インバウンド・東京5輪の影響
2015年9月にインバウンド(外国人旅行者)は1500万人を突破、東京五輪開催時の2020年には3000万人超えも予想される。しかも彼らの大半は東京の空の玄関・羽田と成田を目指す。航空業界にとって追い風だ。JAL、ANA両社とも5年後の需要拡大を見越し、最新鋭のB787や開発中の国産ジェット旅客機MRJの調達に余念がない。
問題は受け皿。両空港の発着枠はすでに満杯で、成田は騒音問題の絡みから24時間化は無理。羽田は終日発着できるが、都心と結ぶ深夜の交通アクセスが不備で使い勝手が悪い。このため羽田ではさらに沖合を埋め立てもう1本滑走路を構築する構想もあるようだが、さすがに五輪には間に合わない。となれば、静岡や茨城など近隣空港や関空などに振り分け、地上は新幹線や高速バスでアクセスし、横田や厚木の米軍基地、入間の航空自衛隊基地を民間に開放……というウルトラCで凌ぐしかない。
一方”売り手市場”と高をくくりインフラ整備に消極的となるのは禁物。「日本~北米・欧州路線のハブ」として台頭する韓国・仁川空港の勢いが加速する恐れがあるからだ。羽田・成田はハブ空港どころか、単なるアジア・ローカル路線の終着地に成り下がりかねず、インバウンド3000万人と東京五論が皮肉にもこれを決定づけるかも知れない。そうなればJAL、ANAの世界的な存在感は下がる一方なのだ。
支援を受けずに積み上げたANAが業界の盟主に
航空業界(航空法)は、放送局(電波法・放送法)と並んで外資規制があり、外国人が3分の1を超えて議決権を握れないように規制されている。日本に限らず、ほとんどの先進各国に共通している。空の交通インフラは、国益に直結するものだからだ。
そのため、運賃は自由化になり競争は激化しているが、買収の脅威はあまりない。”親方日の丸”といわれたかつてのJALは、そんな状況にあぐらをかき、大きさゆえの傲慢さが出て、労働組合問題に代表される内部の争いに明け暮れていたようにしか見えなかった。
そんななか、ANAはコツコツと国内線網を築き、JALのつまずきもあって、その地位を逆転させた。今度はJALが追う立場になるが、一度地を這う経験をしたのは非常に大きな強みだ。ANAも追われる立場は初めてだが、さらなる切磋琢磨をして、日本の航空業界を盛り上げていってもらいたい。
日本にはJAL、ANA以外にもたくさんの航空会社があるが、フルサービスでどこからも支援を受けずに残っているのはANAしかない。アメリカでもかつて、パンアメリカン航空などが破たんしている業界で、規制がきついにもかかわらず、世界的にも競争が激しく、合従連衡を繰り返している。
また、日本は公租公課(燃料税や着陸料など)が、各国に比べて割高だ。着陸料の表が特集に出てくるが、成田や羽田は下がってきたとはいえ、トータルコストはまだ高い。特にアジア諸国との比較では圧倒的に劣るので、アジアのハブ空港になるには国を挙げて取り組まなければならない。