日本郵政傘下のかんぽ生命保険は1月24日、4月2日から新しい学資保険を取り扱うと発表した。2月にまとめる中期経営計画(2014年度~2016年度)の柱にする意向だが、肝心な中期経営計画と同時に発表するとしていた株式上場計画は「3月末までの発表ができるかというと、たぶん難しい」(西室泰三・日本郵政社長)と言葉を濁した。
羅針盤が壊れた郵政丸
西室社長は12月の会見で「親会社(日本郵政)の上場は確実にやる。そのときにどういう形態でやるのか、上場を発表するときに、金融2社(ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険)をどうするのかを書き込むのか書き込まないのかがキーポイントになると思う」と語っていただけに、後退感は否めない。西室社長の念頭には2015年春に日本郵政を上場させ、その後、4~5年以内には金融2社も上場させるシナリオが描かれているのだが……。
日本郵政にとって親会社である日本郵政の上場益は、東日本大震災の復興財源確保法で規定されている復興財源に充てられることが決まっており、早期の上場が不可欠。一方、金融2社の上場については、法律の建て付けでは最終的に全株を売却してよいと書かれているにすぎない。条件はまったく異なる。背景には政治的な要請がある。
そもそも郵政民営化が政治の中心テーマとなったのは2001年の小泉純一郎政権から。03年4月には民営化の前身会社として国営の日本郵政公社が設立され、総裁に商船三井出身の生田正治氏が就く。そして小泉首相は05年に異例の郵政解散へ打って出る。結果、自民党は大勝し、同年10月に郵政民営化関連法案が成立した。これを受け07年10月に民営化会社「日本郵政株式会社」が発足、初代社長に前三井住友銀行頭取の西川善文氏が就いた。
日本郵政グループは、持株会社である日本郵政株式会社の下に、郵便事業株式会社、郵便局株式会社、株式会社ゆうちょ銀行、株式会社かんぽ生命保険の4事業がぶら下がる形態に移行した。日本郵政の株式は政府が100%保有し、傘下の4事業会社の株式は日本郵政が保有する。そして、2017年9月末までに、日本郵政の株式についてはその政府保有分の3分の1超を残して売却、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式についてはその全部を売却することとされた。
しかし、その流れは09年8月の民主党への政権交代で一変する。民主党と連立を組んだ国民新党の亀井静香氏が郵政改革・金融担当相に就き民営化の巻き返しに出る。亀井氏は「純ちゃん(小泉純一郎元総理)がガタガタにしてしまった郵政の立て直しは、一丁目一番地の課題」と豪語した。民主党政権下の12年4月に成立した改正民営化法では、日本郵政の上場のみが明記され、旧法で決まっていた金融3社の上場は努力目標に後退。日本郵政の社長も西川氏から元大蔵省事務次官の齋藤次郎氏へ交代した。
政権が変わるたびに方針転換
しかし、2012年12月の自民党の政権復帰、第二次安倍政権の誕生で政府の方針はまたも劇的に変化する。その象徴が日本郵政の社長交代劇であり、13年6月に齋藤氏の後を受けた坂篤郎社長が更迭され、後任には郵政民営化委員長であった西室氏が就いた。日本郵政の新規業務などを審査する側の民営化委員長が、審査される側の日本郵政社長に就く異例の人事。渋る西室氏を口説き、日本郵政社長に据えたのは菅義偉官房長官であると言われる。その菅官房長官が西室社長に求めるのが、「日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の三位一体での上場」に他ならない。
その西室社長は、昨年10月23日の会見で次のように本音を吐露している。「望ましいアイデアというのは、3社がきちんと上場することが最終的な形だと思います。親会社だけ上場し、それで当分の間それ以外の会社が全く上場できない状況が、一番望ましくないと心の中では思っています」
結局郵政民営化とは何だったのか?
しかし、日本郵政の内部では「金融2社は上場せずにグループ内にとどめておきたい」との思いが根強い。また、主務官庁である総務省からも金融2社の上場に否定的な意見も聞かれるのも事実だ。そこには小泉首相時代の郵政民営化のトラウマが影を落としている。「旧郵政民営化法では、グループ会社は5社に分かればらばらで存在しなさいと。だんだん小さくなることはいいことなんだと。それでお互いにダメなところはダメで、潰れてもいいとは書いていないが、そう読まれても仕方ないような法律だった」(西室社長)。3社上場で再び各社がばらばらになりかねないと危惧されているわけだ。
また、3社上場のタイミングも問題となる。日本郵政1社の上場でも過去最大の上場案件になることは確実で、市場が消化できるかの問題は残る。さらに、上場に際しては、成長ストーリーを描かなければならないが、肝心な新規業務については認可の目途が立っていない。かんぽ生命保険の新学資保険は認可されたものの、ゆうちょ銀行の融資業務の認可に金融庁は慎重な姿勢を崩していない。「TPP交渉が決着しなければ日本郵政の新規業務の認可は動きようがない」(政府関係者)というのが実情だ。
「(日本郵政グループは)見かけ上は大変優良な会社だが、郵便物数は減少の一途をたどり、ゆうちょ残高は下げ止まったものの相当急激に縮小し、かんぽ生命の保有件数は明らかに減少している」(西室社長)。政治に翻弄され続ける日本郵政。安倍政権でその終止符は打たれるのか、上場までの前途は多難だ。