2009年頃から運用が開始された仮想通貨ビットコインは年月とともに参加者が増え続け、2017年に入って価格が急騰、ブームのような状況になっている。しかし、ブロックチェーン技術を基盤とする仕組みによって価値が担保されるビットコインの概念は難解で、法的な面でも社会実装における課題は多い。仮想通貨や電子マネーの比較やブロックチェーンの可能性を通して、いま現在の仮想通貨がどんなものなのかの説明を試みた。
1年足らずで価値が5倍になったビットコイン
仮想通貨ビットコインの勢いが止まらない。今年に入り価格は高騰を続け、今年1月から10か月余りの間に1ビットコイン/日本円の相場は5倍以上に跳ね上がった。10月25日現在は、60万円前後で取引されている。また、相場取引だけでなく実際に決済に利用できる店舗やサービスも増加しており、2017年はビットコインが世界的に通貨としての地位を確固たるものにするターニングポイントとなった。
金融にもITにも詳しくない人には、ビットコイン(BTC)をはじめ、イーサリアム(ETH)、リップル(XRP)などのアルトコインを含めた仮想通貨が、普段からなじみのあるSuica(JR東日本)やWAON(イオン)のような電子マネーと何が違うのかという疑問が浮かぶ。
仮想通貨と電子マネーは、実際の紙幣や貨幣を必要としない電子決済手段という点では似ているが、実際にはその位置づけがまったく異なる。10月11日にSBI Ripple Asiaが開催した「Beyond Blockchainテクニカルプログラム」の発足会において、弁護士の堀 天子(ほり たかね)氏(森・濱田松本法律事務所)が解説した。
通貨とも電子マネーとも異なる仮想通貨
ビットコインに代表される仮想通貨の正確な定義とは何か。堀弁護士はこれについて「通貨的な機能を有し、電子的に記録された財産的価値で、特定の法定通貨との交換レートを安定的に推移されるように設計されているもの」と説明。加えて、資金決済法における定義を引き合いに出し、[1]決済したり交換したりできる価値、[2]価値の尺度、[3]価値を保護する機能という3つを有するものが仮想通貨であるとした。
仮想通貨は既存の法定通貨(円やドルなど、国の中央銀行が定めた通貨)や電子マネーと異なる位置づけにある。ポイントとなるのは、その通貨について責任を負う「管理者」の存在があるか否かという点だ。
「国の法律によって強制通用力が認められた法定通貨は、世界中のどこで使っても通貨としての価値が保証されている。民法上はこの強制通用力が担保されていない仮想通貨は『通貨』に該当しない。また、特定の発行者や管理者を置く電子マネーや有価証券とも違い、仮想通貨は取引の仕組みそのものへの信頼が価値の裏づけとなっている」(堀弁護士)
つまり、法定通貨は”国”が、電子マネーは”発行事業者”がその価値を保証してくれるが、仮想通貨は”取引の仕組み”そのものが価値を担保しており、その価値を保証する存在がいないことを意味している。ただ、それではビットコインのような仮想通貨は何の価値も無いことになるが、その価値を保証するための仕組みが、「ブロックチェーン」という技術だ。「分散型台帳技術」とも訳されるブロックチェーンは、ビットコインの登場によって一躍脚光を浴び、今や法定通貨や電子マネーを扱う事業者も注目している。
通常、銀行の預貯金情報や電子マネーのチャージ残高データといった「帳簿」は、その管理をする事業者がひとつの場所(サーバー)で集中管理するのが一般的だ。管理する銀行などの事業者がその帳簿に責任を負うことで、預貯金や電子マネー残高といった情報はお金としての価値を持つことになる。
それに対してブロックチェーンでは、取引に参加するすべての当事者に「帳簿」を持たせる。すべての取引内容は全参加者の帳簿に記録され、お互いに相違がないかをシステムでチェック。つまり、仮想通貨は管理責任者が不在である代わりに全参加者が管理者の役割を果たすことで、価値を担保していると言える。
通貨とは似て非なる仮想通貨 拡大する実取引における課題は
画期的な仕組みを持った仮想通貨だが、その利用をめぐっては、消費者を保護するためにも取引に一定の規制をしたり、既存の通貨をめぐる法制度との調整をしたりする必要があるといわれている。
日本国内における仮想通貨の取引については、今年4月に改正された資金決済法で仮想通貨の取引所に「仮想通貨交換事業者」としての登録が義務づけられることになった。しかし、堀弁護士は仮想通貨が店舗などリアルな場面での取引でも使用が拡大している点について、「今後は私法(民間人同士の関係に対する法律)的な観点での検討が必要な局面が増加することが見込まれている。取扱いに関する整理が必要だ」と指摘する。
私たちが日常的に行っているモノの売買や貸し借りなどは、すべて民法や商法に代表される私法によって規定されており、当事者の権利・義務や取引の安全を守るための整理がされている。しかし、先に説明したように仮想通貨は私法上の通貨には該当せず、財産的な価値は認められているものの、その位置づけは「解釈に委ねられる」(堀弁護士)のが現状だという。
「仮想通貨による決済や弁済の法的定義、仮想通貨が盗取された場合の権利者の権限、仮想通貨の相続や差し押さえなどが問題になる」(堀弁護士)
さらに堀弁護士は、民法が定める規定について、「民法上、所有権が認められるのは有体物とされ、財産権が認められる無体物には法的な裏づけが必要。判例ではビットコインに所有権は認められておらず、仮想通貨を所有権の対象とすることは難しい。加えて、管理責任者がいない仮想通貨では債務者(仮想通貨の金銭的価値を保証・弁済する人)がいないため、仮想通貨を債権とすることも難しい」と説明。既存の私法の枠組みから仮想通貨を説明することは難しい、という認識を示している。
そして現在、この仮想通貨の民法上の位置づけに関しては実務家を中心にいくつかの解釈論が示されているものの、議論は未成熟である点を指摘した上で、「そもそも仮想通貨は現実世界を前提としないオンラインネイティブの存在であり、ブロックチェーン上でやり取りされる仮想通貨を議論する上では、あくまでブロックチェーン上での振る舞いを評価するしかない」と堀弁護士。ブロックチェーンにおける価値の取引や決済への活用といった実態に合わせて、取引の安全を保護するための仕組みを検討していく必要性を提言した。
ブロックチェーン技術は金融分野を超えて拡大していく
このように、ビットコインの社会実装にはさまざまな課題がある一方で、その基幹技術であるブロックチェーンに対しては世界中で注目が高まっている。前述の通り、通貨や電子マネーなど価値を管理する責任者(事業者)が中央集権的にデータを管理する従来の仕組みは、責任の所在を明らかにできる一方で、そのセキュリティー担保に莫大なコストと知見が求められるという課題があった。しかし、取引に参加する当事者全員でデータベースを分散管理するブロックチェーン技術は、データの改ざんが不可能といわれていて、セキュリティーに強いという利点が高く評価されている。
その技術活用にあたっては、銀行業や証券業といった金融分野だけでなく、ポイントプログラムや医療、法務、会計、不動産といった非金融業分野にまで拡大していて、公的機関などをも含む幅広い活用が期待されている。しかし、その背景では、技術を使いこなして利活用を推進できる人材が十分に確保できていないという課題があるという。
SBI Ripple Asia代表取締役社長の沖田貴史氏は、こうした技術への注目が高まる一方で、「システム開発会社などではブロックチェーンに関する知識取得機会が限られている。ブロックチェーン関連技術を身につけた人材を戦略的に組織的に育成していく必要がある」と語り、「Beyond Blockchainテクニカルプログラム」を国内外の大手・中堅システム開発会社24社と共同で推進していくとしている。
「ブロックチェーン技術に関する勉強会やワークショップのほか、ブロックチェーンのクラウド基盤を提供してさまざまな実証実験を展開する。テーマとしては送金、未公開株式取引、ポイントプログラム、電子投票システム、トレーサビリティ管理などが想定されるが、技術進展のスピードを踏まえるとテーマを固定化せずに柔軟性を持つことが重要で、セレンディピティを見つけていくアプローチをとれればと考えている」(沖田氏)
jigo.
正直ビットコインは乗り遅れた感があるのでいまさら手を出そうとは思わないけど、ブロックチェーンの技術は気になります。金融以外にも応用できるって、具体的にイメージするのは難しいなあ。もう少し勉強が必要そう。
2017.11.24 14:10