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大幅減益に見舞われたイオンが頭を痛める2つの病巣

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2015年4月、消費増税導入後に初決算を迎えた大手小売り各社。そこで見えてきたのは、消費の多様化と2極化だ。景気の低迷から価格競争一辺倒に走ってきた小売り各社だが、ここへきて付加価値の高い商品を求める消費の嗜好も顕在化、商品開発力の優劣が業績を左右する本来あるべき姿に戻りつつある。そんな消費市場で苦戦を余儀なくされているのが最大手のイオンだ。

ダイエーも足を引っ張る

イオンの2015年2月期連結決算で、同社の戦略ミスが浮き彫りになった。営業収益こそ対前期比10.7%増の7兆785億円だったが、営業利益は同17.5%減の1413億円にとどまった。同営業利益3433億円を叩きだしたライバルのセブン&アイホールディングスには大きく水を開けられた。もはや低価格が利益拡大の切り札にならないことを自ら証明した格好だ。

足を引っ張ったのは総合小売り(GMS)と、意外にも食品スーパー(SM)の不振だ。特に深刻なのがGMS。2013年8月に同社はダイエーを子会社化したが寄与したのは売上だけで、セグメントの営業赤字の温床となった。

GMSは、高度経済成長期、”作れば何でも売れる大量消費時代”に急成長してきたが、すでに消費は飽和しており、付加価値の高い商品へと顧客のニーズも転換。ネット通販や専門店の台頭と少子高齢化による核家族化も相まって、全国画一の品揃えに終始してきたGMSは”絶滅危惧種”と揶揄されるまで衰退している。”小商圏”に移行という時流のなかで、セブン&アイHDが同期比に過去最高益を牽引したのがコンビニのセブン-イレブンであることからも主役は交代した。

「イオンのGMSは消費の弱い地方に多く立地しているので、首都圏に強固な店舗網を持つスーパーに触手を伸ばしてきました。大消費地に店舗が多いダイエーを吸収できたことで、最低限のメリットは享受できましたが、ダイエー店舗は老朽化が進み、改装に伴う出費も膨大です。また、競合のSMが軒並み堅調なのに対し、イオンは、SMも苦戦している。これは商品政策の失策意外ありません。店舗改装費の負担に加え、商品政策の再構築という難題をクリアしなければならず、ダイエーを含んだGMS改革は容易ではありません」(業界関係者)という悲観的な声も多い。

窮地に立つPB戦略

商品政策では、プライベートブランド(PB)「トップバリュ」に課題が多い。グループ化による店舗網が拡大すればするほど、消費者からは「イオングループの店舗は『トップバリュ』だらけ。売場の新鮮味が失われている」といった厳しい指摘も出ている。そこで、ここへきて現在、約6000アイテムに達する「トップバリュ」の約4割を削減するという。そもそも「トップバリュ」の存在意義は、打倒NBではなかったのか。意地の悪い見方をすれば、事実上の敗北宣言ともとれる。

背景にあるのは2015年4月から施行された「食品表示法」にあるという。その中でイオンにアゲインストとなるのが、1年遅れで実施される製造所記号のルール変更である。現行では製造者と販売者が異なる場合、製造所固有記号を併記すれば良いのだが、新ルールでは、同一製品を複数の工場で製造している場合に限定される。1ヵ所だけの工場で製造された場合は、販売者に加え、製造者の名称と所在地の情報表記が義務付けられることになる。

「トップバリュ」の大部分の商品では販売者であるイオンの名称は記されているが、製造者に関しては、賞味期限の末尾に製造所個別番号が刻印されているのみだ。

ダブルチョップ

低コストの最優先があだに

競合他社のPBは基本的に製造者と販売者の名称が記されている(ダブルチョップ)。しかし、イオンは、製造者に関しては固有記号のみの表記に終始してきた。

「『セブンプレミアム』を筆頭に、大手小売りのPBではダブルチョップを当たり前のように採用しています。製造委託している大部分が大手NBメーカーだからです。片や『トップバリュ』の委託メーカーは認知度が低い中小メーカーが多い。これは消費者が商品を購入する上でマイナスに働きます。ダブルチョップを躊躇するのは、そんな意識が働いているからなのです」(同)

イオンのNB戦略は、より低コストで製造してくれる製造者との取引を最優先している。2013年に問題となった米の偽装も、同社のこの企業姿勢が大きく影響しているのは確かである。

イオンが「トップバリュ」のアイテム削減と食品表示法の改定が、必ずしもリンクしているとはいわないが、少なくともPB利益率の低下は、もはや避けられない状況。無理な規模の追求は”百害あって一利なし”と警鐘を鳴らしたいものだ。

ダイエーはイオンの試金石

ダイエーはかつて小売の売上高日本一だった。規模を拡大し過ぎて、今ではイオン傘下になってしまった。イオンもダイエーの二の舞にならなければいいが……。

複数の大手メーカー役員がこぼしていた。「イオンの納入価格はかなり厳しい。儲からない」と。商売なので、安い金額で仕入れることは責められるべきではないが、ステークホルダー(利害関係者)すべてに適正利益が落なければ、企業は発展しない。イオンの試金石だ。