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三橋貴明が説く 今さら聞けない経済学

2020年東京五輪の経済効果

2016.07.11

経済

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2020年、東京五輪が開催される。15年12月、日本銀行はその影響で、日本の実質GDPが年に0.2%~0.3%押し上げられるという試算を発表した。本稿では、東京五輪開催の経済効果について、経済効果の意味という基本的な部分から解説しよう。

“経済効果”の意味

経済効果とは、”経済成長に与える効果”という意味である。すなわち、GDP(名目GDPではない)を幾ら増やすのか、である。

国民は生産者として働き、モノやサービスを生産し、顧客に投資支出してもらうことで所得が創出される。一連の所得創出のプロセスにおいて、生産、支出、所得の三つは必ずイコールになる。そして、所得創出プロセスの生産の合計こそがGDPだ。

とはいえ、生産、支出、所得の三つは必ずイコールになるため、GDPとは”生産の合計”であり、”支出の合計”であり、”所得の合計”でもあるのだ。つまり、生産面、支出面、分配(所得)面という3つのGDPは必ず一致するということになり、これを「三面等価の原則」と呼ぶ。

GDPは、まずは名目GDP(金額)で集計される。金額は価格変動の影響を受けてしまうため、実質的な生産量が増えなくても、物価上昇により拡大してしまう。というわけで、名目GDPから物価変動(GDPデフレータ)の影響を控除し、生産額ではなく、生産量の変動を見たものが、実質GDPなのである。

経済効果とは、”日本国内の生産量にどれだけの影響を与えたのか”を意味するわけだ。

日銀の試算

日本銀行は、2020東京五輪が日本経済(厳密には実質GDP)に与える影響について、主に二つの面から試算している。五輪開催前の建設投資と、五輪開催中(及びその前後)の訪日外国人に対する観光サービスの拡大である。

建設投資は政府や民間の土木・建設サービスへの支出になる。オリンピック会場設備など、政府の建設投資に加え、民間ホテルの新築・増改築や商業施設の建設など、民間主体の投資も含まれる。GDPでいえば、会場建設は「公的固定資本形成」、ホテルや商業施設の建設は「民間企業設備」という需要項目に該当する。

日銀試算では、訪日外国人増加と建設投資の拡大により、2015年から18年までの日本の実質GDPが、毎年+0.2%~0.3%程度押し上げるとのことである。2018年時点では、実質GDPの水準が1%、5~6兆円程度拡大すると見込んでいる。

すなわち、日本の生産者にとっては、生産を求められる仕事の量が全体で1%増えることになる。生産=所得であるため、東京五輪を開催することで、少なくとも日本国民全体の実質所得が1%増加するわけだ。

建設投資と観光サービス

建設投資の中で、単体としての金額が大きいオリンピックスタジアム(1,550億円)は2020年、競技施設や選手村(約3,000億円)は2019年が完成予定になっている。民間のホテル関連の方は、報道されているものだけで8,000億円を超す投資が行われる予定だ。

さらに、東京五輪に合わせ、首都圏3環状線や羽田成田直結線などの交通インフラに、約2兆円が投じられる見込みである。また、豊洲、築地、日本橋、銀座、品川、田町、新宿、渋谷、池袋といった都内の地域の再開発が計画されており、事業規模は約4兆円と見込まれている。

特に、交通インフラへの投資は、五輪終了後も首都圏の生産性向上に貢献するため、五輪後を見据え、新路線のみならず、既存の首都高などの耐震化プロジェクトも、同時に走らせるべきと考える。

ところで、昨今の訪日外国人観光客数は、観光ビザの要件緩和や円安により、着実に増え続けている。2011年以降の増加ペースが維持されると仮定すると、2020年の訪日外国人観光客数は3,300万人に達する。一人当たりの消費額が一定とすると、2020年の訪日外国人観光客の消費総額は、2015年の約2兆円から、約4兆円へと倍増する。

東京五輪開催の建設投資による経済効果は、ピークが2018年(約3兆円)で、その後は減少に転じるが、2019年以降は観光サービスの拡大がメインとなり、需要全体を下支えするだろう。

労働力不足の問題

もっとも、東京五輪で需要が膨らんだとしても、実際にGDPが増えるとは限らない。何を言いたいのかと言えば、労働力不足で供給が行われなければ、上記の経済成長の見込みは、見込みのまま終わってしまうという話である。

日本銀行の試算では、東京五輪関連の需要増で、追加的に必要な労働者数が70万人以上に達するとのことである。70万人と聞くと、膨大な労働力のように思えるが、2016年4月の完全失業者数は224万人であった。

日本政府は、五輪関連需要に労働者を向かわせるべく、公共事業労務単価を引き上げ、更に五輪後の需要(リニア新幹線や整備新幹線など)についても、ある程度コミットし、土木・建設企業などに処遇改善を促す必要がある。そうすることで、失業者が五輪関連需要で雇用されていき、我が国は完全雇用に近づいていく。

同時に、民間企業は生産性向上のための投資を拡大するのだ。五輪以降も需要が継続すると、民間企業では生産性向上のための設備投資や技術開発投資、人材投資を増やすことが可能になる。民間企業が投資を増やせば、当然ながらGDP上の「民間企業設備」という需要項目が拡大し、我が国はデフレ脱却に近づく。

そして、労働者の生産性向上は、実質賃金の上昇とイコールになるため、五輪関連需要の拡大は、我が国のデフレ脱却や実質賃金上昇の起爆剤になる可能性が高いと言える。

五輪起爆の後、将来の道筋を示す政党はどこだ?

 

経済効果とは、本稿の通り、市場に投資をして活性化させることだ。投資効率が高くなれば、乗数効果が高いとなり、より景気が良くなる。しかし、乗数効果が低く、需要がそれ以上に喚起されなければ、負債だけが膨らみ、将来にツケを残すことにもなる。

雇用が促進されれば、その瞬間は景気も浮揚効果があるが、将来に対する不安があれば、貯蓄に回り消費されないことになる。政府は、景気刺激策とともに、現在の日本が抱える、少子高齢化に抜本的なメスを入れなければ、対症療法をしているだけになる。

2020年の東京五輪で高揚感が生まれるのは非常に良いことだと思うが、祭りの後の静けさにならないように、その後の将来像をしっかり示さなければならない。どうも、その道筋を示す政党が見当たらないと思っているのは僕だけだろうか?

 

経世論研究所所長/経済評論家

三橋貴明みつはし たかあき

東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業、NEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立した。2007年、インターネット上の公表データから韓国経済の実態を分析し、内容をまとめた『本当はヤバい! 韓国経済』(彩図社)がベストセラーとなる。その後も意欲的に新著を発表。単行本執筆と同時に、雑誌への連載・寄稿、各種メディアへの出演、全国各地での講演などに活躍している。

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