「裁量労働制」は社員にとって有利か、不利か

2015.4.2

社会

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 厚生労働省は、働く時間を社員が柔軟に決められる「裁量労働制」の対象を広げます。一定の専門知識を持つ法人向け提案営業職が新たに適用となり、数万人規模の対象者が増加する見通し。

 また、導入の手続きも簡単にして普及を狙います。2015年4月3日に閣議決定する労働基準法改正案に盛り込み、今国会で成立した場合、2016年4月に施行する予定。

 裁量労働制」は、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間だけ働いたとみなす制度。深夜や休日の労働には手当が出るという点で、ホワイトカラー・エグゼンプション(脱時間給制度、WE)とは異なります。

 対象となる労働者は、WEが年収1075万円以上のディーラーやアナリストなどの専門職1万人前後。一方、「裁量労働制」はデザイナーや弁護士などの専門的な知識が求められる”専門型”職種が約50万人と、企画や調査・分析など、アイデア勝負の”規格型”事務職が約10万人で計約60万人

 今回、範囲拡大となるのは普及が遅れる企画型で、数万人が増える見通し。企業の資金調達を支援する銀行員、事業に合わせた複雑な保険を勧める損害保険会社社員、企業の基幹システムを提案する営業職が対象です。

 「裁量労働制」は働く時間を柔軟に決められるため、子育てや介護との両立がしやすい一方、働き過ぎが増加する場合も。今回の手続き簡素化で労使の合意が不要になるのもあり、懸念も膨らんでいます

ニュースが”わかる”尊徳編集長の解説

Q裁量労働制」は働く時間を社員が柔軟に決められるとありますが、具体的にどういったレベルの変更が想定されているのでしょう? また、現状それを企業側は受け入れているのでしょうか?

A全面的に任せていて、企業はそれを受け入れているよ。その方が都合いいからね。

 労働基準法で決められた労働時間を守っていることを大前提に、企業側は、時間外労働には手当を出さなければいけない。でも、仕事によっては早く終わる場合もあれば、余計な時間がかかることもある。だらだらと仕事をしていれば、企業は余計な残業代を払わなければいけないこともあるよね。

 でも「裁量労働制」で仕事の量だけを取り決めておいて、その達成度で給料を支払うようにすれば、企業は時間を問わない雇用ができる被雇用側にとっては、働き方の自由度が増すよね。多様な価値観が出てきた時代だから、労働基準法に縛られずに制度も変えていきましょう、ということ。

 ただ、企業側が与える仕事量が、達成することが難しいほどの量の場合、”残業代カットのための制度”ということになりかねない。22時以降しか残業代が出ないからね。雇用者と被雇用者がちゃんと納得できる制度でないと、働く人のモチベーションが上がらずに逆に生産性が落ちることになってしまう。


Q国会で主な論点となっているWEの対象者は、1万人を切るとの試算があります。WEが導入された場合は、こちらも徐々に対象者が拡大するのでしょうか?

AWEの対象者は増えないよ、たぶん。景気が良くなってみんな賃金が上がってくれば別だけど。

 政府も経団連も、WEをもっと広げたかったんだ。20万人程度が対象になるようにしたかったけど、”残業代ゼロ法案”といわれて労働者の反発を買った。だから、年収基準を上げて対象者を絞った結果、最終的に年収が1075万円以上の専門職ということになって、1万人程度の対象者になってしまった。

 これではほとんどの人が関係のない制度になってしまう……ということで、もう少し緩い基準の「裁量労働制」で、時間に縛られない働き方ができる対象者を広げたかったというのが本音。
(佐藤尊徳)

 [参考:「裁量労働制の対象拡大 専門知識持つ法人営業職に」(日経新聞朝刊1面 2015年4月2日)

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