上場の陰で囁かれる日本郵政・西室社長の利益相反

2015.9.10

経済

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日本郵政の西室社長は、かつて、不適切会計問題で世間を騒がす東芝の社長も務めていた。11月上旬に日本郵政グループの大型上場を控えるなか、ここ最近、西室氏は東芝の経営陣の刷新人事に奔走していたという。日本郵政と西室氏と東芝、3者をめぐる動きを探る。

元東芝社長、現日本郵政社長の西室氏

不適切会計で社会的な指弾を浴びた東芝の新体制が決まった。9月下旬に開催される臨時株主総会での承認を受けて正式に発足する。新体制の要は三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏など大物財界人や学者、弁護士等7人の社外取締役を起用し、企業統治の刷新を図ることにある。取締役会メンバーの過半も社外で占められる。だが、東芝問題はこれですんなりと幕引きとはいかないようだ。そこにはいまだ明るみとなっていない元有力社長に絡む不透明な買収劇が影を落としている。

不適切な会計処理について、東芝の第3者委員会は報告書で「経営トップの関与等に基づいて多くのカンパニーにおいて同時並行的かつ組織的に実行又は継続され、経営判断として行われたと言うべきである」と厳しい総括を行っている。

結果、東芝は2009年3月期から14年4~12月期の約7年間を対象とする過去決算の訂正を行った。減額分は2130億円。この間に稼いだ税引き前利益の合計の4割近くに相当する大幅な減額であり、市場、顧客、株主を欺いた罪は免れ得ない。15年3月期決算は最終赤字となることも正式に公表された。

この惨憺たる状況を前に、東芝の歴代社長も失意の色は隠せない。「あんなことはあってはいけない。非常に大きなショック。悲しい」。日本郵政の西室泰三社長は、第3者委員会の報告書が公表された直後の7月22日の記者会見で、東芝問題の感想を聞かれ、こう嘆いた。西室氏は1996年から2000年まで東芝の社長を務めた。現在は相談役だが、東芝の非常事態にじっとしていられなかった。「戦後70年談話に関する有識者会議」の議長を務める西室氏は7月下旬、安倍首相を囲む夕食会で、「東芝は責任を持って再生させます」と首相に告げている。

西室
今世紀最大といわれる大型上場は、9月上旬にも正式な上場承認が下りる見通しだ。

今世紀最大の親子上場を成功させる鍵

このとき、西室氏は水面下で東芝再生に向けた経営陣の刷新人事に動いていた。刷新人事は社外取締役に三菱ケミカルの小林会長を招聘できるかどうかが鍵だった。だが、小林氏は「経済同友会代表幹事も務めており多忙」としてなかなか首を縦に振らない。その小林氏を粘り強く口説いたのは西室氏であった。西室氏自身も社長を務める日本郵政の上場を間近に控え、東芝問題に深入りする時間は限られていたにもかかわらず、だ。

そして今、マスコミの一部では、西室氏が持株会社の社長を務める日本郵政グループの大型買収案件と古巣東芝をめぐる利益相反の可能性がささやかれている。

日本郵政グループは11月上旬を目途に、持株会社である日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命を同時上場させる。世界に例を見ない3社の親子上場で、日本取引所グループによる上場審査は大詰めを迎えている。3社の初回売り出し額は合計で1兆5000億円程度となる見込みで、民営化案件の初回売り出し額としては、1987年のNTT上場の2兆円に次ぐ大規模案件となる。

上場が成功するかどうかは、日本郵政グループが描くエクイティーストーリー(成長戦略)の評価次第。つまりは、アキレス腱となる日本郵便の収益構造を、いかに引き上がられるかにかかっている。日本郵政グループの郵便・物流事業は2015年4~6月期も77億円の赤字となっているのだ。

西室社長と東芝をめぐる利益相反の可能性

そこで日本郵政が打ち出したのは、海外の有力事業者との提携および買収という”時間を買う施策”であった。まず2014年10月に、日本郵便が欧州物流大手のジオポスト(フランス)と香港のレントングループと資本・業務提携し、国際宅配郵便事業に本格参入するとぶち上げた。そして2015年2月にオーストラリア物流大手、トール・ホールディングスを買収することを決めた。

西室社長は、「(トールは)国際物流で最高の相手だ。世界でトップ5に入る国際物流グループになる」と豪語。しかし、このトールの買収こそ、西室社長と東芝をめぐる利益相反が疑われる案件にほかならない。

「トールに東芝がシステムを納入していたという情報がある。いわばトールは東芝の得意先というわけだ。そのトールを東芝の元社長で、現在も同社相談役を務める西室氏が社長である日本郵政グループが買収したことは、利益相反との関与が疑われてもいたしかたない部分がある」(大手日刊紙記者)

日本郵政グループによるトール買収と東芝との商取引は、あくまで別物であり、すぐさま利益相反というには無理があろうが、買収に際しては、両社の関係を開示した上で、公明正大な手続きを経る必要があったかもしれない。

東芝は特設注意市場銘柄として上場廃止は免れているものの、財務基盤の劣化は避けられず、国内外の株主などからの訴訟の可能性も残る。東芝の前途はまだ霧がかかったままだが、そこに日本郵政の西室社長をめぐる霧もかかるようでは、日本郵政3社の上場にも暗雲が立ち込めかねない。

西室氏は人格者だが”ダボハゼ”のようだ

 

西室氏は腰も低く、人格も立派な方である。僕も何度かお目にかかってそう思う。しかし、どのようなポストもホイホイと引き受け”ダボハゼ”のようだ。引く手あまたと言えば聞こえはいいが、人が逡巡するものであったり、決して得意分野とは言えないもの(例えばこの郵政会社)であっても引き受けてしまうのはどうか。

東芝の粉飾まがいの決算では直接手を下していないとはいえ、(社長、会長を歴任して)相談役として籍を置いていたのだから、次の東芝の人事に奔走するなど恥ずかしくてできないと思うのだが張り切って動いていた。やはり、そういう神経のない方なのだろう。

それに「李下に冠を正さず(誤解を招くような行動はすべきではない)」である。公(郵政は政府が株式を保有している)の企業に入るには、民間と縁を切ってから就任すべきだろう。