劇団四季の人気を不動のものにしたのはディズニー作品の影響が大きい。初のコラボ作品『美女と野獣』から2015年で20年。吉田社長に、第5作品目となる最新作『アラジン』の裏話と、四季とディズニーの関係を聞いた。
劇団四季、第二幕 吉田 智誉樹×尊徳編集長 カリスマから受け継いだ若き経営者を直撃
ミュージカルの核を探して
尊徳 四季といえばディズニー作品が人気です。最新作『アラジン』も盛況ですが、もう次の作品は考えているんでしょうか。2014年に大ヒットした映画『アナと雪の女王』は?
吉田 ミュージカルは表現の核になるものがないと成り立たちません。例えば『ライオンキング』では、核のない状態だとただの動物の着ぐるみショーになる。それをディズニー・シアトリカルのトム・シューマーカー社長が、ジュリー・テイモアという前衛芸術家を起用すれば、何かサプライズが起こると考えたのが成功のきっかけです。
『アラジン』では魔法のじゅうたんでしょうか。これを視覚的に成立させる技術が開発できたらからこそ成功したのだと思います。アナ雪はその核の部分をどうするか次第でしょうね。
尊徳 『リトルマーメイド』もブロードウェイで一度失敗していますからね。ローラースケートで海の中を表現したのでしたかね。
吉田 それでもディズニーは、ヨーロッパのステージ・エンターテインメント社と組んで、日本で成功しているフライングシステムの演出を作り上げました。ディズニーミュージカルが大人のお客様からも支持を得ているのは、舞台が”演劇的な表現”に満ちているからでしょう。
苦労して勝ち取った日本独自の表現
尊徳 四季とディズニーには20年培ってきた信頼関係がありますよね。『アラジン』にも日本独特の表現がありました。
吉田 こうした関係は一朝一夕にできたものではありません。最初の提携作品『美女と野獣』の時は大変でした。
テーマ曲「美女と野獣」という歌のサビは原詞ではまさに”Beauty and the Beast”ですが、まさか「美女と野獣」と歌うわけにはいかない(笑)。そこで浅利慶太先生が「恋心」と訳した。一音符”一語”の英語を一音符”一文字”の日本語にすると、残せる意味は3分の1以下。意訳は不可避です。この部分の相互理解が難しかった。
尊徳 浅利さんの意訳も大胆ですが洒落ていますね。
吉田 このときは双方困り果ててしまいました。実は、ディズニーを説得してくれたのはこの曲の作詞家ティム・ライス氏でした。四季は以前にティム氏の『ジーザス・クライスト=スーパースター』『エビータ』を手掛けており、そのとき同じ問題を彼と議論しています。
ティム氏は四季の”意訳”が日本人観客の心を動かすことを経験的に知っている。ディズニーもオリジナル作詞者の仲介ですから納得しましたし、結果この訳詞が成功を収めたことも実感できた。今では本当に良い信頼関係を構築できています。
尊徳 『アラジン』ではどうですか?
吉田 映画と異なり、舞台版の『アラジン』では、アラジンの亡き母親に対する追慕のセリフがあります。ブロードウェイではサラッと出てくる程度ですが、日本人は”母子もの”がお好き。ですから、日本版台本には、その要素が書き足されています。そうすればアラジンが歌うバラード「自慢の息子(proud of your boy)」がより感動的になるはずだと。
ディズニーとは制作過程で散々議論しました。しかし20年の信頼関係の賜物でしょうか。最終的には日本版にとり入れることになったのです。思い起こすと感慨深いですね。
今後も自分たちがやりたいアーティスティックな作品を取り入れていきたい(吉田)
莫大なコストの回収と作品選び
尊徳 魔法のじゅうたんを運ぶのに苦労したんですよね?(笑)
吉田 アメリカで製作し船便で運ぶはずだったのですが、西海岸の港湾組合のストライキで船がいつまで経っても出航せず、やむなく空輸に……。後で「魔法の絨毯なら、自分で飛んで来れば良かったのに」と言われましたけど(笑)。
尊徳 そこまでして掛けた莫大なコストは、自前の劇場を持ってる四季じゃないと回収できませんね。
吉田 コスト回収に数年掛かりますから、自前の劇場でロングランすることが前提となります。でもご覧になっていかがでしたか? もちろんコストは心配ですが、作品が素晴らしいもので、投資を回収できる見込みと冷静な計画があるなら、お客様を信じてチャレンジすべきだと思っています。
尊徳 経営と理念のバランスを取るのは難しそうですが……。
吉田 興業の成功と理念の実現。これらを両立させるには”どんな作品を(上演対象として)選ぶのか”ということが最も重要です。四季の作品にはすべて「人生は生きるに値する」というメッセージがある。このイメージを大切にしながら、新しいチャレンジを恐れずに進みたいと思っています。