現実路線で骨抜きに? 憲法改正案、自民が3月中に取りまとめへ

2018.3.5

政治

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現実路線で骨抜きに? 憲法改正案、自民が3月中に取りまとめへ

イラスト/山田吉彦

自民党が憲法改正案の議論を本格化させている。2月28日には憲法改正推進本部の全体会合を開き、焦点となっている9条について議論。安倍晋三首相が提起した「9条2項を維持し自衛隊の存在を明記する」案などについて意見を交わした。「教育の無償化・充実強化」や「緊急事態対応」などその他の重点項目も含め、3月25日に都内で開催する党大会までに条文案の取りまとめを目指す。

自民党内でも意見分かれる2項維持論

自民党は昨年10月の衆院総選挙で[1]自衛隊の明記、[2]教育の無償化・充実強化、[3]緊急事態対応、[4]参議院の合区解消――の4項目を中心に憲法改正を目指すと公約に盛り込んだ。教育充実と合区解消については条文の調整にめどをつけたが、最も議論が割れているのが自衛隊の明記だ。

現行憲法は9条の1項で「戦争の放棄」、2項で「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を定めており、長年にわたって2項に定める戦力の不保持と自衛隊の存在が矛盾すると指摘されてきた。これまでは「2項を修正するかどうか」が議論の中心だったが、ここにきて安倍首相は「できるだけ多くの多数派を得るためには2項も残さなければ難しい」として、2項を維持したまま自衛隊の存在を明記する案を打ち出した。

自民党憲法改正推進本部の2月の全体会合では2項を削除する案や維持する案、維持する場合は内閣について定める5章に記載する案や新たな条文を追加する案など5つの類型に分けて議論。2項の維持を主張する議員、削除を主張する議員の両者からさまざまな意見が出た。安保政策に精通する石破茂元防衛相は持論である2項削除を求めたが、仮に2項維持でまとまった場合は「党決定には従う」としている。

読めない公明党&国民投票の感情論

自民党内で2項維持案が了承された場合、次なるハードルが公明党だ。憲法改正案を国会で発議するには衆参両院で3分の2以上の賛成が必要。自民党だけでは足りず、連立を組む公明党の賛成が不可欠だ。

公明党は以前に「2項を維持した上で自衛隊の存在を書く」と主張した経緯があり、自民党内では「2項維持なら賛成を得られる」との声が上がる。ただ、改憲が現実味を帯びる現状においてすんなり賛同を得られるかは未知数。支持母体である創価学会などから反対の声が上がる可能性もある。

また、国会での発議にこぎつけたとしても、国民投票で過半数の賛成を得られるかは不透明だ。産経新聞とFNNが2月に実施した合同世論調査では2項を維持して自衛隊の存在を明記する案を支持したのが27.5%、2項を削除して自衛隊の役割や目的などを明記する案を支持したのが28.8%で拮抗した。また、9条を変える必要はないとの回答も40.6%に上った。今後、改正に向けた手続きが進み、改憲の現実味が増せばさらに慎重派が増えていく可能性もある。

実現を優先すると骨抜きに?

一方で、自民党が改正を目指すその他の3項目についてはすんなりとまとまる可能性が高い。

2016年の参院選から適用されている一票の格差解消のために人口の少ない選挙区を一つにまとめる「合区」の解消については、選挙の実施方法を定める47条に「人口を基本とし、行政区画、地域的な一体性、地勢等を総合的に勘案し」との文言を追加。参院選については「改選ごとに各選挙区において少なくとも1人を選挙すべきものとすることができる」との文言を加える方向でまとめた。

また、教育の充実については教育の無償化を盛り込むべきだとの意見があったが、財源の問題があるため「無償」の文言は見送り。教育を受ける権利や義務教育について定めた26条に「教育環境の整備」に関する国の努力義務規定を明記する方向となった。日本維新の会の主張に応じ、教育格差の解消に向けて「各個人の経済的理由にかかわらず教育を受ける機会を確保する」との文言も追加する。

「無償」も入れずになんて中途半端な書きぶり。はっきり言って何の意味も無い。ただの有権者へのアピールだな。

大規模災害などに備えた緊急事態対応については、大規模災害時などに国会議員の任期を延長する緊急事態条項を設ける方向。政府への権限集中や私権の制限については「公明党などの賛成が得にくい」として見送る方向で調整している。近く憲法改正推進本部の全体会合で議論し、3月中の取りまとめを目指す。

課題山積も時間は刻々と過ぎていく

安倍首相は昨年5月の憲法記念日に、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と表明した。それに向けては、今年9月の自民党総裁選で勝利し、来年の通常国会に与党の改憲案を提示。国会での承認を経て発議し、同年中に国民投票にかけるスケジュールを描いているとされる。

ただ、2019年夏には参院選がある。仮に発議前に参院選となり、与党や日本維新の会などの「改憲勢力」が勢力を減らして3分の2議席を割り込めば首相在任中の憲法改正は露と消える。かといって参院選前の発議に向けて審議を急げば「拙速」との批判を招き、国民投票で賛同を得られなくリスクをはらむ。2019年は天皇退位や新天皇の即位を控えており、政治日程も非常にタイトだ。

現行憲法の施行から今年で71年。安倍首相が祖父である岸信介氏から引き継いだ憲法改正はぐっと現実味を帯びたが、いざ実現するまでにはまだ多くのハードルが待ち構える。どんな手法で、どんな日程で実現するか。

首相にはじっくりと戦略を練る時間が必要だが、国会では森友学園への国有地売却問題をめぐる財務省の文書改ざん疑惑や、裁量労働制をめぐる厚生労働省の不適切なデータ処理問題で追及を受けており、改憲に集中する余裕がないのが現実だ。