地方をどうにかしなければ日本が衰退する――。この問題に直面した安倍政権は、「地方創生」を成長戦略の柱の一つに掲げた。これまでも”バラマキ”と揶揄される地域活性化は行われてきたが、一体何が違うのか? 内閣府で地方創生を担当する平将明副大臣と、小泉進次郎政務官に、尊徳編集長が突っかかる!
地方創生はバラマキ政策ではない?
尊徳 今まで国主導で地域活性化策をやってきたけど、バラマキに終始して、結局うまくいかないという印象しかない。そもそも地方の活性化は国がやらなきゃいけないの?
平 バブル崩壊後の平成の時代は、日本の経済はほぼ停滞状態でした。一方で人口も減少するという構造的な問題もはらんでいます。
そこで、凍りついた経済を動かそうと、最初にアベノミクスをやりました。アベノミクスとは、大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間が投資をしたくなるような成長戦略という、経済成長に必要なものすべてを指します。民間にはできない、中央銀行や政府がやるべきものを一気に投入しました。全体として、非常に有効だと思いますが、地方では景気回復の実感が持てないという声があるので、追加的な措置として、”ローカルアベノミクス”をやりましょう、ということになりました。
尊徳 それは地方へのバラマキということでなく?
平 地方の問題は人口の急減と高齢化による経済の停滞ですから、その負のスパイラルを断ち切りましょう、ということです。佐藤さんの言う通り、今までも地方活性化策はあったし、うまくいってないというのは私も同感です。今までは、公共事業や補助金が中心でしたから。
ですが、今回の地方創生は地方版成長戦略だと認識しています。この25年の間にアジアも成長し、地方の産業にもビジネスチャンスが生まれてきています。観光業はインバウンドを狙い、1次産業は6次産業化、輸出産業化をして、さらに規制改革で需要の創出を生み、雇用の大きいサービス業は生産性の向上を目指すアドバイスをするなどして活性化させる、今までの補助金とは一線を画したものなのです。
国主導の地域活性化策は、結局うまくいかないという印象(尊徳)
性質の変化ではなく、量の変化で判断
尊徳 これまでとどんな点が違うのかな。具体的に決めていることがあれば教えてください。
平 今までのように定性的(性質の変化)に考えるのではなく、定量的(量の変化)に数値目標を作ります。「この村を良くしましょう」ではなく、「この村の取り組みはこう(具体的に)で、将来的にはこう(数値)なります」ということ。
これを実行できるように、つい最近、政府は「RESAS(リーサス、地域経済分析システム)」というビッグデータを地方自治体に開放しました。これを使ってKPI(重要業績評価指標)を作り、PDCA(Plan−Do−Check−Action)で実行してください、ということで、今までとは圧倒的に違うと思っています。
尊徳 う~ん、それでも今までの例だと民間の活力主導でやらないとうまくいかなかったと感じています。小泉さんは随分と現場を歩いているようだけど、実際の肌感覚はどうですか?
やる気がないところに補助金を出すことはない(小泉)
小泉 具体的な地域で面白いのは、徳島県の神山町、岩手県の紫波(しわ)町、島根県の海士(あま)町です。”地方創生のフロントランナー”ともいえるこれら地域に共通していることは、ピンチを経験し、強烈な危機感をもったことです。そして、国の力ではなく、住人たちの覚悟と自らの現状を知って奮起したということです。
まずは自分の地元のことを知れ
小泉 これからの地方創生はやる気がないところに補助金を出すことはありません。今までは”均衡ある国土の発展”を目指してきましたが、残念ながら実際はそうなっていません。これからは、町おこしの本当の成功例をつくって行くことが大事だと思います。地方創生は、そのための情報、人、お金の支援を、国がしようということです。とは言っても万遍なく、ということではありませんよ。
ところで佐藤さんの住んでいる町の人口をご存知ですか?
尊徳 僕は川崎市ですが、100万人超くらいですかね。
小泉 川崎は約140万人です。私の地元は横須賀ですが、演説会などで市民の方に同じ質問を問いかけます。すると、40万人という数字を答えられない人も多い。まずはそこからです。自分たちの町を知ることから始まるのです。「自分たちの町に何をしてくれるのか」と言う前に、わが町の人口、主な産業、人口流出があるとするならば、どこに流れているのか、などを知らなければならない。
その膨大なデータを提供するのが、先ほど副大臣が言った「リーサス」です。これは画期的なシステムだと思います。どこそこの商店街に、何時に何人の人が通った、ということまでわかるのですから。数値的な検証ができるので、効果的ならさらに厚く、効果薄ならやめるなど、データに基づく政治ができるようになります。
尊徳 国も限られたリソースでやらなければいけないけど、どう考えて配分するのかな?
地方創生で負のスパイラルを断ち切る(平)
平 「由らしむべし、知らしむべからず」という言葉があるように、昔から政治家は、人民を導いていけばよく、その道理を教える必要はないと言われてきましたが、そんなことが通る世の中ではなくなってきました。これからは情報をすべて公開します。ということで、「リーサス」は国民も数値が見られるようになっています。
自治体が変わる? 「リーサス」の可能性
平 今後は、「リーサス」を活用する首長や市長、地方議会の能力が問われます。数値を基に政策、論戦ができるようになるかどうか。
今はまだ告知段階なので、大臣以下われわれが全国に飛んで、「リーサス」の使い方を理解してもらわなければなりません。そういう意味では、一律にリソースを配ることになるのかもしれません。
尊徳 とはいっても、システムだけ渡して終わりではないでしょう。国はどのように介在するの?
平 中山間地、離島、など地方都市にはいろいろな特徴があって、農業、漁業、林業、観光など得意分野はさまざまです。国は、ベストプラクティスになりうるものをよく見て、応援をするということになります。アイデア自体は地元の人が一番わかっているのですから、国は主導しません。
小泉 先程言った離島の海士町は、地方創生の話をするときに誰もが口にする成功例です。私の父(小泉純一郎)が総理の時代、三位一体改革をやり、地方交付税を随分と削減しました。海士町も例外ではなく、当時の町長はそのときにシミュレーションをしました。すると、遠くない将来に財政破綻しかねないことがわかりました。「今やるしかない」と、町長は給与の50%カットを実施、町の役人さんたちも、自主的にそれに続きました。町民たちはそれを見て、自分たちも痛みを分かち合おうと、バスを値上げして町から出ていた補助金をカットしても構わない、と奮い立ちました。
同じバラマキでも人材はOK!
小泉 ここから、”奇跡の島”といわれる変貌を遂げていったのです。ヒット商品「さざえカレー」を生み出したり、島留学をやったり、CAS冷凍という技術で海産物を外に売るなど、次々とアイデアが出てきました。そして廃校寸前だった島前高校は、島の子たちだけでなく島外の高校生が就学を希望するようになりました。
尊徳 確かにそのケースだと国は大したことをしていないね。
小泉 町からは、文科省の役人を送ってほしいという要望があり、優秀な人材を派遣しました。地方創生人材支援ということで、全国69の市町村に、霞ヶ関の役人と民間人をマッチングして行っていただいています。お金を配るだけでなく、国と地方が寄り添って町作りをしようということです。
尊徳 しつこいけどね(笑)、それでも地方統一選のためのバラマキではないのか、と言われてましたよ。
小泉 お金だけだとダメですが、(優秀な)人材のバラマキはしてもいいと思います(笑)。
尊徳 効率的になるのなら補助金を出してもいいと思うけど、国は最低限のかかわりでないといけないね。それに、地方自治体も住人たちも、意識を変えていかないといけない。自治体は国の役所を「本省」と呼ぶし、上下関係じゃないんだから、一緒になって考えないと”本当の創生”はできないよね。