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働き手本位から生まれた常識外れの働き方 未来食堂×パプアニューギニア海産

2017.11.20

社会

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11月5日、千葉県柏市の柏の葉蔦屋書店にて、未来食堂の店主・小林せかいさんと、パプアニューギニア海産の工場長・武藤北斗さんによるトークセッションが行われた。テーマは“これからの新しい働き方”。

 

未来食堂とパプアニューギニア海産に共通するのは、自由な働き方を推進している点だ。未来食堂はカウンター12席の小さな店とはいえ、従業員を雇わずに店を運営。パプアニューギニア海産は、従業員を縛りつけない雇用制度で働きやすい職場作りに成功している。

 

小林さんと武藤さんがそれらの仕組みを導入するにあたり、背景にはどんな考えがあったのだろうか? 両者の考えとともに、改めて働き方について考えてみたい。

未来食堂 店主

小林 せかい こばやし せかい

東京工業大学理学部数学科卒。日本IBMとクックパッドで6年半エンジニアを務めた後、幼い頃からの夢を叶えるため、1年4カ月の修行期間を経て、2015年9月、未来食堂を開業。ユニークな仕組みで飲食業に新風を吹き込み、「日経WOMAN」ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017の「食ビジネス革新賞」を受賞。著書に『ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由』 (太田出版)、『やりたいことがある人は未来食堂に来てください』 (祥伝社)がある。

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株式会社パプアニューギニア海産 工場長

武藤北斗 むとう ほくと

1975年、福岡県生まれ。芝浦工業大学金属工学科を卒業後、築地市場の荷受けに就職しセリ人を目指す。夜中2時出勤、12時間労働を2年半経験の後、父親が経営する株式会社パプアニューギニア海産に就職。2011年に起きた東日本大震災で石巻にあった会社が津波により流され、大阪に移転。会社を再建するなかで、「好きな日に働ける」「嫌いな作業はやる必要はない」など新しい働き方を思いつき、工場長として実践。著書に『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』 (イーストプレス)がある。

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毎日の営業を助けてくれる存在「まかないさん」

政府は現在、「働き方改革」を推進しているが、企業では残業が減って休日が増える一方、日々のタスク量は変わらず、一部の従業員がより大きなプレッシャーにさらされる結果を招いている。「実態に合っていない」と頭を抱える経営側も少なくない。そんななか、小林さんと武藤さんが導入する“自由な”就労方式は真逆と言っていい。

従業員を雇わずに店舗運営ができている未来食堂。ポイントになるのが「まかない」と呼ばれる独自のシステムだ。50分(ランチタイムと夜以外は2時間)働くと一食無料となるシステムで、所定の手続きさえすれば、誰でも自由に参加できる。「まかない」は開店前から閉店後まで、1日最大7枠あり、報酬はもちろん食事だけ。朝から夜までお手伝いしても給料が出るわけではない。そんな“まかないさん”(未来食堂で働く人の呼称)が働いてくれるから、従業員を雇わずとも店主の小林さんは一人で店を運営でき、黒字経営が可能となる。

未来食堂

東京・神保町にあるカウンター12席の定食屋。2015年9月開業。50分働くと一食無料となる「まかない」をはじめ、「ただめし」「さしいれ」「あつらえ」などユニークな仕組みで注目を浴び、「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」(ともにテレビ東京)など多くのメディアに取り上げられる。

調理は基本的に小林さんが担当。朝の荷物搬入や掃除、ランチタイム時の盆の上げ下げなど、特別なスキルを必要としない作業をまかないさんが担当する。保健所主催の細菌検査を受けると調理も可能となり、自分がやってみたい料理をメニューにすることもできるという。まかない目当ての人だけでなく、飲食店開業を目指す人やNPO主宰者、起業を考える人、学生など、いろいろな人が「まかない」に参加している。

「こちらからお願いするわけではないから、今日は4人来たけれども、明日は誰も来ないかもしれない。何度も一緒に働いた人が来る日もあれば、初めての人と2人で働く日もあります。飲食店未経験の人が大半ですが、いろんな仕事をしている人が来てくれるので、新しい発見もありますね」(小林さん)

未来食堂がまかないさんの協力で運営できている背景には、作業のシンプル化もあるかもしれない。例えば、未来食堂のメニューは日替わり一種類のみ。週の終わりに来たお客様と次週のメニューを決める。あれこれとメニューがなければオペレーションはシンプルになり、初めて働く人でも作業を効率的に進められる。また、夜はその日の店にある材料で、気分や体調に合わせて食べたいものを作ってくれる「あつらえ」も行っているが、まかないさんの存在によって、小林さんは客のオーダーに合わせたメニューに対応できる。一人で店を切り盛りしていたら、とてもそこまで手が回らないだろう。

好きなときに好きなだけ働ける「フリースケジュール」

まかないさんの自主的な協力で店舗運営を成功させている未来食堂に対し、パプアニューギニア海産は従業員の自主性を極限まで尊重し、従業員にとって都合の良い雇用環境を整備することで、労働環境を改善し注目されている。

株式会社パプアニューギニア海産

大阪・茨木市に工場を構えるパプアニューギニア産天然エビの輸入・加工・販売会社。1991年設立。武藤さんは、事前連絡無しに出勤日・欠勤日を自分で決められる「フリースケジュール」など、これまでの常識を覆す社内制度を導入。

同社の工場でエビの加工作業に従事するのは、近所の主婦を中心としたパートタイム労働者。彼女たちは好きな日に好きな時間だけ働く。つまり、出勤するのも、しないのも、一日に何時間働くかも、働き手の自由なのだ。しかも、嫌いな作業を申告すればそれをしなくても済むという。

働き手からすれば、こんな好都合な職場はない。子どもの具合が悪ければ行かなければいいし、逆に稼ぎたいときは多く出勤し、長く働けばいい。しかし、フリースケジュールという常識外れの働き方がなぜ成立するのだろうか……。「繁忙期に誰も来なければどうなるのか?」「働く人が増えすぎて人件費がかさむのではないか?」など、疑問は尽きない。フリースケジュールを考案した武藤さんは、パプアニューギニア海産に起きた変化を次のように説明する。

「従業員に判断を委ねることで、彼女たちは自ら居心地の良い職場を維持しようとしてくれます。だから、繁忙期にはみんな自然と集まってくれますし、辞める人がいなくなった結果、募集する必要も無くなって人件費は下がり、作業効率がアップしました」(武藤さん)

そしてもう一つ好都合なのは、フリースケジュールを導入するとシフト管理が無くなり、管理職の負担が激減すること。それに、会社に不満が無ければ従業員の勤務態度も良くなり、管理職がガミガミと細かいことを言う必要が無いため、嫌われる心配も減る。管理職といえども人間。自分を嫌っている人が大勢いる場所にいるのは気が重いものだ。

「働き方改革」に必要なのは自由な発想と柔軟な思考

2時間に及んだトークの中で、武藤さんは未来食堂の「まかない」を自社に取り入れた話を披露した。パプアニューギニア海産版の「まかない」は、袋にシールを張る仕事を一定量クリアしたらエビを一袋プレゼントするというものだ。その条件で人を集めたところ、すぐに定員に到達。そこには、これまで働いたことがなかった人も参加したという。その人は、シール張りがきっかけとなり、その後もパプアニューギニア海産で働くことになった。

「まかない」や「フリースケジュール」という働き方は、考案した未来食堂やパプアニューギニア海産だからこそ可能なシステムだと思うかもしれない。しかし、制度をそのまま適用しなくても、自分たちの会社に合う形にアレンジすれば、自由な働き方は実現できる可能性がある。

「フリースケジュールが注目を集め誤解されることもあるのですが、私たちは最初から自由な働き方を求めているわけではなく、働きやすい職場作りを目指した結果、フリースケジュールに行きついただけです。だから、大切なのはあくまで従業員の働き心地。それを最優先に考えれば、それぞれの会社で取り組む働き方改革の内容が見えてくるのではないでしょうか」(武藤さん)

「未来食堂の独自の空気感は私だから醸し出せるもの。私以外の人が店を切り盛りしたら、それは『未来食堂』ではないでしょう。だから、複数の店舗を持っているイメージがわきません。ただ、食材のロスを出さない日替わり定食の組み立て方などは、週に1回、半年ぐらいまかないさんを続けてくれればマスターできます。そうやって、それぞれの人が自分なりの『未来食堂』を運営してみればいいのではないかと思っています」(小林さん)

話しは戻るが、政府が進める「働き方改革」といえば、長時間労働や正規・非正規雇用の格差の是正、複線型のキャリアパスの構築など、トップダウンの制度改革がテーマとして語られる。しかし、働き手の自主性を尊重し、彼らに判断を任せる就労環境も、働き手が求めているものなのではないだろうか。

未来食堂では、自由に参加できる「まかない」で黒字経営が可能となり、パプアニューギニア海産では、「フリースケジュール」で従業員が働き心地の良い職場を作り上げた。それらはシステムが斬新なだけでなく、どちらもちゃんと事業経営の採算はクリアし、かつ継続可能な状況にある。

さて、トップダウンの制度改革によって働きやすさはどれほど手に入るだろうか? 「働き方改革」を進めるなら、もっと自由に、柔軟に、“働く”ということを根本から見つめ直す必要がある。

トークセッションが行われたのは、蔦屋書店をメインにカフェや雑貨店など個性的な専門店が揃う商業施設「柏の葉T-SITE」内、柏の葉蔦屋書店2階の柏の葉ラウンジ(千葉県柏市)。
1コメント

oumy

「ジタハラ」という言葉も最近よく聞くようになりました。 不満を言うだけでなく、働く側がどのように考えるかも大事ですよね。飲食の系統が違いますけど、ロイヤルホストが休業日を設けましたね。 でも一年で3日って。

2017.11.25 17:58

政経電論せいけいでんろん

「政経電論」の編集部です。佐藤尊徳(そんとく)編集長の下、若い世代に向けて政治・経済・社会問題を発信しています。イノベーションや働き方改革、北欧型の社会保障、国防、原発、クジラ等に注目中。

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