政権盤石化のために解散する与党と、ふがいない野党が作っている今の国政。国民の関心もどんどん薄くなっている。こうなってしまったのには、国会や選挙のシステムに問題があった――。政権公約を意味する”マニフェスト”を広めた北川正恭氏と、日本の政治の問題点を語る。
役所も政治家もPDCAが大事
尊徳 北川先生は2003年に三重県知事を2期で辞められました。その後、草の根運動で政治を変えようというその志に、僕は微力ながらも応援をしております。現在の活動は?
北川 国会議員に戻るだろうとも言われたのですが、その気は全然ありませんでした。知事時代は、公務員が科学的、合理的に動く仕組みを作り、県の職員の皆さんの意識を変革させて県民目線の行政をしてきました。でも、そのパートナーである政治の方は、票と資金をくれればサービスしますよ、という恩顧主義がはびこっていました。役所だけが変わるのでは片手落ちなので、知事を辞めて政治の変革に手を付けようと思ったのです。
私がやった役所の合理主義とはPDCA(plan,do,check,action)で、計画を立てたら実際に動いて、それが本当に役に立ったかのチェックをして、改善していくというマネージメントサイクルにしました。
実は政治家もこのPDCAで回さないとうまくローリングしません。政治家のPDCAは何かというと、公約を実現したかどうか、ということ。だから「政権公約(マニフェスト)」を広めて、有権者に認知してもらう草の根運動をずっと続けています。政治家は公約を守ってこそのものだと。
ところで、佐藤さんは政治家の公約を信じていますか?
尊徳 いえ、信じていません。政治家は嘘をついてもいい職業だと思っていました(笑)。
北川 そういう人が圧倒的です。それでは政治が信用されません。公約はウィッシュリスト(願望を羅列した夢物語)ではなしに、政権をとった後の約束でなければなりません。検証可能なものですから、数値目標も入れて、次の選挙はそれを基に有権者が判断するという運動に力を入れてきました。
尊徳 先生みたいな人は珍しい。政治家は”嘘つきな人種”なんだから(笑)、3期目も圧倒的な強さで勝てそうでしたし、知事を辞めなくても良かったのに。
政治家経験を生かして民間から政治を変える
北川 1期目のときに、現職の副知事という巨大組織を相手に戦って、厳しいながらも勝ちました。そのときの記者会見で、どれくらいやるつもりかと聞かれました。権力の座に就くものが、期限を決めたら最後はレームダック(政治的影響力を失った政治家)になるので言わないのが普通ですが、私は意識的に言いました。「2期が一番いい。(改革が)できなければ3期でもいいが4期は絶対にダメ」と。
3期目も当選はできたでしょうが、男の美学で辞めたのです(笑)。その頃には三重県は全国一くらいの情報公開が進んで、PDCAの仕組みができあがってきましたから、次の知事に渡してもしっかりやっていくだろうと判断したし、先ほど言ったように、アプローチを変えた方がいいと思ったのです。
私は県会議員、国会議員、県知事をしてきたので、その経験を逆に生かして変えていけるのではないかと考えました。
尊徳 いずれにしろ、アホですね(笑)。選挙が強いのに辞めるなんて。経済的に潤うわけでもない。でも、だからこそ僕は先生の考えを広めようと本気で思ったのです。
北川 私たちは夢を追いかける、とっちゃん坊やだからね(笑)。政治の批判をする人はたくさんいますけど、実際にやったことがないから本当のところはわからないと思うのです。
権力者側に寄っていては政治は”もたない”
尊徳 僕はたくさんの知事を見てきました。知事は県の中枢だから、それはそれはすごい権力。職員たちも敬うし、辞める理由が見当たらない。
北川 何で県知事がそんなに権力があるのかというと、予算権と人事権を持っているからです。それと、直接選挙で県民から選ばれているから。
私は選挙で勝った県民の代表ですから、本来、職員には強く言える立場です。でも、財政課と人事課をなくして、力の源泉である人事権と予算権を放棄しました。それで逆に県の職員が私を信頼してくれたのでしょう。今まで知事の意向に沿って動いていた職員たちは自分たちで考えるようになりました。すると本当の意味でのガバナンス(統治)が効いてくるのです。
現在は、こういったことも地方の首長さんたちにわかってもらおうと運動をしています。
尊徳 先生に言われた言葉で「佐藤くん、(政治等々に)文句を言ってるだけじゃダメだよ。自分のできることで行動しないと」というものがあります。それを言われてから、僕はメディアを立ち上げ発信してきました。でも先生は権力者側にいるんだから、そのまま変革すればよかったじゃないですか。
北川 三重県はディマンドサイド(生活者・消費者)目線からの改革ですから、サプライサイド(権力者)側からは変えられないのです。
今までの選挙の公約は、首長は地方自治体に向けて補助金の使い道などを約束するもので、国でいえば各種団体に向けたものでした。
例えば、米価を決めるときに消費者に聞くことはなく、農協や農林省で決めるといったことです。診療報酬も患者には聞かず、医師会などの団体に聞いて決まります。それではもう”もたない”と、お節介かもしれないけど、私は親切心で言い続けていいます。
有権者が参加してこそデモクラシー
北川 選挙の際、義理人情、地縁血縁、利益誘導で選んでいったら衰退していくだけ。だから、選挙は政策で選ぶというマニフェストを広めて、有権者にも任命権者としての覚悟を持ってもらいたかったのです。そうして初めてデモクラシーは成り立つのですから。
尊徳 マニフェストという言葉は先生が広めましたけど、現在の手応えはどうでしょう。
北川 一時期は流行語大賞まで取って世の中に浸透しましたけど、最近は”サギフェスト”のように言われてしまっているところもあります。民主党が2009年に出したマニフェストは、結果としてはバラマキで、国民との約束を果たせませんでした。
安倍首相もアベノミクスで物価上昇などの約束をしました。できなければ辞めるべきだし、有権者も辞めさせるべきです。自民党はマニフェストという言葉を使いませんが、公約については注目されるようになりましたね。
マニフェスト運動は踊り場だとは思いますが、政策で議員を選ぶ、ということが段々と常態化してきています。解散がなければ、2015年4月の統一地方選でマニフェスト運動のリベンジをしようと思っています。地方選挙は政策が身近ですから、マニフェストと親和性が高いのです。
尊徳 党の選び方は、マニフェストの通信簿。それに尽きると思うんですが、自民党も進捗状況は芳しくない。定数削減の約束もほごだし。
しかし、野党があまりにだらしない! 大体、総選挙は政権交代ができる唯一の機会。千載一遇のチャンスがやってきたのに、選挙の体制が整っていない。アホか、って話ですね。前回の総選挙に大負けした次の日から、いつ選挙があってもいいように地道にマニフェストを作っていかないと。公示前2週間で決めるマニフェストなど、信用されないのが当たり前。
北川 結果は与党が圧勝。それが国民の選択ですが、そもそも解散の理由がおかしなものでしたね。増税を延期する、というのは経済政策の失敗ですので、百歩譲ってその信を問うならわかりますが(笑)。解散権は総理の専権事項で、伝家の宝刀と言われますが、抜かないから「伝家の宝刀」なんですけどね。
自民党も民主党も、政策を作る柱であるシンクタンクを自分たちで作っておいて、結局なくしてしまいました。これでは、政策が大事と言っていることに説得力を持ちません。
尊徳 先生ね、選挙民の意識が変わらないと政治も変わらないのはわかりますけど、制度上の問題もたくさんあります。文句を言うだけじゃなくて、もう少し有権者も行動しないと。国政選挙の投票率が52%なんて信じられないですよ。