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「18歳選挙権」でシルバー民主主義は変わるか

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自民、民主、維新、公明など共産・社民を除く各党は、国会に投票年齢を現在の20歳以上から18歳以上に引き下げるための公職選挙法改正案を提出。若い有権者が増えれば、若者の声がもっと政治に届きやすくなる。政治家が高齢者ばかり優遇する「シルバー民主主義」にも影響を与えるかもしれない。

2016年夏から18歳も投票可能に

改正案は主要政党が賛成しているため、6月24日までの今国会会期中に成立する見通し。選挙権年齢の引き下げはすべての国政選挙と地方選挙が対象で、さっそく2016年夏に行われる参院選から適用される公算だ。

選挙権の拡大は1945年に25歳から20歳に引き下げられて以来。来夏から適用されると有権者は約240万人増える。現在、20歳未満の未成年者は、成人よりも刑事事件を起こした際の刑罰が軽いため、公選法改正案には悪質な選挙違反を犯した場合は18歳、19歳でも成人と同様の刑事裁判を受けさせる規定を盛り込んだ。

国際社会では「18歳選挙権」が一般的

選挙権年齢が見直されるきっかけとなったのは憲法改正議論だ。第1次安倍政権は2007年、憲法改正の手続きを定めた国民投票法を制定。その中で憲法改正について最終判断する国民投票の対象年齢を「18歳以上」と明記した。

さらに一般の選挙と整合性をとるため、公選法の投票年齢も「18歳以上」に改めるほか、成人年齢を20歳から18歳に引き下げるという”宿題”を盛り込んだ。成人年齢の引き下げは関連する法律の数が膨大でなかなか結論が出ないため、まずは選挙権年齢の引き下げを先行して決めたというわけだ。

国内では唐突な選挙権年齢の引き下げに戸惑う声もあるだろうが、実は、国際社会では「18歳選挙権」が一般的だ。欧米諸国は1970年前後に選挙権年齢を引き下げており、いわゆる主要8ヵ国(G8)の選挙権年齢は日本を除いてすべて18歳。国立国会図書館の調べでは、世界189ヵ国で18歳までに選挙権を付与しているのは170ヵ国にのぼる。オーストリアのように国政選挙の選挙権年齢を16歳まで引き下げた国もある。

20歳以上に限っているのは中東やアフリカなどの一部だけ。隣の韓国でも段階的に引き下げており、今や日本は国際的に見てもかなり遅れた国といえる。

投票数で決まる日本のシルバー民主主義

現在の日本は超少子高齢社会であり、若者より高齢者の有権者が多い。それに加えて若者より高齢者の投票率が高いため、自然と政策は高齢寄りになりがちだ。

総務省によると2012年衆院選の投票率は60代の投票率が74.93%、70代以上が63.3%だったのに対し、30代は50.10%、20代は37.89%だった。60代は4人に3人が投票するのに対し、30代は2人に1人、20代は3人に1人しか投票していない。さらにこれを年代別の人口統計と掛け合わせると、20代の投票者数は545万人、30代が916万人だったのに対し、60代は1330万人、70代以上は1300万人にものぼった。

こうした状況下では、若者の雇用対策をしっかりやると発言するよりも、高齢者向けの社会保障を充実すると言った方が票に結び付きやすいため、政治家は高齢者ウケのいい政策ばかりを打ち出すようになる。すべての世代が支払う消費税率を引き上げ、高齢者向けに偏った社会保障給付を充実するというのはその典型例だ。これを「シルバー民主主義」と呼ぶ。

シルバー民主主義がはびこった結果、日本では巨大な世代間格差が生じた。今の高齢世代は自分が支払ってきた税金や保険料よりも多い額を年金や医療、介護のサービスとして受け取ることができるが、若者世代は支払いの方が多くなる可能性が高い。公的年金の積立額もどんどん減っており、制度の持続可能性に疑問がもたれている。

格差の拡大を止めるには高齢世代への社会保障給付を減らしたり、高齢世代の負担を大きくするしかないが、そうした政策を公言する政治家は少ない。例えば民主党政権時に当時の厚生労働相が「年金支給開始年齢の引き上げ検討」を打ち出したが、世論の反発を受けて瞬時に撤回した。その政治家は次の総選挙で落選し、引退に追い込まれている。堂々と本音を言えるのは、先祖代々の強固な地盤を持つ一部の世襲政治家に限られるのだ。

場所・時間を問わない投票制度が必要

選挙権の拡大はこうしたシルバー民主主義に一石を投じる。若い有権者が約240万人増えるだけでなく、18歳から投票を経験すれば20代の意識も変わる可能性があるからだ。若者の投票率が上向けば、政治家ももっと若者を意識するようになる。堂々と若者向け政策を訴える政治家も増えるだろう。

課題は投票機会の拡大だ。現状の投票制度は日曜休みの労働体系を前提としているが、若者には休みが不定期のフリーターや非正規労働者も多い。サービス業の発展で正社員であっても日曜の日中に時間が取れるとは限らない。労働形態の多様化に合わせ、誰でも、いつでも投票できる仕組みを整えるべきである。

かつて多くの国民が「普通選挙」の実現に向け、命を賭して懸命に運動した。次代を担う若者たちは「18歳選挙権」を重く受け止め、有効に活用しなければならない。

政治参加の意義を教えることが不可欠

「自分一人が投票しても何も変わらない」と言う若者がいるが、それではますます国が衰退していくだけだ。だからといって、参政権の行使を強要はできないので、一番大事なのは初等教育で政治に参加することの意義や、その重要さを教えていくことだろう。オーストラリアなど、義務投票性を採用している国もあるし、個人的には義務化にしてしまった方がいいとさえ思うが、日本では現実的ではないかもしれない。

投票は、国民に認められた権利なのだが、行使する人がどんどんと減ってきているのは国家存亡の危機だとさえ感じる。18歳の投票権と同時に、政治意識の教育も充実してもらいたい。