金融機関や機関投資家、ヘッジファンドなど、市場にはさまざまな投資家が参加する。チャートの回で、「株価は”投資家心理”でできている」という内容を書いたが、投資家の規模や形態によって、考えることも大きく異なる。個人投資家である自分たちはどんな立ち位置なのか、周囲を見渡して確かめよう。
個人資産を運用する 機関投資家
顧客から集めた資金を運用する投資家の総称。明確な定義はないが、「生命保険会社」「損保保険会社」「投資信託会社」「銀行」「年金基金」などが挙げられる。130兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は世界最大の機関投資家といわれ、その影響は絶大。
小泉進次郎議員が「いらない」と融資姿勢を批判した農林中央金庫も、約50兆円を運用する、金融業界では知らない者はいない巨大な機関投資家だ。保険料や年金、預金といった資金の性格上、長期的な投資をする傾向にある。
2015年は、個人投資家が投信から受け取る分配金が6兆円を超え、過去最高を更新。マイナス金利の影響もあって、比較的高い分配金を出す投信に人気が集まっているという。
経営ノウハウも提供する 投資ファンド
機関投資家が投資するような、より規模の大きい投資家。資金を集めて運用するという意味では投資信託などと同じだが、証券投資信託法などによって行政に管理されている投信と比べ、投資ファンドは行政の監督下にないものも多い。
また、経営不振に陥った企業を買収し、経営改善させて企業価値を高めた後に売却して利益を得る「再生ファンド」や、未上場企業に投資して経営コンサルに入り、上場させて利益を得る「ベンチャー・キャピタル」など、資金と合わせて経営ノウハウも提供する役割もある。
日本では、”モノ言う株主”として知られる村上ファンドが有名。資金的にも影響力を持つファンドだけに、良くも悪くも注目度が高かった。
投資ファンドはエグジットに至らない(資金を回収できない)ことも多い反面、期待値はかなり高い。
絶対利益主義 ヘッジファンド
相場がどんな状況にあっても絶対的な利益を出せるよう投機的に運用するファンド。広く集める公募型の投資信託とは異なり、機関投資家や富裕層など特定の投資家への私募(専門的知識を持つ投資家が対象)によって資金を集める。
情報開示の義務や投資家保護の制限がほとんどないために幅広い運用が可能で、空売りや先物取引などのデリバティブを積極的に使う。そのため、ハイリスク・ハイリターンになる。
2007年のサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融危機は、利益を求めたヘッジファンドがサブプライム証券に多額の投資をし、バブル崩壊とともに次々とヘッジファンドが破綻したことが要因になったといわれている。
国が余ったお金で運用する 政府系ファンド
政府の資金を運用する政府が設立したファンド。原油などの天然資源の輸出で得た利益を先進国に投資したり、貿易黒字で得た外貨を運用したりするなど、余剰資金が原資となっている。目的は、将来的に天然資源が枯渇した際の穴埋めや、対外債務の支払いに備えた蓄えに加えて、先進国の経済にかかわることによるノウハウの蓄積など。
主に中東のアラブ首長国連邦、サウジアラビア、クウェート、カタールといった産油国の政府系ファンドは潤沢な”オイルマネー”を持っているためにそのファンドも巨大なものが多く、市場においても大きな影響を与える存在になっている。ただ、シェール革命によって原油が供給過剰になり、原油価格が下落している現在は、オイルマネーは引き揚げの傾向にある。
売買の約6割を占める 海外投資家
日本に住んでいない投資家を指し、日本株の売買の約6割を占める(2015年)。株式の保有率も約3割あり、年々増加傾向。そのため、彼らによる”買い越し”が続くと株価は上昇すると判断され、逆に”売り越し”が続くと下落と判断される。
ボリュームのある海外投資家の動向を知ることで、その日の市場の方向性を推測することも可能だ。誰がどのくらい売買しているのかを示した統計「投資部門別売買動向」(東証が主に毎週木曜発表)も、株価を判断する材料になる。
市場の9割を占めるザ・大衆 個人投資家
全国4証券取引所の発表によると、2014年度の個人株主数は延べ4582万人。ざっくり1300万人と推測され、全体の9割以上を占めている。また、日本証券業協会の調査(2015年)によると、半数以上が60歳以上のシニア層で、20・30代は約1割。そして約半数が年収300万円未満。保有額も300万円未満が26%と資金もそれほど多いわけではなく、一般的な層で構成されているといえる。
資金も多くない個人投資家には、いくつか特徴的な株式売買の方法が見られ、期間の違いによって分けられる。代名詞ともいえる「デイトレード」は、その日のうちに株の売買を完結させる売買。数銭~数十銭の利幅を狙い一日に何度も取引する「スキャルピング」、数日で売買を完結させる「スイングトレード」、数週間~数カ月で売買する「ポジショントレード」などだ。
個人投資家の中には、DUKE。氏のように億の利益を上げる人もいるが、そこまで成功するのはごく一部。また、売買期間が短いほど手数料がかさむことに加え、パソコンに張り付かなければならなくなるのでできる人が限られる。資産形成の色合いが強いことからも、個人は積み立てによる長期保有のスタンスで臨むことが望ましい。