政界再編の火ぶたを切ったのは江田憲司だった。13人の国会議員を引き連れてみんなの党を離党し、「結いの党」を立ち上げた。名前に込めたのは「野党結集」という大目標。江田の思いは”正夢”となるか、それとも永田町の大渦に巻き込まれて消えゆくか。江田の夢が叶えば一年後、永田町の風景はがらりと変わっている。
渡辺喜美の怨念が立ちはだかる
「政治理念と基本政策の一致を前提に野党勢力を結集し、与党・自民党に代わって政権交代可能な一大勢力をつくらなければならない」。昨年12月、結いの党代表に就いた江田は意気込んだ。新党を政界再編の「触媒」と位置付け、次期衆院選までに政界再編を起こせなければ議員辞職すると言い切った。
江田が思い描くのは政界大再編の「3段ロケット構想」だ。1段目が今回の新党。2段目は今春に日本維新の会と合流して再び新党を立ち上げる。3段目は今年末までに民主党の一部を加え、100人規模の新党を結成することである。江田の前には多くの壁が待ち受けているが、まず乗り越えなければならないのが「渡辺喜美の怨念」だ。
みんなの党代表の渡辺にとって、結党直後からそりの合わなかった江田の離党は”想定の範囲内”。むしろ同調者の数が問題だった。渡辺周辺は「多くて5人」と見積もっていたが、ふたを開ければ党所属議員の4割に達した。「創設資金を出した俺こそみんなの党のオーナー」と自負する渡辺は、江田への恨みを募らせた。
渡辺は14人の離党者のうち、江田を除く13人が比例選出であることに着目。「議席は党のもの」として、離党者に議員辞職を求めた。そして国会での活動の単位となる会派について、みんなの党会派からの離脱を拒否。新会派の結成を阻んでいる。
国会で会派の離脱は「所属会派の代表」が決めるルールであり、渡辺が拒めば江田にはどうすることもできない。他党の”良識”に活路を見出そうとしているが、解決には時間がかかる。1月下旬に通常国会が開幕しても、当面は実質的な活動ができない状況が続く。
維新も民主もバラバラで一筋縄ではいかない
次の壁が維新の会の路線対立だ。共同代表を務める橋下徹と石原慎太郎は、結いの党との合流構想に真逆の反応をみせる。橋下は「考え方がまったく一緒」と合流に前向きだが、石原は「護憲勢力だ」と拒否反応を示している。維新が分裂すれば合流へのハードルはぐっと下がるが、「それでは勢力を拡大できない」と橋下が否定的だ。
江田のいう今春の合流とは、通常国会において2014年度予算が成立する季節を意味する。つまり3~4月だ。橋下が国政に距離を置くなか、対立がくすぶる党内の議論がたった3ヵ月程度で収斂する可能性は低い。となると野党再編の動きが本格化するのは、今秋から年末にかけて。その時、カギを握るのは最大野党、民主党の動向だ。
「官公労を切り捨てて、維新の会や結いの党と合流する可能性はある」。民主党のある幹部は明かす。官公労とは「自治労」や「日教組」など公務員によって結成された労働組合のこと。民主党の有力支持母体である連合の中核を成すが、「公務員改革」を政策の柱に掲げる橋下や江田とは相いれない存在だ。民主党内の保守系議員にとっても日教組のドン、輿石東をはじめとする官公労系のリベラル議員は目の上のたんこぶである。
江田と連携する細野豪志や橋下と近い前原誠司、代表経験のある岡田克也ら、野田佳彦政権時代の”主流派”が海江田万里を代表から引きずりおろし、再び党運営の主導権を握る。そして官公労とリベラル系議員を切り捨てて野党再編の中心に立つ――。そうしたシナリオは永田町でにわかに語られ始めている。
江田が目指すのは「政権担当可能な一大勢力」。野党第一党となることはもちろん、所属議員が400人を超える自民党に少しでも人数を近づけなければ影響力を発揮できない。維新の会や結いの党は新人議員ばかりであり、民主党中堅議員の経験や人脈も必要だ。
組織力は「地方力」
3段ロケットの期限を年末としているのは、来年4月の統一地方選を照準においているから。統一地方選は4年に一度、自治体の首長や地方議会の選挙を一斉に実施するもので、44の道府県議選のほか、多くの政令指定都市で市議選が行われる。この選挙に野党勢力がまとまって臨み、多くの地方議員を誕生させなければ次期衆院選では戦えない。
選挙区の広い国政選挙では、各地域に根差して活動する地方議員の存在が欠かせない。実際にビラを配布したり、ポスターを掲示したり、演説会に人を集めたりするのは地方議員の仕事なのである。よくいわれる自民党の”組織力”とは、大勢の地方議員にほかならない。年内に野党結集が成功するかどうかで、次期衆院選へのインパクトは大きく異なる。
年末年始に誕生する新党は永田町の風物詩だ。みんなの党の渡辺が「12月新党は必ず失敗する」というように、実際に多くの政党が年末年始に結成され、そして消えて行った。渡辺を見返すには野党大再編の呼び水となり、”発展的解党”を遂げるしかない。(敬称略)