外にSDVが変革の時代におけるカギを握る可能性がある。電気、半導体、造船などお家芸が多かった日本だが、最近は敗退の歴史であり、自動車まで潰れてしまうと日本経済はゲームオーバーだ。それだけにSCSKのやろうとしていることは、新しい発想の自動車が誕生する可能性があり、かつ市場の活性化につながる。それは最終的にSCSKが望む社会全体を動かく仕組み作りのためにもポジティブな動きであることは間違いない。

会場外にもSCSKの広告が