佐藤尊徳が聞く あの人のホンネ

【JADMA会長・阿部嘉文】ドメスティックなプラットフォームが生き残る可能性

2017.11.20

経済

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写真/芹澤裕介 取材/竹田 明

購買行動のデジタルシフトが進む昨今。2016年の国内におけるBtoCのEコマース市場規模は15.1兆円に達し、そのうち物販は6.9兆円を占める。“現代の黒船”ともいえるAmazonの台頭、ヨドバシカメラなど家電量販店の即日配送対応、ZOZOTOWNによる「送料自由」などの試みも話題となるなど、通信販売を取り巻く状況は刻一刻と変化。

 

その一方で、宅配便の取り扱い個数は年間40億個を突破。宅配大手のヤマト運輸が荷物の増加によるコスト増や過去のサービス残業分の賃金支払いで赤字に転落、Amazonが独自宅配網の構築に乗り出すなど、商品を届ける物流業界も変革を迫られている実情もある。

 

通販企業約650社を束ねるJADMA(ジャドマ、日本通信販売協会)では、通信販売とロジスティクス・物流の現状をどのようにとらえているのか? 尊徳編集長が、JADMA会長の阿部嘉文氏と、通信販売の今と今後を考える。

公益社団法人日本通信販売協会 会長/ポーラ・オルビス ホールディングス取締役(非常勤)/オルビス株式会社代表取締役社長

阿部嘉文 あべ よしふみ

1956年生まれ、秋田県鹿角市出身。早稲田大学教育学部卒業後、ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)に入社。ポーラ北九州販売社長、ポーラ・オルビスホールディングス総合企画室長などを経て、2012年にオルビス常務取締役、14年に同社・代表取締役社長に就任。16年から公益社団法人日本通信販売協会会長を務める。
公益社団法人日本通信販売協会

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株式会社損得舎 代表取締役社長/「政経電論」編集長

佐藤尊徳 さとう そんとく

1967年11月26日生まれ。神奈川県出身。明治大学商学部卒。1991年、経済界入社。創業者・佐藤正忠氏の随行秘書を務め、人脈の作り方を学びネットワークを広げる。雑誌「経済界」の編集長も務める。2013年、22年間勤めた経済界を退職し、株式会社損得舎を設立、電子雑誌「政経電論」を立ち上げ、現在に至る。著書に『やりぬく思考法 日本を変える情熱リーダー9人の”信念の貫き方”』(双葉社)。

Twitter:@SonsonSugar

ブログ:https://seikeidenron.jp/blog/sontokublog/

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JADMAは通販の自由で公正な競争を促進する業界団体

尊徳 ロジスティクスの問題を取り上げているうちに、そこに大きくかかわっているだろうJADMA(日本通信販売協会)に話を聞いてみたくなったんですよね。でも、よく考えると、どんな活動をしている組織なのか、一般の方々には見えない部分が多いことに気がつきました。そもそもJADMAはなぜできたんですか?

阿部 JADMAが設立されたのは、1983年。当時、通信販売は訪問販売も含めて新しい事業チャネルでした。新しいビジネスが立ち上がり、そこそこの規模まで市場が大きくなると、一定のルールを作って足並みをそろえる必要があります。当協会も、通信販売という新しいチャネルに自分たちで規制を設けて自由かつ公正な競争を維持するために設立されました。

公益社団法人日本通信販売協会/JADMA(ジャドマ)

1983年設立。特定商取引法の第30条に位置づけられた通信販売業界を代表する公益法人。消費者の信頼を得るため、また、通販業界の健全な発展のために、ガイドラインの制定、アフターケアの徹底、広告表現の適正化、通販110番での相談などを、消費者団体や官公庁の消費者窓口などと協力して進めている。

※ここでいう「通販」は、カタログ、ネット、DM(リーフレット)、テレビ、新聞・ちらし、ラジオ、雑誌などを介した販売を指す。

尊徳 なるほど。現在の通販市場の規模はどれぐらいなんですか。

阿部 物販を中心とした推計値では約6.9兆円。小売業としては百貨店業界を少し超えるぐらいの規模です。これだけの規模になれば、お客様に正しい情報をお伝えするためにルールの厳格化を推し進める必要もありますし、その一方で、日本は諸外国に比べ規制が強い側面がありますから、自由で公正な競争を促進するために、JADMAが先頭に立って良い意味での風穴を開ける必要性も感じています。

尊徳 規制に風穴を開けるのは難しいでしょう。役人だけでなく、長く業界で活動してきた人たちも慣習を大切にする傾向にありますからね。

阿部 まあ、日本という国はなかなか“手堅い”と言いますか、イノベーションの生まれにくい土壌を持った国です。規制緩和という面では政府との関係も丁々発止な部分がありますよ。

急激に変化する通販市場でJADMAができること

尊徳 ネットショッピングが拡大するのに合わせて、ロジスティクスも大きく様変わりしていますよね。インターネットの登場で「通販」のカテゴリーは広がり、定義があいまいになっている感もあります。

阿部 一口に通販といっても、いくつか異なる形態があります。ひとつは、カタログやDMを主体にした伝統的な通販。そして、インターネット上に売り場を提供する楽天市場やAmazonのようなEコマース。さらに、地方でしか手に入らない地元の産品や、規模の小さなメーカーが直売する自社通販です。Amazonは通信販売ではなく物流会社かもしれませんが、日本では大きく分けると通販の部類に入ります。

尊徳 通販にかかわるプレイヤーが増えて属性も広がれば、JADMAとしてもコントロールが難しくなりますよね。利益が一致する面もあれば、利益相反になってしまう場面もあるでしょうから。

通販という同じジャンル内でも利益衝突が起こるような状況になったなかで、衝突を避けながら、消費者のためにならない規制は取り払っていかなければならないという難しい立場にJADMAは立たされているのかなと思います。協会として、全体の利益を考慮してどんな施策を考えていますか。

阿部 消費者のことも考えながら、全世界をマーケットにしていかなければならないなかで、現行の法律・規制が必ずしもベストではないのは事実だと思います。政府にサービス業の効率化を促す政策をお願いすると同時に、日本として何ができるのかという大きな視点で考え、通販業界の枠を超えて行動することも必要です。

しかし、それぞれの業界団体には守らなければならないものもあり、業界内の話し合いには一切かかわらないスタンスを維持する外資の存在もあり、一筋縄ではいかないのが現実です。

ロジスティクスの問題は業界の垣根を超えた議論と協力が鍵

尊徳 ヤマトが赤字になったニュースが大きく取り上げられていますが、通販業界にとって物流は関係が深い。通販業界の視点から見て、ロジスティクスの問題点というか、どんな改善が必要だと考えていますか。

阿部 ポイントは、通販の会社と物流の会社がそれぞれ持っているシステムを、どうやって連携、連動させていくかだと思います。個人情報の問題もありますが、できるだけシームレスにつなげた方が、通販業界にとっても、物流業界にとっても、そして何よりも一般のユーザーにとって便利になります。業界の垣根を超えた議論と協力が日本の通販と物流を救うと思います。

尊徳 全体の2割が再配達を必要としているというデータもありますが、物流企業としては、再配達問題をなんとかしたいようですね。

阿部 そうですね。通販業界としても、再配達問題を解決するためにできることはあります。例えば、梱包。郵便受けに入るサイズで荷物を梱包することを徹底すれば、再配達が必要な場面を減らせます。留守中にも受け取れるように、個人宅に受け取り用のロッカーを設置したり、駅やコンビニ、駐車場などで帰宅途中に受け取れるようしたりするなど、取り組むべきことはたくさんあると思います。

尊徳 再配達問題をクリアするには、物流企業の努力だけではダメでしょうね。発送する会社、受け取る消費者の協力があって初めて解決できる問題なのかもしれません。

阿部 そうだと思います。私たち発送する側で、荷物にICタグを付けて管理がしやすいようにするのもひとつのアイデアです。自動運転や倉庫作業がオートメーションになることで物流の省力化は進歩していくと思われますが、発送の時点でICタグをつければ、途中の管理がしやすくなります。それぞれの業界、会社によって考え方はそれぞれでしょうが、スマートなロジスティクスを作るためには、互いに自分たちはどこまで投資できるのか話し合うのも重要なのではないでしょうか。

尊徳 GPSの精度が上がり、自動運転やドローンの活用が進めば物流は変わるでしょう。阿部さんがおっしゃったように、荷物を発送する段階で管理用のICタグを付けられれば、物流企業としては省力化につながります。実際に、物流企業側との話し合いの場は持たれているんですか?

阿部 今は物流企業が求めている値上げの交渉もあり、そこまでの話には至っていません。物流企業が苦境に立たされている背景には、Eコマースを中心にした通販の発展もありますし、日本の働き手不足の現状と今後を勘案すれば、双方で歩み寄る姿勢が必要でしょう。国土交通省や経済産業省を筆頭に政府のバックアップも求めたいところですね。

尊徳 政府は、何か新しいことを始めるとすぐに規制をかけようとする悪い癖を持っていますからね。安全性を考えればある程度の規制は必要ですが、イノベーションの芽を摘むような規制はやめてほしいですね。

阿部嘉文

日本企業とAmazon、2つのプラットフォームが併存するのかなと。

“黒船”Amazonといかに共存するか

尊徳 先日、経産省のOBの人と、「送料は上乗せ」みたいな大臣通達でAmazon対策を取れないのかねという話をしたんですよ。ヤマトや佐川急便など物流企業が厳しい状況に直面しているのは消費者もわかっているわけで。

阿部 まあ、はたで見ている限りですが、お役所も外資であるAmazonには影響力を行使しにくいのかなと感じることはあります。それに、Amazonは世界的な大企業ですから、自らだけで問題を解決できる力を持っている。そのため、日本国内の企業や業界が手を組んで日本式の問題解決にあたったとしてもAmazonはその方式には乗ってこないようにも思います。

尊徳 国内の企業に比べると資金力もケタ違いでしょうからね。余程の妙味がないと、興味を示さないでしょうね。

阿部 個人的な推論ですが、日本の企業が力を合わせてロジスティクスのプラットフォームを作り上げたとして、Amazonは自らのプラットフォームを投げ出すとも思えません。そうなると、2つのプラットフォームが併存するのかなと思っています。

尊徳 良し悪し、好き嫌いは別にして、Amazonはすごい組織でありシステムであることは間違いないですからね。僕も最近Amazonの軍門に下りました。「絶対にプライム会員にはならない!」と思っていましたが、会員登録しまして。なんだかんだいって、便利(笑)

阿部 Amazonに関していうと、国によって受け入れ方が違うのは面白いですよね。日本ではどんどんAmazonの存在感が大きくなっていますが、お隣の中国ではタオバオ(淘宝網)が圧倒的に強くてAmazonも思うように進出できていない様子。最終的にはグローバル市場でプラットフォームの一本化もあり得ない話ではないと思いますが、それぞれの国によって経済的な状況も価値観も異なりますから、ドメスティックなプラットフォームが生き残る可能性も大いにあると思います。

淘宝網/タオバオ

中国の電子商取引大手アリババグループのタオバオ社が2003年5月に設立したアジア最大のショッピングサイト。CtoCのマーケットプレイス。同社が運営するBtoCバージョンの「TMALL(天猫)」と合わせると年間取引額は50兆円を超える規模。

尊徳 日本ではAmazonがもっと存在感を示すような気がしています。

阿部 ご承知の通りAmazonはアメリカの企業ですが、日本進出にあたり日本人のニーズを巧みにつかんできたと思います。マーケティングのうまさは、JADMAも見習わなければならない点だと感じています。

尊徳 日本でAmazonが大きくなるのは、通販業界の規模拡大といえる。その一方で、Amazonが巨大になりすぎるとJADMAのコントロールが及ばなくなり、消費者が被害を受けるようになるかもしれない……。JADMAの会員もAmazonを活用して商品を販売しているだろうから、複雑な関係性ですよね。

商品はタダで届くわけじゃない

尊徳 日本でAmazonの存在感が大きくなると、物流にかかわる日本企業に影響を及ぼします。送料ひとつにしても、Amazonが「送料無料」と謳えば、国内のメーカーや小売業者も追随せざる得なくなる。消費者は「Amazonは無料なのに、なぜ送料がかかるの?」となりますものね。

阿部 実は、「送料無料」という表現を使っているのは日本だけなんです。「送料無料」と聞くとあたかもタダで物が運ばれているように受け取る人もいますが、物を運ぶには設備の費用も人件費もかかるわけで、発送側が“送料を負担”しているだけなんですね。

尊徳 日本人は“無料”という言葉に弱いですからね。

阿部 配送にかかる費用は、消費者ではなく事業者が負担するものだという意識が日本人の中には根強く残っています。この意識が変わってこないと、政府の通達ひとつで「送料は消費者の負担」とはならないと思います。

尊徳 2012年にZOZOTOWNの前澤(友作)さんがツイッターで「ただで商品が届くと思うんじゃない」という発言で炎上したのを思い出します。

阿部 物議を醸した発言ですが、非常に意味があったと思います。今後は、日本でもモノは人の労働によって届けられているのだという意識が広がると思います。JADMAでも「送料無料」を「送料当社負担」という風に表現を改めるように促していきたいです。

尊徳 とはいえ、商品によっては「送料負担」が難しい物もあるじゃないですか。100円の商品を買ってもらっても、300円の送料を負担したら、それは商売じゃなく慈善事業ですよね。

阿部 私は化粧品の訪問販売をしている会社で働いてきたのですが、訪問販売の場合、お客様に商品をタダで届けるのが当たり前なんですね。商品代金とは別に「交通費」をいただくわけにはいきませんし。その感覚が日本人の中に定着しているのかもしません。

尊徳 新聞や牛乳の配達も、基本タダでしたからね。でも、それはちゃんと料金の中に配達に必要な経費も含まれていたわけですから。

SPA、地方創生…通信販売の可能性

尊徳 最近はネット通販が使いやすくなり、メーカーが消費者に商品をダイレクトに販売するSPAが中・小規模の企業でも可能となりました。ユニクロのような大手なら自前の店舗を持てますが、中・小規模のメーカーだとそうもいかない。ところが、ネット通販を使えばそれが可能。通販という販売方法は、SPAと相性が良いと思っています。

SPA(製造小売業)

Specialty store retailer of Private label Apparelの略。企画から製造、販売までを一貫して行う事業形態のこと。ユニクロやH&Mなどアパレル分野に多い。

阿部 SPAの企業も当協会の会員となっています。今後はもっと増えるのではないかと感じています。特に地方のメーカーにとって通販は大きな可能性を秘めているのではないでしょうか。

尊徳 数年前から地方創生が叫ばれていますが、いまだに地方で考えているのは「企業誘致」なんかの古い発想。地方には地方にしかない魅力があるんだから、それを発信してビジネスにつなげればいいのに。

阿部 おっしゃる通りですね。JADMAは地方創生と切っても切れない関係にあります。地方発の物産や物品を通販という手段で販売することで、地方の活性化につなげたいと考え、セミナーなども開催しています。銀行や商工会議所とも組んで、地方の魅力的な商品を全国規模で販売するように働きかけているところです。

尊徳 ネットと通販を使えば、これまでは現地に行かなければ手に入らなかったものも買えるようになるわけですからね。

阿部 そうなんです。「ふるさと納税」が注目されたことで、地方の物産へのニーズがあることは証明されましたよね。ところが、通販をするにも、地方にはどうすれば売れるかノウハウが無いんです。やみくもに楽天やAmazonに出品するだけでは、砂漠の中からダイヤモンドを見つけてもらうのに等しく、簡単に消費者の目にとまりません。そこをうまくやるにはどうすればいいのかも、JADMAで取り組んでいかなければならない課題だと感じています。

尊徳 それぞれの地方が持つ魅力を生かすのが「地方創生」の本義だと思うので、阿部さんがおっしゃった地方の物産を通販で販売することは、もっと推進すべきでしょうね。そういう意味では、日本通信販売協会というか、通販自体の可能性はまだまだ重要になると感じました。